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ヴァルラムは、その知らせをディークから受けて、ディークを直接城へ呼んだ。自分は、あちらのことを何も知らない。唯一知っているディークとレイティアに直接聞くよりないと思ったからだ。会うまでにある程度のことを知っておかねば、面倒なことになる可能性がある…。

ディークは、緊張気味に玉座に座るヴァルラムの前に進み出て頭を下げた。ヴァルラムは、ディークに言った。

「主に聞きたいことがある。」ヴァルラムは、いきなり本題に入った。「龍族の王、維心とはどんな王ぞ。」

ディークは、またか、と思った。あちらでも同じことを維心に聞かれて来たばかり。お互いに、お互いを探っておる状態ということか。

「は。」ディークは頭を上げた。「維心殿は、あちらを治めておる王の中の王。龍王とは、世を力で抑え付けておる存在でございまする。」

ヴァルラムは、思っていた通りのことに頷いた。

「聞いておった通りよな。して、本当の所、ヤツの気性はどうだ。我には落ち着いて見えたが、その無理に抑え付けておる気の大きさには我でも冷や汗が出たものよ。あれが己を隠しておってもおかしくはないしの。」

ディークは何と答えたものかと思った。自分は、深くは知らない。今の維心は落ち着いていて、確かに気は大きく怒れば恐ろしいことになりそうだったが、いつでも妃を共に機嫌よく座っていて、荒れたところを見たことがない。しかし、維心を良く知る回りの者の反応は違った。

ディークは、ヴァルラムをおそるおそる見た。ヴァルラムは、苛立たしげに言った。

「何ぞ?」

ディークは不機嫌に眉を寄せたヴァルラムを見て、隠し事はしない方がいいと思った。そして、言った。

「実は、我も穏やかな状態の龍王しか見たことがなかったのですが、回りの者達の話を聞いておると、どうもそうではないようでございます。」

ヴァルラムは、片眉を上げた。

「ほう?では、主の知り得たことを話せ。」

ヴァルラムの横で、軍神筆頭のレム、それに重臣筆頭のアキムがじっと黙って見ている。ディークは答えた。

「は。維心殿は、今は望まれた妃も迎えて穏やかにお暮らしでありますが、実は大変に激しい気性で、逆らう者は容赦なく臣下ですら斬り捨ててしまうような王であられ、望まぬ妃候補を連れて参った臣下を、その候補もろとも斬り捨ててしまったこともあるのだとか。それに、あちらが太平の世になったのも、維心殿がその力で逆らう種族を根絶やしにして見せしめとし、逆らう者を無くして行ったゆえであったようで…今は、あちらも平和に収まっておりまするが、全てはあの龍王がその力をもって生きているからに他ならぬのだと。」

ヴァルラムは、妃のくだりが出た辺りから眉根をぐっと寄せていたが、それを聞いた臣下達が顔を見合わせるのを見てため息を付いた。

「…同じような神は居るものよの。では、話は分かるのやも知れぬ。どちらにしろ単身こちらへ参ったことでも、あれがどれほどに度胸のある神であるかは分かるというもの。ほかに、あのようなことが出来る神は居らぬであろう。ま、あれだけの気を持っておれば、それも可能ということであるか。」

ヴァルラムは、じっと黙った。ディークは、何を言われるのかとハラハラした。レムもアキムも、気遣わしげにヴァルラムを見ている。とっくり10分は黙っていたヴァルラムであったが、口を開いた。

「…では、我とレムで参ろうぞ。左様遣いを出せ。」

それには、アキムが目の色を変えた。

「王!いくら我が王がお力をお持ちであっても、そのような!あちらは、東の知らぬ神の領地でありまする。そこへ、たった二人でお出かけになるなど…もしも王の御身に何かあったならば、跡継ぎも居られぬ今我ら路頭に迷うてしまいまする!」

ヴァルラムは、鬱陶しそうに手を振った。

「うるさいぞ、アキム。向こうがたかだか軍神10人ほどでこちらへ参ったのに、我が一個大隊連れて参ったら攻め入って来たのかと思われるであろうが。それに、あちらがあれほどに度胸があるのに、我が軍神達を引き連れてなど出来ぬわ。」

