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ドラゴン

「ヴァルラム殿!」

押さえた小声が、二人の耳に聞こえて来た。ヴァルラムが、通気孔の方を見上げる。

「ディークか。何か報告か?」

ディークの声だけが聞こえる。穴が小さいので、向こうからはこちらが見えるようだが、こちらからディークの姿を見ることは出来ない。ディークは、神でなければ聞き取れないほど小さな声で言った。

「はい。イリダルが、維心殿にドラゴンの討伐を命じました。三日以内にと。」

ヴァルラムは、目を見開いて通気孔を見上げた。

「それは…維心殿は?城へ向かうおつもりか。」

ディークの声が答えた。

「十六夜によると、もう向かっているとのこと。」

ヴァルラムは、絶句した。では…城は一夜ももたぬ。維心殿の力は、城を一瞬で消してしまえる。我が居れば少しは抵抗出来ようが…残った軍神達では、恐らく無理だろう。すると、維月が言った。

「維心様は、簡単に言うことを聞くかたではありませぬ。」と、ヴァルラムをしっかりと見つめて言った。「城へ向かったのは、何かお考えがあってのことでありましょう。いくら私が捕らえられているからと、命を聞いて他の城を滅してしまったりはしませぬわ。」

それには、ディークが答えた。

「はい。恐らくはそうかと我も思いまする。イリダルは、単に維心殿が妃を想うあまり必死になっておると思うておる様子。城で満足げにその報告を聞いておりました。」

ヴァルラムは、顔を上げた。

「では…ディーク。イリダルは、あちらに気を取られておるの。」

ディークは頷いたようだった。

「はい。なので、我もこちらへ来ることが出来申した。そちらの戸の前には、結界の他に見張りも二人居りまする。ですがこちらは軍神達の見回りが数時間おきにある程度だったのですが…それも今、維心殿達の動向を見張るために狩り出されておる様子。こちらの城は、本宮の方が俄かに騒がしくなっておりまする。」

ヴァルラムと維月は、頷き合った。

「ディーク」ヴァルラムは、言った。「我らはここから出る。」

ディークは、仰天したように言った。

「何と申された?!その膜を持ったままで?!」

ヴァルラムは、続けた。

「この膜の構造が分かった以上、我らはこれを消さねばならぬ。維心殿達も、我らがここに居ったらここを攻めることも出来まい。しかし我らが思いついた方法は、ここでは使えぬのだ。我は、サイラスの城へ行く地下道を知っておる。それを徒歩で使う。」

ディークは、しばらく黙った。そして、言った。

「…南の、森でありまするか?」

ヴァルラムは頷いた。

「知っておるのか。」

ディークは、また黙ったが、言った。

「分かり申した。では、ここからお二人を出す算段を。大きな音を立てれば、気付かれてしまいまする。」

維月が言った。

「十六夜に頼めば?きっとこの牢の壁の石を消してしまうことが出来るはずだわ。」と、壁をそっと叩いた。「天然石だもの。自然の物は、十六夜の力は分解することが可能なの。それに、再構築も出来るのよ?少し新しくなっちゃうかもだけど。」

ディークは答えた。

「では、十六夜にそれを知らせましょう。出来る限り早急にここを出なければ。」

ヴァルラムは、頷いた。

「我ら膜の中で月と交信できぬ。頼んだぞ。」

ディークは、そこを離れて低く飛んだ。早く戻らねば…そして、レイティアもあの石の部屋から助け出して、南の地下道へ。確かにあれは、イリダルでさえ知らない。我は、偶然見つけたのだ。レイティアとラティアを捕らえられた時に、どうにかして城へ潜入しようとして地下からいけるのではとあの通路を通ったことがある。しかし、見つけた地下道は別の所へ繋がっていて、イリダルの城へ入ることが出来なかった。結局は見つかって、イリダルに捕らえられてしまったのだが…。

ディークは、密かに見張りの隙をついて、レイティアの部屋へと辿り着いた。そこには、レイティアが寝台の上のラティアの手を握り締めたまま、その横に突っ伏して倒れていた。

