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こちらでは

レイティアは、ディークと共にディークの国の応接室で座っていた。二人の間の子、リークはもう身も大きく育って来ているが、まだまだ赤子のようなもの、姿も人の世でいう5歳ほどの大きさだった。しかしそれが神の世の常識なので、別段おかしいこともなく、ディークの城で世継ぎとして大切に育てられていた。リークにしてみれば、母は別の国の王で、父と母が別々に暮らしているのはおかしなことではなかった。妹が居るが、それも女だから母の国で母の跡継ぎとして育てられていて、お互いに行き来する母と父について、またお互いが行き来するので顔を見るだけであったが仲も良く、兄弟姉妹とはそんなものなのだと思っていた。

そんな生活をしていて十数年、レイティアは険しい顔をしていた。ここへ、本日ドラゴン族の王が直々に訪ねて来るという。その王は、大変に力が強く世の中を睨みつけるような形で治めていて、他の国の王達もその力に抗えないのでおとなしくしていた。しかし、龍族の王である維心を既に知っているレイティアとディークにとって、その王は二番目に強い気を持つ王でしかなかった。だが、自分達を治めているといっていいほどの王が、しかも滅多に城から出ないことで有名な王が、わざわざ宮を出て忍びでやって来るとはいかなることか…。

レイティアは、悪いことでなければいいが、と思って、ただ待っていた。


ドラゴン族を治めているのは、ヴァルラムというドラゴンだった。生まれながらに強い気を持つため、その能力も手伝って、王座に就いてもう、1000年にはなる。そんなヴァルラムが、もうずっと前から知っていた存在…東の小さな島国に住むという、自分達と似た種族、龍族の王・維心。それが死んだと聞いた時にはたいそう驚いたが、すぐに転生してまた世を治めているという。

交流すらなかったのだからと、転生した時もただ傍観していた。しかし、それが北の小さな国々との交流をきっかけに、この大陸の神の王達にも広く知られるようになってしまった…東の島国に、力の強い王が居る。

そして、その地の気の濃さ、純粋さも知れ渡るようになった。そんな時、自分の筆頭軍神であるレフが聞いて来たことが見過ごせなかった…王、神の中に、あの龍王と繋がってこちらを掌握しようと考えておる輩が少なからず出始めておりまする…。

ヴァルラムは、面倒なことになった、と思った。折角この世は太平に落ち着いている。なのに、また戦が始まるというか。

そこへ、機もよく龍族の王が単身訪問して来た。どうやら、こちらの地がどうなっているのか知りたいというだけであるようだったが、確かにその押さえてもなお膨れ上がる大きな気は、ヴァルラムすら勝てないものであった。もしも、これが他の王の口車に乗せられるようなことがあっては、事は大変なことになろう。転生したという噂の通り、まだ若く成人したばかりの姿ではあったが、恐らく前世から持っているだろう威厳と落ち着きは、ヴァルラムさえ気圧されるほどのもので、音に聴こえる龍王の力はそれで知った。

交流を深めようと長い滞在を進めたが、他の神の城と同じく長居はしなかった。どことも始めは深入りしないという事なのだろう。

ヴァルラムは思った。ならば、こちらから行く。この太平の世を乱してはならぬ。

「王、見えて参りました。」

レムが、眼下に見えて来たディークという王の国を指した。ヴァルラムは金色の目を細めた。

「…ほんに手間を掛けさせることをしてくれたものよ。」

ヴァルラムのつぶやきに、レムは思わず頭を下げた…この王は、非情で知られる王。突然の訪問は、もしやこちらの王に制裁しようと思ってのことだったのだろうか。思えば、こちらの王の妃に当たるアマゾネスの国の女王が、あちらへ婿探しに行ったのが交流の始まりであったと聞いている…。

レムは思ったが、ヴァルラムは無表情で言った。

「迎えが参ったぞ、レム。参る。」

前方から、数人の軍神達が出迎えている。レムは、急いで頭を下げて、ヴァルラムに従って飛んで行った。


「ヴァルラム様、お越しになられました。」

緊張して待つディークとレイティアが待つ応接間に、臣下の声が響き渡った。ディークとレイティアは目を合わせて頷き合い、立ち上がる。あちらは格上の神。王といえども、座って迎えることは出来ないのだ。

