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助け

その少し前、呆然としていた維月だったが、このままでは拉致があかないと、キッと顔を上げた。

「お父様!」

十六夜は、首を振った。

「駄目だ、親父はいねぇよ。オレ達にイリダルの力の情報を与えたから、力を失って、今おふくろと一緒に眠ってるような状態だ。」

維月は、うーっと唸った。いつでも、小さな時からどうにもならなくなったら、十六夜か碧黎に助けてもらって後始末をしてもらって来たからだ。お父様…私のお父様が駄目なら…。

維月は、突然に顔を上げたかと思うと、亀裂に向かって叫んだ。

「張維様!」十六夜がびっくりして維月を見た。維月は、そんな十六夜に言った。「維心様の前世のお父様なんだもの!あのかたは番人だから転生しないんだもの。きっと聞こえてるわ。」と、また叫んだ。「張維様!助けてくださいませ!」

すると、目の前の空間にスッと見覚えのある姿が現れた。あの維心と将維と全く同じ深い青い目…龍族の王に代々伝わって来たその独特の色は、間違いなく、維心の父の張維だった。しかし、呆れたように浮かんでこちらを見ていた。

「ほんにもう、我の息子の嫁は。」腕を前に組んでいる。「転生してから碧黎が甘やかすゆえ、前世より面倒になっておるではないか。で、我に何をさせようてか。」

維月は、さすがに決まり悪そうに張維を見た。いくら誰でもいいって言っても、元は龍王だった維心様のお父上なのに。私ったら呼びつけたりして。

だが、思い切って言った。

「あの…ヴァルラム様を、門に入らないように止めてもらいたいのですわ。ここに、維心様か、将維が来るまで。」

張維は、顔をしかめた。

「止めるとて我はあやつを掴んで置くわけにはいかぬぞ。我は触れることは許されておらぬのだ。説得はするが、あやつが逝くと決めたなら止めることは出来ぬ。分かっておろう、維月。」

維月は、頷いた。

「はい。どうか、お願い致しまする。ヴァルラム様は、あまりにも前世の維心様によく似ていらして、放って置けませぬの…。」

張維は、それを聞いて黙ってしばらく維月を見つめていたが、ため息を付いて頷いた。

「確かにの。では、我も力を尽くそうぞ。とにかく維心か将維を、急いで来させよ。分かったの。」

維月は、頷いた。

「はい、張維様。」

張維は、微笑んだ。

「良い子よ。ではの。」

張維は、現れたのと同じようにスッと消えた。サイラスが、それをただ呆然と見ていたが、我に返って言った。

「なんと…こんな空間に神が居るとは。あれは、黄泉に住んでおるのか?」

それには、十六夜が答えた。

「死んだらみんな黄泉に住むんだよ。ただ、この黄泉へと抜ける門までの道がある空間には、あの張維しか来れない。なぜなら、あれが黄泉の番人だからだ。」

サイラスは、初めて知ることに感心して頷いた。

「ほう…何もかも初めてぞ。知っておるのかも知れぬが、まだ今生では死んだことがないゆえなあ。」

十六夜は苦笑した。

「大体がそうだ。転生する時、魂の浄化を受けて、その時にみんな忘れて真っ白になる。だが、オレ達みたいに何らかの方法で頑張れば、記憶を持って来れるのさ。だが、記憶があるのはややこしいぞ?ほら、将維は今生では維心の父なのに、前世は逆だったから、今でも年下の維心を父上と呼んでるだろう?よっぽどの事情がなきゃあ、記憶ってのは持って来ないほうが正解だ。」と、上を見た。「さて、将維を呼ぶか。維心はまだイリダルの城でドラゴンに引継ぎ出来てないから動けないだろう。将維なら…あ。」

維月が、急に止まった十六夜を見て、突っついた。

「何?将維がどうしたの?」

十六夜は維月を見た。

「あいつ、来たぞ。きっと蒼が行けと言ったんだろう。」と、サイラスと見た。「結界を破ろうかどうしようか迷ってる。サイラス、通してやってくれ。」

サイラスは急いで頷くと、上を見上げた。維心と良く似た強大な気…前龍王、将維か。

「…通したぞ。真っ直ぐにこっちへ来る。」

十六夜は、頷いた。

「維月の気を探ってるだろうからな。あいつは維月の気だけはどんなに僅かでも追って来れるんだよ。」

十六夜が呆れたように言うのに、サイラスは首をかしげた。息子の妃なのに?いや、前世ではどうだったのか。親子?…確かに、ややこしい。

「…分かりづらいの。」

十六夜は肩をすくめた。

「そう。だから言うのさ。」

すると、スッとその部屋の戸が開いたかと思うと、維心そっくりの、将維が立っていた。

「将維!」

十六夜と維月が同時に叫ぶ。これほど将維が待ち遠しかった時があっただろうか。

しかし、将維は真っ直ぐに維月に近付くと、その手を取った。

「おお維月!よう無事であったことよ。事は滞りなく済んだゆえな。安堵せよ。」

維月はぶんぶんと首を振った。

「まだ終わっていないのよ、将維!」と、後ろでサイラスが気の補充をし続けるヴァルラムを振り返った。「膜を消そうと、わざと気を枯渇させてしまったの。もう、諦めているような感じで…世のために、私だけは月へ帰そうと思ったみたい。」

