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原点

碧黎が、十六夜達に続いてそこへ入って行くと、大氣が立ち上がった。そして、碧黎を見て言った。

「碧黎、主…。」

そこから先が続かない。大氣には、自分の居場所は分かっていたはずだった。何しろ、同じ力を持ち同じ命なのだ。だが、大氣なりに気遣って皆に居場所を知らせなかったのだろう。碧黎には、それが分かったので、軽く手を上げて、言った。

「良い、大氣。我も逃げておらずに、さっさとこうして居れば良かったのだ。知恵を出し合うより他、ないのにの。」

大氣は、ホッとしたように頷いた。

「そうか。それに気付いて良かったことよ。」

蒼も、気遣わしげに見ていたが、ホッとしたように肩を落とした。それを横目に、十六夜と維月、そして維心と並んで座り、皆は丸く円になった状態で座っていた。

「炎嘉は、王になってから忙しいみたいでそうそうこっちへも来られないみたいでな。今日は無理だって伝えて来てたよ。」

十六夜が言った。大氣が頷いた。

「良い。人数ばかりが揃ってもの。ここ数週間、何の進展もないわけであるから。」

維心が、維月の手を握ったまま言った。

「少し、考え方を変えた方が良いのかも知れぬ。我らの知識の中でどうにかしようと言うのが、そもそもの間違いであるやも。大氣ですら知らぬのであるから、恐らく碧黎でも知らぬ。では、主らの親ではどうか。」

大氣と碧黎は、意外であったらしく、両方の眉を上げて顔を見合わせた。

「…それは、無理ぞ。何しろ、我らはその存在を時々に感じるだけで、確かに居ると確信があるわけではない。増して会うなど。あちらは、我らの呼びかけになど応えたこともない。」

碧黎が言うのに、大氣も頷いた。

「そう。我など何度何もない空に向かって愚痴ったことか。地は二人なのに、我だけ一人とは。せめて、親と話せるようにして欲しいとな。だがのう、うんともすんとも返して来ぬのだ。なので、期待は出来ぬ。」

少し、拗ねているようだ。蒼が、それをなだめるように言った。

「まあまあ、今は維織が居るんだから。」と、十六夜を見た。「じゃあ、別次元は?ほら、以前向こうの維心様がこっちへ来ていた時があったじゃないか。あっちにはあっちの知識があるんじゃないか?聞いてみたら。」

十六夜が、そうか、と手を打った。

「お、いい考えだ!聞くだけ無駄でも聞いてみたらいいんじゃねぇか?長いことあっちとも交流してねぇしな。親父が作った出入り口、まだあるのか?」

蒼は、頷いた。

「あるよ。ずっとオレが管理してる。いつも軍神が二人居て、向こうから呼びかけがあったり、門に以上が出来たりしたら知らせるようにしてあるんだ。」

維心が、すっくと立ち上がった。

「ならば、行くぞ!一刻も無駄には出来ぬからの!」

蒼が、慌てて言った。

「え、でも維心様、あちらの政務は?今日は夕刻には帰られる予定であったでしょう。」

維心は、首を振った。

「ああ、あんなもの良い。どうせ宮の行事がどうの、我が居らぬでも進むことよ。それに、維明に代行をさせておるから、それぐらいのことは決めよるわ。さ、維月、参ろうぞ。」

維月は、維心に引っ張られて仕方なく立ち上がった。十六夜も、慌てて立ち上がって維心の反対側に立った。

「確かに何か対策が見つかっても、時間が掛かるとかだったら困るしな。早いに越したことはねぇ。」と、陽蘭と碧黎を振り返った。「親父、お袋は頼んだぞ。オレと維心は、維月の面倒見るから。」

碧黎も、立ち上がりながら言った。

「それはいいが、我らも参るのか?」

十六夜は、顔をしかめた。

「決まってるだろうが。あっちで方法が見つかっても、あっちでしか出来ないことかもしれねぇし。だったら、一緒に行ってた方がいいだろうよ。」と、ぶつぶつと続けた。「全く、他人事みたいに言いやがって。」

五人が先に立ってすっすと歩いて行くので、蒼も大氣も慌てて立ち上がった。

「次元の違う者達とも交流があるのか。我は、この次元がぐらついておった時、気になって見ておったが、あの時からか?」

大氣が蒼に言うのに、蒼は頷いた。

「そう。母さん達の前世のことなんだけどね。あちら側にも維心様が居て、こちらへ来ておったことがあった。もう、あれから数百年だけど。オレは、時々あちらからの呼び掛けに答えて話してたけどね。前世の維心様や母さんが亡くなった時も、知らせたんだ。とても悲しんでらした。そういえば、転生してからは話してないなあ。」

