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嫁ぐ娘

次の日の朝、神の世の理にのっとって、大氣と維織が揃って維月に報告に来ると、居間で待っていた二人の前に、十六夜が伸びをしながら出て来た。

「あーあ、早いな、二人共。」

維織は、思わず何度も見直した。今、間違いなく父は維心の奥の間から出て来た。

びっくりしている維織の前に、奥の間から維心と維月が揃って出て来た。維心は、いくらか不機嫌な顔をしていたが、維月は機嫌よく二人を見た。

「まあ。報告に来てくれたの?」

維織は、こくこくと頷いた。今、三人とも奥から出て来たみたいだけれど。どう解釈したらいいんだろう。

すると、横の大氣が、正面の定位置に座る維心と維月を見て言った。

「我の知りえた神世の常識とは、異なることが目の前で起こった気がするの。なぜに、維心の奥の間から十六夜が出て参るのだ。奥の間というのは、維心の寝室で、妃しか入れぬのではなかったか。」

それを聞いた維心が、ぐっと眉根を寄せた。

「…であるのにこやつが、どうしても泊まって参ると申して。」と、十六夜を苛々と見つめた。「この宮にある、こやつの部屋へ参れと申したのに。維月と離れるのが嫌だとか何とかで、結局三人で寝たのだ。」

十六夜が、ふんと横を向いた。

「月の宮でだって、こいつが維月と離れたくないとか言って、オレ達の部屋へ押しかけて三人で寝ることがあるんだぞ?なのになんでオレだけ遠くへやられなきゃならねぇんだよ。そんなわけで、オレも奥で寝たのさ。」

大氣が、眉を寄せた。

「ふーむ。我には分からぬな。あれは三人でも出来るものか。難しいの。」

維織と維月が真っ赤になった。維心が憎憎しげに言った。

「だから、三人の時はどちらも手が出せぬので、苛々するのだ!いくら我らでも、そのようなことはせぬわ。」と、大氣と維織とちらと見た。「して、主らは?婚姻は無事済ませたか。」

大氣は、頷いた。

「それを報告に参った。月の宮へ行かねばならぬかと思うておったから、十六夜も居ってくれたのは、我には幸運であったの。」と、姿勢を正した。「十六夜、維月、主らの娘、維織を、我の妻にと迎えた。これよりは、同じ不死の身、お互いを対として生きて行くと約す。」

十六夜は、微笑んで頷いた。

「よかったな。好きな男と結婚して欲しいってのがオレ達の願いだったからさ。維織は、大氣が本当に好きなんだろう。」

維織は、赤くなってうつむきながら、頷いた。

「はい、お父様。」

維月も、目を潤ませた。

「本当に良かったこと…思えば、維織は何かの責務があってこうして私達の子として宿ったのではって、お腹に入った当初お父様も言っていらしたけれど、それって、もしかして大氣の対の命としてだったのではないかしら。」

大氣が、驚いたような顔をした。

「…え?我の、対として?」

十六夜も、頷いた。

「そうなんだ。お前らが大陸へ行ってる間、維月と話してたんだけどよ、ちょうどあの頃、お前が親父に、不公平だと言っていたときだったんだよな。ほら、親父には対が居るのに、自分には居ないってさ。」

維月も、頷いた。

「そう。私達って、そうそう子が出来ないのよ。普通の命同士じゃないから。なのに、あの時は急に出来て驚いちゃって。それでお父様も、こういう時は、生まれるべくして生まれて来る命だって言ってね。でも、何のためになんて、私達には分からないし。」

十六夜は、維月を見て頷きながら言った。

「思えば、同じ先見の力を持ってたしな。こうなるのは、必然だったのかもしれねぇなあ。」

大氣は、呆然と維織を見つめた。我の、対。そう定められた命だったと言うのか。だから、共に居て心地よいと感じ、何よりも離しがたいと、離れる時には半身を引き千切られるような心地がしたのだと…。

「…そうかもしれぬ。」大氣は、そう言って維織の肩を抱いた。「維織と共に居ると、いつなり心地よくての。昨夜もそうぞ。あのような感覚、初めてであった。維心が、いつなり維月を追い回してくっついておるのが分かる。」

維心は、それを聞いて不機嫌に眉を寄せた。

「どういう意味よ。我はそればっかりではないわ。維月だって我を探してくれるし、我だけが追い回しておるのではない。」

十六夜が笑った。

「よく言うよ。いっつも追い掛け回してるくせに。」と、立ち上がった。「さ、じゃあオレも帰るか。蒼をほったらかしだしな。お袋は本体の地に帰ってるし、今気になるのは親父だけだな。」

