表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/70

初対面

維心は、碧黎のことも気にはなったが、維月が解決に乗り出しているしで、自分は当初の予定通り大氣と共にヴァルラムの城を訪れていた。大氣にも、維心の着物を貸し与え、二人で正装をしてそこへと降り立った。

大氣は、やはりこの大気の化身というだけあって、それは美しい姿で、堂々たる風格を備えていた。普段は、ふらふらと飛び回っているだけでそうでもなかった大氣が、正装をしてそれなりの風情で歩いて行くと、あちらの神達のため息を誘っていた。

広い、恐らくは応接室であるだろう一室に招き入れられた二人は、そこでヴァルラムと対面した。ヴァルラムは、驚くほどに穏やかな雰囲気を身に纏っていて、維心は一瞬違う神かと思ったほどだった。

そのヴァルラムが、立ち上がって言った。

『遠路、よう来てくれた、維心殿。』

ロシア語だ。ここはヴァルラムの城の中なのだから、それが礼儀だろうと、維心もロシア語で答えた。

『久しぶりよな、ヴァルラム。この度は、大気の化身であるこちらの神、大氣を連れて参った。』

ヴァルラムは、大氣を見た。大氣は、無表情でヴァルラムを見ていたが、言った。

『…この度は、我の子と思われる娘が見つかったとか。面会に参ったのだ。』

じっと大氣を見つめていたヴァルラムは、頷いた。

『是非に会って頂きたい。その瞳の色、それに雰囲気がよう似ておる。』と、側の侍女に頷き掛けた。『ここへ。』

すると、側のドアが開き、そこからはクリーム色のドレスに身を包んで、綺麗に飾り付けられた女が進み出て来た。その瞳の色は、確かに大氣と同じ色で、髪は黒かった。アーラは、ヴァルラムの手を取って、大氣の前に進み出た。

『初めてお目にかかりまする。アーラと申します。』

震える声でそう言ったアーラを、大氣はじっと見つめた。確かに、我の気が混ざる。普通の神で、この色の気を持つ者はいない。間違いなく、あの時の赤子だ。

大氣は、頷いた。

『確かに、我の子ぞ。』

淡々としていて、とても生き別れの娘との再会とは思えなかったが、それでもアーラは嬉しそうな顔をした。これが、父上。これが、母上が恋したかた…確かに、何と美しいことか。

ヴァルラムは、アーラの表情を見て、嬉しそうに頷いた。

『ならば大氣殿、我からお願い申す。』大氣は、ヴァルラムを見た。『こちらの主の娘、アーラを、我の妃にいただきたい。ご承諾いただけるか。』

大氣は、これにもまた淡々と答えた。

『今更に我がどうのと言えぬことであるが、ヴァルラム殿、娘をお頼み申す。』

ヴァルラムは、それは嬉しそうに微笑んだ。そして、臣下に言った。

『我が妃が決まったと告示せよ!』

途端に、城中が大騒ぎになった。歓喜の声もあり、また宴などの準備を急がせる声もあり、しかしそれは総じて祝いムード一色だった。そんな雰囲気に圧倒された大氣が、じっと黙っていると、ヴァルラムが言った。

『いろいろ、お話がおありではないか?』

大氣は、ヴァルラムを振り返った。

『話?いや、特にない。』

面倒そうというわけでもなく、本当に話すことはない、と言っているようだった。ヴァルラムがためらいがちにアーラを見ると、アーラは、ヴァルラムに微笑んで、ただ首を振った。分かっていた。母は、恐らく一方的にこの父を見初めたのであろう。そうして、たまたま自分が宿ったのだ。父上にすれば、本意ではなかったはず。それでも、こうして自分を娘だと認めてくださったのだ。それだけで、アーラは、良かった。

維心が、進み出て言った。

『めでたいことよ、ヴァルラム。我からも祝いを贈ろうぞ。』と、ついて来た臣下を振り返った。臣下達が、厨子を捧げ持って膝を進める。『これは、我と、我が正妃維月からのもの。主の妃になられるアーラ殿に、頚連と額飾りを。』

このためにと、維月と共に選んだものだった。厨子を開いたヴァルラムは、感嘆の声を上げた。

『おお…これはまた何と細かい細工ぞ。こんなことが出来る職人は、我が城には居らぬ。』

アーラも、そこに並んだ美しい金細工と、埋め込まれた宝石との調和に目を奪われた。

『まあ…このように美しいものは、見たことがありませぬわ。』

維心は、満足げに頷いた。

『我が龍達は、細工が得意での。また来られた際には、見られるが良い。これは、維月が好む細工での…よく見ると、細かく花々が彫られてあろう。なので、アーラ殿にもとの。』