そこに、濃いブルーグレイの髪に金色の瞳の、体格の良い神が入って来た。レイティアはこれで顔を見るのは二度目だったが、ディークは頭を下げた。

「ヴァルラム殿。遠路はるばる、よくお越しくださった。」

ヴァルラムは、ディークに軽く返礼すると、レイティアを見た。

「ディークの妃と聞いた。そうか、レイティアとは主か。一度見たことがあるの。」

レイティアは、慎重に頭を下げた。

「はい。一度式典の折、お目に掛かりました。」

ヴァルラムは、頷いた。ディークが、椅子へと促した。

「どうぞ、お掛けに。」

ヴァルラムはニコリともせずに座った。しかし、これがいつものことなのでレムはそこは気にしていなかったが、もしも王が突然にこの二人を斬ったりしたら、その後始末をどうしようか、とそんなことばかり考えていた。何しろ、この王は気に入らなければすぐに斬って捨ててしまう。こんな気苦労をしている軍神など、世に居るのかと本気で思うほどだった。

しかし、ヴァルラムは落ち着いた風に言った。

「長ったらしいのは好かぬ。短刀直入に申す。本日ここへ来たのは、主らに頼みがあってのことぞ。」

ディークが、驚いたような顔をした。

「我らに?ヴァルラム殿が、一体どういったことだろうか。」

ヴァルラムは頷いた。

「あの、龍族の王である維心殿の宮へ、訪問したいと考えておる。」

ディークは目を丸くした。宮から滅多に出ないこの王が、あのような遠方へ?確か、維心殿はこちらの神達の城へ短い滞在で巡っておったと聞いている。そのせいか。

「維心殿は、こちらへ参っておったと聞いておる。それゆえであろうか。」

ヴァルラムはディークを見た。

「それもあるが、神世の安定を考えてのことぞ。我は、あちらとわざと交流せずに来た。なぜなら、変に交流して再び戦国に戻ることを危惧しておったからだ。だがしかし、あちらと交流せねばならぬようになった…こちらの神が、広くあちらを知ることとなってしもうたからだ。」

それを聞いたレイティアが視線を落とした。それは…恐らく、我があちらへ婿探しに参ったからであろう。それを知ってか知らずか、ヴァルラムは続けた。

「我としては本意ではないが、こうなってしもうたからにはあちらと知り合わねばならぬ。もしも変な種族などに取り入られてそれを信じ、こちらと戦などになってしもうたら事は重大になろう。我は、維心殿と話さねばならぬのだ。残念ながら維心殿は、我の城にも僅かな時間滞在しただけで戻ってしまった。なので、我はどうしてもあちらへ出掛け、心行くまで話して来なければならぬのだ。」

ディークは、悟って言った。

「我らに、紹介の書状を遣わせよと申すのですな。」

ヴァルラムは頷いた。

「無理に押しかけることはしとうないのでな。良いようにせよ。」と、立ち上がった。「日は、ひと月以内とせよ。主らからの連絡を、我は城で待とうほどに。」

有無を言わさぬということか。

ディークもレイティアも思った。これは、命令なのだ。頼みと言ったが、断ることなど出来ない。

言いたいことを言ったヴァルラムは、ディークの答えを待たずに踵を返した。ディークは驚いてその背に言った。

「ヴァルラム殿?歓迎の宴を開こうと思うておったのだが。」

ヴァルラムはちらりと振り返った。

「良い。我は戻る。主らも、宴より先に龍の宮へ遣いを送っておけ。」

それだけ言うと、振り返りもせずにそこを出て行った。レムは、慌ててディークとレイティアに頭を下げると、サッとヴァルラムを追ってそこを出た。そして思った…良かった、王は落ち着いていらっしゃる。惨事の後片付けなど、したくはない…。

そうして、呆然とするディークとレイティアを置いて、ヴァルラムとレムはそこを飛び立って行った。


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