将維は、眉を寄せてヴァルラムの血の気のない顔を見た。

「そうか。ゆえに、この亀裂か。」

十六夜が、横から言った。

「オレと維月じゃ、ここまでが限界だ。迎えに行くには、お前か維心の力が要る。今、張維がヴァルラムを門に入らないよう止めてくれてるんだ。お前、すぐに行って連れて帰ってくれないか。」

将維は、ため息をついた。

「本来ならばこんな事はと言うところであるが、お祖父様まで関わっておるとなると仕方がないの。何より維月を助けようとしてなったこと。我は借りを作るのは嫌いであるからの。」と、手を上げた。亀裂が、さらに大きく開いて人一人が通れる大きさになった。「さあ、今我は王ではないゆえ、長くはあちらへ留まれぬ。サッと参って、サッと戻ろうぞ。」

と、維月の手を取る。十六夜は、顔をしかめた。

「なんでぇ、維月は連れて行くのに、オレはここに置き去りかよ。」

将維は亀裂に向かっていたが、ちらと振り返った。

「主は、父上との連絡係としての責務があろう。我が亀裂へ入ったこと、伝えてくれぬか。」

十六夜は、仕方なくふて腐れながら腕を組んで頷いた。

「わーったよ。全く、ますます維心にそっくりでやがんの。」

将維はそれには答えず、維月と共に亀裂の中へと消えて行った。

サイラスは、待つことしか出来ない自分を呪いながら、必死に気の補充を続けたのだった。


ヴァルラムは、気が付くと何もない薄暗い場所をたった一人で歩いていた。

自分が何かに向かっているのは分かっていたが、それが何なのか、はっきりとしない頭で考えても分からなかった。ただ、そこへ行くことが、とても寂しいことのような気がした…自分は、何かを置いて来ているのか。

ヴァルラムは、そんなことを思いながら、闇雲に歩くことしか出来なかった。

しばらく歩くと、傍らに誰かが同じように無心に歩いているのが目に入った。誰だろうと見てみると、面識はないようだが、老いていて歩くのがつらそうだった。助けて方が良いのかと思っていると、その男の前に四角い空間が開いているのが目に入った。その空間の向こうは、明るい暖かそうな場所で、そしてその四角い空間の裏側は明らかに何もなかった。つまりは、あれば次元の違う場所なのだとヴァルラムには分かった。

気になって足を止めてその老人を見ていると、老人は嬉しそうに微笑みながらその空間に近付いて行く。中からは、これもまた顔も見たことのない女が嬉しそうに手を振っていた。女は若く、とてもこの老人と釣り合うようには見えないかったが、それに必死に駆け寄る老人の目には、間違いなく愛情があった。

『ああ、待っていたのよ。』

反響するような、女の声が言った。こちらの老人が答えながら、その空間に手を差し伸べた。

「やっと来れた。会いたかった…。」

老人の手が、中の女の手を掴む。すると、その中へ入った箇所から、どんどんとその老人は若返り、中へ入った後には、女と見合うだけの若さに変わっていた。ヴァルラムが驚いてただそれを見ていると、中の女の方がこちらに気付いて、その元は老人であった男にそっと耳打ちした。男は、振り返るとヴァルラムを見て、そして言った。

『これは…ドラゴンの王ではありませぬか。』

中からは、やはり声は反響して聞こえる。ヴァルラムは、この自分を知っているらしい男をじっと見た。

「主、我を知っておるのか?」

相手は、微笑んだ。

『知らぬが道理でありまする。我はもっと西の果ての、小さな王国の退役軍神でありまするから。このたび寿命を迎えまして、晴れてこうして先に逝った妻と会うことが出来申した。しかし、今は北のイリダル様が良からぬ企みをなさっておって、戦っておられる最中と聞いておりましたのに。まさか、ここにおられるということは、ヴァルラム様は倒れられたのか。』

ヴァルラムは、その言葉に、自分の置かれている状況を理解出来た。自分は気が枯渇して、死んだのだ。そして、ここへ来た。我は、自分のあの四角い空間に向かって歩いているのだ。

ヴァルラムは答えた。

「討たれたのではないがの。あの力に捕らえられてしもうた。しかし、助けたい者は助けた。なので、悔いはないの。唯一、友に何も言わずに来てしまったゆえ…それだけが心配であるが。」

相手は、頷いた。

『はい。ではヴァルラム様も、お心安らかに過ごしくださいませ。我も、もう妻と共に参りまする。』

四角い空間が揺らめいた。それが役目を終えて閉じようとしているのを、ヴァルラムは知った。

「主こその。我も己の空間を目指す。」

相手は頷き、その空間は消えて行った。

そして、そこにはまた薄暗い空間が広がっているだけだった。

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