アーラは、維心に頭を下げた。

『ありがとうございまする、龍王様。』

ヴァルラムも、軽く頭を下げた。

『感謝する。この後、内祝いの宴があるゆえ、それに出席してもらいたい。』

維心は、頷いた。

『出席させていただこうぞ。』と、大氣を小突いた。『では、我らは控えの間へ。』

ヴァルラムが、頷いて側の臣下に合図すると、臣下の一人が歩み出て、頭を下げた。

『ご案内致します。』

そうして、維心と大氣は、控えの間へと下がって行ったのだった。



大氣は、月が昇った空を見上げた。いつもなら、龍の宮の庭で、維織と二人で見上げる月。このような遠い地で、一人空を見上げるのが、これほどに寂しいことだとは。それもこれも、自分が数十年前に軽い気持ちでしたことの結果。そう思うと、また大氣は沈んだ。これで、責務も終わった。宴にも、出よといわれたので出た。こうしてとりあえずの責務をこなしたのだから、少しは罪も軽くなろうか。

維織は、維心と二人で仕事に出かけたのだと思っている。そんな維織に、自分はこの事の次第を話さねばならぬ。維月は今、手伝ってくれるとは言っても碧黎のことで手いっぱいだろう。もっと、自分が神世に詳しくあったなら…。

そんな大氣に、維心は話し掛けた。

「大氣。明日にはあちらへ戻る。そのように暗い顔をするでないぞ。これで、主は責務を果たしたではないか。娘は嫁いだ。ヴァルラムならば、何不自由なく世話をしよう。とにかくは、主の娘として嫁いだことで、あれの地位も確かなものとなり、ここでも肩身も狭くなく、暮らして行けるのだから。」

大氣は、維心を見た。

「我の望み、叶えられようか。維織は我を、厭わずに居ってくれると思うか。」

維心は頷きも首を振りもしなかった。

「我にも分からぬが、しかしな大氣、主がそうして前向きに神世を知ろうとしておる姿勢は、きっと伝わると思うぞ。維月は明日戻って来るし、またその時共に考えようぞ。今は、とにかく休むことぞ。」

大氣は、頷いた。

「すまぬ。我は…焦っておった。」

維心は、笑った。

「ほんになあ。昔から知っておる主とは違うの。神らしくなったというか…情を感じる。昔は何と言うか、無機質に思えた。こちらの感情にも無頓着でな。だが、良いのではないか?維織と対に、なれると良いの。」

維心は、そこを離れて行った。大氣は、本気で月に祈った。そんなもので叶うとは思ってはいなかったが、それでも祈らずにいられなかった。

どうか、どうか維織が、我を許してくれるように。そうして、我と共に生きてくれるように…。



その祈られている月の二人は、その時もう龍の宮に居た。

陽蘭との話し合いは、話し合いではなかった。維月が、十六夜と話し合ってあった通りに告げるとすぐに、本体である地へと戻って、よく考えて来る、と言って、すぐに消えてしまったからだ。父よりは格段に力が弱いとは言っても地の片割れ、それを捕まえることなど、十六夜にも維月にも出来なかった。

なので仕方なくそのことを蒼に告げて、二人はその日は月の宮で過ごし、次の日、維心が飛び立った後にこちらへ戻って来ていたのだ。

そして、二人で一日、維心の居ない居間で話し合った結果、維織には二人で話すことにした。

維月にも十六夜にも、大氣が悪気のないことは分かっていた。しかし、神世に住む女を妃にと望むのならば、それなりの常識を身に付けてもらわねばならない。何より維織は、普通の神と恋愛して結婚できるようにと十六夜と維月が望み、この龍の宮でわざわざ育てたのだ。なので、すっかり神世の常識に通じて、その考え方で行動するようになっているのに、どうしてそれを常識を知らない神へと嫁がせたいなどと思うだろうか。

十六夜と維月は、維織が幸せになるように、つらくないように、それだけを祈っていた。二人の、初めての独立した命の子なのだ。前の子は命だけで、蒼に宿って終わりだった。今度は、赤子から育てた子。きっと、幸せに暮らして欲しい。

二人の願いは、それだけだった。

「じゃあ、ここへ維織を呼んで話すか。」

十六夜が、昇って来た月を見上げて言った。維月は、頷いた。

「ええ。維心様と大氣は明日には戻っていらっしゃるし、そうなるときっと、話すでしょうから。」

二人は、侍女を呼んで、維織にここへ来るように、と伝えさせたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