大氣は、感心したように目をきらきらとさせた。

「面白い。我は、次元を超えたことはなくての。行ってみたいもの…だが、維織を置いてそのように外出するのは心もとないの。」

いつも、自分のいいようにしかしていなかった、気ままな大氣が。

蒼は、そうやって維織を大事にしている大氣が、なんだか微笑ましかった。数千年の孤独の先に、やっと見つけた片割れなのだから、当然といえば当然なのかもしれない。

そんなことを思いながら十六夜達について歩いて行くと、あの時の門が、あの時のままそこにあった。両側に、月の宮の甲冑に身を包んだ二人が立っている。蒼を見ると、二人は膝を付いた。

蒼は、十六夜達に追いついて、前に出て言った。

「この門を、これから使う。主らはここで、我らの他こちらへ参ることがないように見張っておれ。侍女達が、何も知らずに落ちてしもうたりしたら、大変だからな。」

軍神二人は、頭を下げた。

「は!」

蒼は、十六夜と維心を振り返った。

「長くなるかもしれないし、オレは行かない。それで、大氣は結局どうするんだ?」

大氣は、物欲しげにその門を見たが、少し考えて、首を振った。

「今でなくとも、またいつなり行けよう。我は、維織をそんなに長く放っては置けぬ。これらについて参ったら、いつ戻って来れるかわからぬからの。」

蒼は、頷いた。

「では、維心様。龍の宮にはこちらからご連絡をしておりますので。」

維心は、頷いた。

「どうにもならぬ時は、将維に申せと伝えておけ。あれも前龍王なのだ。どうにでもせよとの。」

蒼は、頷きながら苦笑した。

「はい。」

すると、碧黎が手を上げて、その門は光り輝いたかと思うと、あちらの景色を映し出した。見えるのは、やはり木々だった。あの時も、森の中の木々の間、かなり上の方に門が開いていたっけ…。

維月が、懐かしく思い出していると、碧黎が言った。

「さ、参るぞ。主らも維月をくれぐれも落とさぬようにな。今度は黄泉に追いかけて参ることになるからの。」

維心が、がっつりと維月を抱きしめた。

「我は、絶対に落とさぬから。」

十六夜が、ため息を付いた。

「わかったわかった。じゃ、お前に任せるよ。」と、門に足を掛けた。「先に行くぞ。」

十六夜は、すっと向こう側へと消えて行った。それを見ていた軍神達も、びっくりして目を丸くしている。確かに、あんなものはあまり見るものでもないだろう。

それに、維心が維月を抱いたまま続き、そして碧黎が、陽蘭を抱いて飛び込んだ。

そして、五人は門の向こうへと消えて行ったのだった。


五人が龍の宮へと飛んでいると、慌てたような様子の軍神達があちらから飛んで来るのが見える。そして、忘れもしないこちらの維心と全く同じ気もそこにはあった。

「維心様!」

維月が、こちらの維心の腕の中で叫ぶ。こちらの次元の維心は表情を輝かせて飛んで来た。

「おお!おお維月…もう会えぬのだと思うておったのに!」

維月は、その維心に手を伸ばした。

「お久しぶりでございます。懐かしいこと…。」

維心は、その手を握りしめた。

「蒼より、主らが死んだと聞かされて…どれ程に苦しんだことか。」と、頬に触れた。「…どうしたこと。主、この気は人か?まさか、人として転生して参ったか?」

それにはこちらの維心が答えた。

「違うのだ。つまらぬことに巻き込まれて、維月と母の陽蘭の二人が、こうして神としての力を失って、人になってしまった。我ら、どうしたものかと相談に参ったのだ。」

別次元の維心は、首をかしげた。

「人に?ならば、主が維月を神格化させれば良いではないか。」と、少し怪訝な顔をした。「…そういえば、転生したのに我を知っておるのか?」

十六夜が、そうやって空中で話しているのに痺れを切らして言った。

「記憶を持って転生したんだよ。それより、宮へ行こう。その、神格化のやり方を、こっちじゃしらねぇから来たんだよ。さ、ややこしいからお前のことは前と同じにシンと呼ぶから。行こう。」

別次元の維心は頷いて、軍神達に合図すると、五人を伴ってこの次元の龍の宮へと飛んで行ったのだった。

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