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来訪

会合が終わって、結局炎嘉も龍の宮に残ったまま、ヴァルラムの来訪を待つことになった。

ヴァルラムは、あちらを夜明けに経ったと聞いていた…いくらあの力の持ち主でも、供を連れての道中あの距離を来るには数時間掛かるだろう。パッとこちらへ来る訳にはいかないのだ。何しろ、移動するには気が半端なく要る。あちらの気の性質上、それを長距離するのが無理なことは維心にも分かっていた。

しかし、午前中には着くだろうと分かっていたので、炎嘉が朝からうろうろと落ち着きなく歩き回っていた。

「少し落ち着かぬか、炎嘉。」正装の着物に身を包んで維月と共に並んで座っていた維心が言った。「苛々しても、到着は早くはならぬぞ。」

十六夜が、慣れない着物を着せられた状態で、椅子に完全に沈み込んで座りながら言った。

「そうだぞ、炎嘉。オレには見えてるが、ヴァルラムは10人の軍神と一緒にこっちへ向かってる。軍神達があんまり飛ぶのが早くないみたいだしよ。あと一時間ぐらいは掛かるんじゃねぇか?しっかし苛々してるみたいだぞ~。ヴァルラム一人だったら、きっともっと早く飛べるんだろうな。」

炎嘉が、十六夜を見た。

「そうか、主には見えるの。軍神は10人か。」

十六夜は、空を睨んだ。

「そう、10人。気は慎怜ぐらいか?義心ほどはねぇなあ。」

維心は、頷いた。

「確かにの。あちらの筆頭軍神が慎怜より少し劣るぐらいの気であったからの。確か、レムとか言う名であった。」

炎嘉は、ふーんと考え込むような顔をした。

「名が面倒よ。覚えにくい。」

すると、蒼が横から言った。

「言葉は、大丈夫でしょうか。」

維心が、蒼を見た。

「主、まだそのようなことを。別にどんな言語でも大丈夫であろう。それに、あちらもこちらへ来たらこちらの言語を使うのが礼儀。我とてあちらでは何ヶ国語を使い分けたかの。しかし主に英語であったわ。だが、ヴァルラムが使うのはロシア語であったな。」

蒼がうえ、という顔をした。

「全く知らないのに。かなり頭を使って言語を読まなきゃ分からないよ。」

十六夜の方を見て言うのに、十六夜は肩をすくめた。

「だから、こっちへ来たらヴァルラムも日本語話すだろうよ。気にすんな、蒼。お前の英語の成績知ってるからよ。ロシア語なんてもってのほかだよなあ。」

蒼は真っ赤になった。

「あのね!幾らなんでも英語はもう話せるようになったよ!何百年生きてると思ってるのさ、十六夜。」

珍しく維月が黙って微笑みながらそんな会話を聞いている。維心は、そんな維月を抱き寄せて頬を摺り寄せた。

「維月、正装は疲れぬか?長く待たせてしまうの。」

維月は、首を振った。

「いいえ、大丈夫ですわ。それより、維明を呼ばなくて良いのですか?」

維心は、首を振った。

「あれはまだ幼い。いくら体が育っておるからと、まだ15にしかならぬのだ。このような、初めて訪ねて来る王の前には、世継ぎの皇子は出さぬ方が良いのだ。」

それは、誘拐されたり、何かと狙われる対象になるからなのだと、維月は知っていた。なので、頷いた…つまりは、維心はヴァルラムを安全な王だとは思っていないのだ。

「本当に…神世に本当の平和が来るのはいつのことであるのか。」

維心は、頷いた。

「そうよの。しかし、尽力するよりないの。」

十六夜が、不機嫌に言った。

「おい維心。こんな時に維月にベタベタベタベタ。お前は何年経ってもそれじゃねぇか。毎日一緒に居るんだろうが。毎度思うが、よく飽きないな。感心すらあ。」

維心が言い返そうとすると、炎嘉が横から言った。

「ほんにそうよ。ただでさえ苛々しておるのに、そんなものを見せるでない!」

維心は、ふんと維月の肩を抱いた。

「我の正妃であるのに。何を言うておるのか、二人とも。訳が分からぬわ。」

またいつもの言い合いが始まる。蒼はうんざりとして、それを尻目に空を見た。もうすぐ、ドラゴンに会える…長く生きて、いいこともあるな。

ぎゃーぎゃーとうるさい三人も、それも緊張をほぐすいい息抜きになっているのだろうと、蒼は何も言わずにずっとそのまま空を見上げていたのだった。


ヴァルラムは、龍の結界を抜けた。

その強さに、その王の力を見た気がした。結界を抜けたということは、龍王にはこちらの接近が分かって通したということ。ヴァルラムは、一気に険しい顔をした。ここから、相手はどう出て来るのか…。

向こうから、強い気の軍神数人が飛んで来るのが見える。迎えに来た軍神だと分かったので、その場に留まって浮き、接近を待った。

青い甲冑に身を包んだその軍神は、頭を下げた。

「ヴァルラム様であられまするか。我が王維心様の命により、お迎えに上がりましてございまする。」

ヴァルラムは、頷いた。日本語…昔から、この言語には長けている。

「出迎えご苦労であるの。案内を頼む。」

その軍神は頭を下げた。

「は!こちらへ。」

明らかに自分達より強い気に、供の軍神達が俄かに緊張したのを感じたヴァルラムだったが、それよりもここの気があまりに濃く純粋なのに気を取られていた。吸収速度が異常なほど早い。その上、身を洗われるような清々しさがある。こんな気を、生まれながらに吸収しながら育った神の集まりであるのか…。