維月は、十六夜が立ち上がったので、同じように立ち上がった。

「ええ。お父様は、落ち着いていらっしゃるの。だから、どこかへ行っちゃうとかないと思うんだけど。ただ…何か変わったことがあったら、また連絡するわね。」

大氣が、それを聞いて気遣わしげな顔をした。

「碧黎か。あやつ…己で選びたいとか言うておったし、我も気になるところ。我がこのように落ち着いたというに、今度はあれがとなると、気になるの。」

十六夜は、大氣を見た。

「お前、良かったらまた親父に話を聞いてくれねぇか。オレ達にはいわねぇことを、お前になら言うかもしれねぇし。で、住むのはどこにするんだ?龍の宮か?」

大氣は、首を振った。

「いや、月の宮へ参る。月の守りがあるし、あそこは我も安心する場であるからの。こちらは、行儀見習いにちょうど良い場ではあるが、住むのは少々騒がしい。」

維月は、苦笑した。

「ここは、神世最大の宮だから。たくさんの神が出入りするの…静かな所がいいなら、月の宮が一番ね。」

「じゃあ、蒼に言っとくよ。部屋を空けさせねぇと。」と、維月の額に口付けた。「じゃあな、維月。オレは帰る。」

「うん。何かあったら知らせて?」

十六夜は、維月に微笑み返した。

「そっちもな。じゃあ、また里帰りして来い。」

十六夜は、さっさと窓へ歩み寄ると、空を見上げた。そして、光に戻ると、月へと打ちあがって行ったのだった。



月の宮の準備が出来る間、大氣と維織は、仲睦まじく龍の宮で過ごしていた。大氣は、今まで感じた事のない安定した暖かい幸せを感じていた。維織が友と、結婚の報告の茶会をすると言うのでそれに少し顔を出し、たくさんの若い女神達にとっくりと見られてから、大氣は何とかそこを脱出して、庭の端へ来てため息をついていた。するとそこへ、ぶらぶらと歩いて、碧黎がやって来た。大氣は、維月達が言っていたことを思い出して、碧黎を見た。

碧黎は、何でもない事のように言った。

「主、片割れを見付けて幸せそうであるの。これで無茶はせぬようになると思うと、我もホッとするわ。」

大氣は、碧黎を見つめながら言った。

「…であるのに、主はどうよ。少なからず我のせいでもあるかと、落ち着かぬ。」

すると碧黎は、少し黙ってから、言った。

「まああれはの。良いきっかけだったと思うわ。我も、ここのところ違和感を感じておってな…己が地のためと、ヴァルラムの様子を見に参ったりするのに、いちいち有らぬ疑いをかけよったり、面倒だと思い始めておったゆえな。これも運命ぞ。なるべくしてなる。そうではないか?大氣よ。」

大氣は、それでも納得がいかなかった。

「しかし碧黎…同じ本体である以上、避けておるだけではどうにもならぬぞ。今、あれは本体に戻っておると聞く。主はどうするのだ。」

碧黎は、そばの草に触れながら言った。

「そうよなあ…別にどうでも良いのだ。我は本体に戻る気は無いし、あれがそうしたいならそうしておれば良いのではないか?」

大氣は、顔をしかめた。

「特別な存在では?」

碧黎は、まだじっと草を見ながら答えた。

「…実はの、なぜにあれに執着したのか、今では分からぬようなってしもうた。十六夜や維月の手前、何も言えぬが…今はお互いに、別の相手を探した方が幸福なのではと思うておる。別に子は要らぬし、相手が神でも良いのではないか?そうすれば、我も気が楽よ。あれに執着されるのは、面倒でならぬ。なので地になど戻っておらぬで、外で誰か探してはくれまいかと思う。」

大氣は、なけなしの神世の知識を動員して考えた。それは…かなり乱暴な事ではないか。同じ命としては、それはそうだなと言いたいが。

「それは…我はわかっても、神世ではならぬのでは?新しい女が見付かったとして、相手は何と申すか。」

碧黎は、肩を竦めた。

「わかっておるわ。主にだから申した。我らは、神世の婚姻など別にどうでも良いではないか。そんな欲求はない。なので、誰か気に入った女の側に居るだけで良い。だから、ここに居る。」

大氣は、ハッとした。だからここにと。

「…維月か?」

碧黎は、頷いた。

「我の愛娘。あれの側に居ると心地よい。別に維心のように身を繋ぐ衝動もないし。なのでこれでうまく行っておるではないか。我は、今以上などのぞまぬしの。あれは我を慕ってくれるし。」

大氣は、顔をしかめた。

「確かにそうかもしれぬが、神世では…」

碧黎は、うるさそうに手を振った。

「何ぞ?主、ほんに神に毒されて。だからあれと親子で充分なのだ。側に居るだけでの。我らは神ではない。ふりをしておるだけぞ。」と、浮き上がった。「話は済んだ。主は己の事を考えよ。我は良いようにする。」

飛び去る碧黎を、大氣は不安な気持ちで見送った。これは、もしかしてややこしいのではないのか。碧黎…本当にそれで良いと思えるのか。我なら、恐らくそうは思わぬ…。

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