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皆の成長

それから、100年近くが経過した。

神世の100年は、人の世の10年ほどの重み。若かった維心は重みのある龍へと変貌し、より一層前世の姿へと近付いた。こうして成長してみると、初めてまだ若かったのだなあと思い知らされる。前世の維心そのものだと思っていた姿でさえ、まだ前世の維心ではなかったのだ。

前世、あれほどに子を成した二人であったが、前世の子がまだ若々しいまま存命していることもあり、二人の間の子は維明ただ一人だった。その維明も、それは大きく成長した。100年前、将維の横で小さくなっていた維明が、今や身長だけなら維心と肩を並べるほどの大きさがある。だが、まだ人でいう二十歳になるかならないかといった外見だった。

維心は30代半ばぐらいの外見になっていたが、最近になって老いが止まったと自分でも感じていた。前世は、ここからが長かった。この先1500年もの間、生きたのだ。今生では、そこそこで逝きたいもの…。維心は、そう思っていた。

「お母様。」

維織が、維心の居間へと入って来て頭を下げた。維月は振り返って、微笑んだ。

「まあ維織。綺麗に出来上がったこと。やはりその着物の色目、あなたに良く似合うわ。」

すると、維心が維月の肩を抱いた。

「我の見立て、なかなかであろう?」

維月は頷いた。

「はい。維心様はご趣味がよろしいから…。」

維心は、機嫌よく維月の頬に触れた。

「しかし、主ほどの女はどこにも居らぬの。何と美しいことか。もっとよく見せよ。」

維心と同じ色目の衣装に身を包んだ維月は、困ったように微笑んだ。

「まあ、維心様ったら…なりませぬわ。維織が居りましてよ?」

維織が、困って下を向いて赤くなっている。維心は、それを見てフッと笑った。

「おお、そうよな。つい、居間では我を忘れてしもうて。では、参るかの。主も、祭りを楽しむが良いぞ。」

維心がそういうと、維織は頷いて頭を下げた。

「はい。ありがとうございまする。」

維心と、維月が歩き抜けて行く。

維織は、その後をついて行った。


維織は、もう人言う20歳ぐらいまでの外見に成長していた。最初、ここへ来た時には中学生だった維織が、見る見る成長して今ではもう、成人しているかのような外見だ。十六夜も、ここへ置いて帰った時にはこれほど長くここへ置くつもりはなかったのだが、思いのほかそれが功を奏しているようなので、こっちの方がいい、とまるで自分の宮のように、維織はここで住んでいる状態だった。

十六夜がこっちの方がいいと判断したのは、こちらでは、同じ年頃の神がたくさん居るからだった。

しかも、維織が月の子だと言わねば誰も知らない。なので、龍王の友の子として皆に紹介される形になっていた。すると同じ年頃の女神達も、構えることなく維織に話しかけることが出来、維織には友達がたくさん出来た。侍女達も、維月の娘なので皆好意的に、気軽に話しかけてくれた。お陰で維織は、神世のいいことも悪いことも、自然に皆友や侍女達から知ることが出来たのだ。

その上、維心の財力は果てがない。

なので、維織一人にいろいろと必要なもの、神世の流行のものなどを簡単に与えることが出来た。そして、神世の流行の最先端の染めも刺繍も、髪の形も何もかも、龍の宮では簡単に知ることが出来た。なので、維織は何不自由することなく暮らすことが出来たのだ。

もちろん月の宮でも何でも手に入ったが、龍の宮ほど神世と直結しているわけではなかったので、無い物もたくさんあった。

つまりは十六夜は、維織を今時の女神らしく育てたいと思ったのだ。そうならないと、良い嫁ぎ先も見つからないだろうと思ったからだった。神として生まれたからには、神の良い若い男と恋愛で結婚して欲しいと思うのが、十六夜だったのだった。