ヴァルラムは、真剣な表情で、龍の軍神達に促されるまま龍の宮へと降りて行った。


「…来たの。」

応接間では、維心が言った。十六夜も、頷いた。

「やっとって感じだな。もう昼過ぎちまってるじゃねぇか。」

維心は、ため息を付いた。

「維月は疲れて部屋へ帰ってしもうたしの。」

あまりに維心、十六夜、炎嘉が言い合うので疲れた維月は戻ると言って帰ってしまったのだ。蒼は言った。

「ま、いいじゃないですか。母さんが居るとまたややこしいことになるかもしれないし。居ないほうが何かと面倒がなくていいんですよ。」

維心は反論しようとしたが、口を閉じて頷いた。

「確かにそうよ。あれの気は他の神を惹きつけてしまう。これで良いの。」

応接間の、戸が開く。そして、そこには慎怜が立っていた。そして、サッと膝を付いた。

「王。ヴァルラム様をお連れ致しました。」

維心は、座ったまま頷いた。

「通せ。」

そして、そこへ入って来たのは、背が高く体格の良い、濃いブルーグレイの髪に金色の目の男だった。無表情で何を感じているのか分からなかったが、ぐるりと皆を見回すと、維心を見て言った。

「維心殿。急な訪問を許可頂き感謝する。」

維心は、頷いた。

「お互い様ぞ。こちらも急な訪問を受けて頂いたのでな。」と、蒼を指した。「これは、知っておるであろうが、月の降りる宮の王、蒼。そして、そちらが」と十六夜を指した。「陽の月、十六夜。そして、こっちが南の領地の王、炎嘉。皆、主と話したいとこちらへ参っておったのだ。」

ヴァルラムは、軽く会釈した。

「初めてお目にかかる。ドラゴンの王、ヴァルラムぞ。これは、軍神筆頭のレム。ほか我の軍神達ぞ。」

維心は、側の椅子を示した。

「掛けられよ。」

ヴァルラムは、そこへスッと座った。何のためらいもない。突然に月などと同席となると、他の神なら戸惑っただろう。現に、ヴァルラムの供の軍神達は少し不安げな顔をした。それでも、ヴァルラムの後ろに膝を付いた。

蒼は、そのヴァルラムを見て思っていた…これは、維心様を少しワイルドにしたような外見だけど、本当に整った顔立ちの王だ。母さんが居たら、見とれて大変だっただろう。感じは本当に維心様に似ているけど、もっと冷たい感じがする…。それにしても、日本語でよかった。

「して、急なご訪問、いかが致した?」

維心は、突然に話を振った。蒼はびっくりして意識を話に戻した。ヴァルラムは答えた。

「何も。ただ、お互いを知ろうと思うたまで。主が我の城へ来たゆえ、我も主の宮へと参った。我ら、お互いの地の王達を統べておるのだろう…ならばお互いを知らねばならぬ。世を憂いておるのは、何も主だけではないぞ。」

維心は、驚いたようにスッと眉を上げた。明らかに、踏み込んだ言葉だったらしい。維心は、じっとヴァルラムを探るように見て、言った。

「…我らは同じということか。主も、戦は避けねばならぬと思うか。」

ヴァルラムは、頷いた。

「やっと抑え付けた世ぞ。乱されては敵わぬゆえな。」

維心は同じように無表情で答えた。

「こちらも同じように思うておるぞ。主の管理はどこまで行き届いておると申す?支配下にある神の王がふらふらとこちらまで来ておっては、我も黙っておることが出来ぬであろう。迷惑極まりないが、こうなってしまったからには仕方がないと重い腰を上げたまで。」

ヴァルラムは、眉を寄せた。明らかにムッとしたらしい。しかし、維心は涼しい顔をしている。ヴァルラムの背後の軍神は気が気でなかった。またここで刀でも抜いたらどうやって場を収めたらいいのだろう。

しかし、ヴァルラムは動かなかった。そして、言った。

「…どこまでも似ておるな。ここへ来るまで、主のことを調べておったが、主は我とよく似ておる。此度のことにしてもそうよ。確かに、我の管理が行き届いておらなんだゆえ、あちらからこちらへの交流が始まってしもうたのは事実。我の責よな。少なからずこちらへ迷惑を掛けたことであろう。しかし、我とて此度のことには憤ったものよ。しかし、起こってしまったことは仕方がないと、こうしてここまでやって来たのだ。我らは、もっと知り合わねばならぬ。お互い、同じ考えで動き始めたのであるからな。」

維心は、じっとヴァルラムを見た。この考え方、我に似ている。なので、きっとこれは本音で言うている。だが、もっと知り合わねば分からぬ。神には、いろいろ居るゆえ…。

「では、しばらくここへ滞在するが良い。」維心は、言った。「我の結界内を、自由にして居って良い。客間を準備させよう。そうして、話して知り合ってみようぞ。」

ヴァルラムは、軽く頭を下げた。

「感謝する。」

ヴァルラムは、立ち上がった。今は、これ以上は話すつもりはないらしい。維心は、側の侍女に頷きかけると、ヴァルラムを案内させて客間へと移させたのだった。

結局、維心のほかは誰も一言もヴァルラムと話さなかったが、炎嘉だけが、じっとヴァルラムを最後まで見つめていたのだった。

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