アキムは、それでも退かなかった。

「では、こちらも10人はお連れくださいませ!そうでなければこのアキム、とても王をこの城から送り出すことなど出来ませぬ!」

ヴァルラムに逆らうことがどういったことなのか、アキムには身に沁みて分かっているはずだった。それでも、言わねばならないことだった。それを知っているヴァルラムは、面倒そうに手を振りながら立ち上がった。

「好きにせい。レム、では主が10人選定せよ。時は七日後。遣いを出せ。」と、踵を返しながらディークの方を見もせずに言った。「ご苦労だった。下がって良いぞ。我は戻る。」

ディークは深く頭を下げて、すぐにそこを出た。何が起こるか分からない。しかし、自分は子達とレイティアを守るため、絶対に巻き込まれるわけにはいかないのだ。


維心は、会合で炎嘉が南の王へと返り咲いたこと、そして、大陸の王達のことを話して聞かせた。会合でそんなに発言することもない維心だったが、こればかりは炎嘉も知らぬことなので話すよりなかったのだ。炎嘉は、上座で維心と並んで座りながらそれを黙って聞いていた。常の反対だったが、炎嘉の険しい顔つきは会合の間崩れることはなかった。

二日目、大陸の件は大体話終えた維心が居間へ帰ろうとしていると、炎嘉がそれを呼び止めた。

「維心。」

維心は、振り返った。

「どうした、炎嘉?主らしゅうないの。ずっと険しい顔をしおって。」

炎嘉は、ふんと鼻を鳴らした。

「今までとは勝手が違うわ。我とて戦で大勢の部下を失って居るのだ。今居るのは、以前の筆頭と次席の軍神とそれについて参った軍神達。これらはかなり優秀であるゆえ、情報も集めて参るが、如何せん大陸のことは無理ぞ。主からしか聞けぬとは、心もとないことよ。」

維心は、炎嘉に向き直った。

「情報が少ないのは我とて同じこと。これよりは主も我と同席すれば良いではないか。我なら見過ごすことも、主ならば分かることもあろう。」

炎嘉は、憮然としながらも頷いた。

「まあ、そうするよりないの。」

維心は、フッと表情を緩めた。

「そのように構えることはない、炎嘉。何も、主に全てうまくやれと申しておるのではないではないか。」

炎嘉は、維心を恨めしげに見た。

「何を言うておる。主が我にこのようなことを頼りきっておったのは、前世で分かっておるだろうが。主が出来ぬのに、我が出来ぬと言うわけには行かぬ。」

維心は、苦笑した。この友は、いつもこうしてこちらを気遣う。無遠慮なようで、実は大変に気を遣う神なのだ。

「…主には、頼りっぱなしであったの。」維心が言うと、炎嘉は驚いた顔をした。「そのように気を張らずとも良いのだ、炎嘉。共に考えて参れば良いではないか。我とて学んでおるぞ?我には、維月が居る。なので、主一人に背負わせおった前世より、今生は少しはましになっておると思う。他者の気持ちというものを、理解できるようになって参ったからの。共に乗り越えようぞ。」

炎嘉は、横を向いた。

「何を婚姻を前にした王と妃のようなことを。鳥肌が立つわ。」

維心はふんと笑った。

「それでも良いわ。」

そうして、そこを立ち去って行った。炎嘉は、その後ろ姿に思った…確かに、維心は成長している。何も分からず神達の気持ちなど知る術もなく、そんなものは知らぬと思いやることも諦めていた維心が、他者の気持ちを理解してそれにあわせることを覚え始めている…こうして、我のことを思いやることまでやってのける。到底前の維心では考えられないことだったのに。

「…我は、主を守ってやるぞ、維心。」

炎嘉は、見えなくなった維心に向かって、小さく呟いた。


ヴァルラムが来るのは、会合が終了してから更に三日後と迫っていた。

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