維織は、そんな十六夜の願い通りに、今時の女神に育った。それも、大変に美しく珍しい月の気を纏う、宮でも評判の人気ナンバーワンの女神だった。女神同士の恋バナなどのお陰で、恋愛というものも、しっかり知った。そうなって初めて、皆には維織が、維月と、月の十六夜との間の娘なのだと公表された…変な神が、維織を狙ってはいけないという配慮からだった。

高嶺の花の維織であったが、今もこの宮では人気が高く、そして気取らない維織は、男の神には近寄りがたかったが、女神達とは今まで通りに仲良く話していたのだった。


今日は、恒例の七夕祭りだった。

いろいろな宮の神が招待され出入りするこの日、維心と維月は並んで皆の挨拶を受けた後、広間に座って我先にと二人の姿を見る神達の視線に晒されていた。維月は、苦笑した。

「本当に…毎年まるで見世物になっておるように思いまするわ。維心様は、よくこれをお一人で長くされておったもの。」

維心は笑った。

「おお、主にはわかるか。ずっと続いておる行事なのだから、やめる訳にも行かぬでな。しかし、主が嫁いで来てからは耐えられる。常こうして横に居るのであるから。それを皆に知らしめるため、必要と己に言い聞かせておるのだ。」

維月も笑った。

「まあ維心様ったら…正妃なのですわ。他の神が私に某か無いと思いますわよ。」

そう言ったか言わなかったかの時、侍従の声が告げた。

「北から、ヴァルラム様、サイラス様お着きでございます。」

維心と維月は、ハッとして振り返った。そう、今回は大陸からも多数賓客を迎えている。広間の上の回廊に鈴なりになっている神達から、一斉にため息が漏れた…黒いマントを翻してサイラスが、そしてその前に深いブルーグレイのマントを翻してヴァルラムが、歩いて来たのだ。二人は、ここの神達が見慣れない洋服の、正装を身に着けて歩いて来る…それが、また二人の容貌に映えて、それは美しかった。ヴァルラムは、一層気難しそうな雰囲気になった、と維月は思った。一緒に捕らえられていた時には、少しは明るい様子になっていたのに…。

ヴァルラムが、にこりともせずに維心を見て、言った。

「此度はお招き感謝致す。我らにはない習慣であるが、せっかくのことであるから、ここまで参った。」

維心は、頷いた。

「長らく会わなかったものよな、ヴァルラム殿。」と、サイラスを見た。「主もの、サイラス殿。」

サイラスが、言った。

「まあ、つもる話は後ほどでの。炎嘉は来ておらぬのか。」

維心は答えた。

「ああ、そのうち来るだろうて。あやつは気が向いた時間にしか来ぬからの。いつも遅れて…」と、二人の背後を見て、フッと笑った。「ああ、来おったわ。」

二人は、驚いて振り返った。炎嘉が、赤い着物に身を包んで歩いて来た。

「なんぞ。先に着いておったかサイラスよ。主な、我に書状を送るのならこちらの言語にせぬか。別にそちらの言葉でも良いが、我は返事を書くのに面倒なのだ。臣下が書けぬから、我が自ら書かねばならぬのだぞ。」

サイラスは、笑った。

「もっと教育せよ、炎嘉。しかし遅れて来るのは同じよの。我らも今着いたばかり。あちらを出たのが早朝だったゆえな。」

炎嘉は、フンと維心の方を見た。

「維心、中へ入らぬか。毎年のこととはいえここは落ち着かぬわ。見よ、回りを。ヴァルラムとサイラスが珍しいゆえ、余計に騒いでおるではないか。また維月が悪い気にあてられて具合悪くなったら何とする。」

維心は、慌てて維月を見た。今日の維月は、元気そうだ。

「…そうよの。元気なうちに奥へ入ろう。」と、維月の手を取って立ち上がった。「参るが良い。我が居間へ。」

そうして、維心と維月が並んで先を歩く中、炎嘉とヴァルラム、サイラスは奥宮へと戻って行ったのだった。

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