「レイティア!」

ディークは、レイティアを抱き寄せた。レイティアは、まだ膜に包まれている。つまりは、まだ息があるということだ。

「ディーク…?」

レイティアが、薄っすらと目を開いた。ディークは、涙で潤んだ目でレイティアを見た。

「ああ、何とつらい思いをさせておることか。直に解放されるゆえな。維心殿が、きっと何とかしてくださる。策を練って…しかし、とにかくはここから出ようぞ。」

レイティアは、首を振った。

「無理だ、ディーク。我は…足手まといになる。ラティアを置いても行けぬ。主は、逃れよ。どうせもう、半日ほどしか気はもたぬだろう。」と、ディークの頬に触れた。「ああディーク、我は主と共に居たかった…いつか娘に譲位して、共に暮らそうと申しておったものを。」

ディークは、首を振った。

「何を申す!諦めてはならぬ!まだ主は生きておるではないか!共にと約したはず…、」

「では、共に歩めば良い。」

後ろから、感情のない声が飛んだかと思うと、ディークを真っ白い光が包んだ。レイティアが、悲鳴を上げる。これは…我らを捕らえたのと、同じ光。ディークまで、同じことに…!

光が消えると、ディークは膜に包まれてそこに居た。レイティアが、絶望の表情で、寝台へと倒れ込む。イリダルは、言った。

「ふん、死んだ娘と妃などが、それほどに大事か。ならば死への道を共に歩め。ま、主は後から歩くことになるであろうがの。すぐに追いつくだろう。」と、ディークに背を向けた。「我に逆らって、こそこそとこんなことをするからこうなるのだ。」

ディークは、膜の中から叫んだ。

「イリダル!この…祟り神めが!!」

イリダルは、ゆっくりとディークを振り返った。そして、ディークを気で吹き飛ばした。

「我は地の王よ!あの地上最強の龍王を自在に操る力を手に入れたのだ!しかも、ヤツは我の力の前には膝間付くしかないのだ。我は無敵ぞ!」

ディークは、歯軋りした。この傲慢なヤツをひねり潰してやりたい!

「他の神の力を借りねばならぬとは、主も落ちた神の王よな。片腹痛いわ。」

イリダルは、目に見えて怒りに打ち震えた。ディークは、また衝撃が来るものと構えた。しかし、イリダルは笑った。

「ま、もはや死んでおるような神に何をしても同じよな。じっくり死ぬが良い…妃と娘の亡骸に囲まれて、己の非力を嘆きながらの。」

扉は、閉じた。ディークは、地団太踏みたいような気持ちだった。まだ、月に知らせていないのに。膜へ篭められた我では、もう連絡を取ることが出来ぬ…!

月は、十六夜の気配を宿して光っていた。


《ディークの気配が読めなくなった。》十六夜は、月に居るままで、皆に言った。《捕らえられたか殺されたと見て間違いないだろう。》

ドラゴンの城は、ヴァルラムが不在ではあったが、それでもまだ生きていることを示すように、ヴァルラムの結界がしっかりと張られてそこにあった。中は、どんな軍神であろうとも、招き入れられなければ入ることは出来ない。維心ならば、この結界を破ることも可能であったが、今回は招き入れられる形でその城へと入っていた。ここの筆頭軍神のレムと、筆頭重臣のアキムが並んで座っている。サイラスとバリーがその横に座り、こちら側には維心、炎嘉、将維、蒼、義心、慎怜、嘉韻が並んで座っていた。

維心が言った。

「では、あちらと連絡を取ることが出来なくなったの。維月とヴァルラムは、未だ捕らえられたままか。」

サイラスが、維心を見た。

「あれが指をくわえて見ておるとは思えぬ。恐らく何か考えておっただろうが、それを知る術がなくなってしもうたの。」

炎嘉が、維心を見た。

「では、こちらはこちらで策を進めるしかないの。」

維心は、頷いて立ち上がった。

「そうよ。では」と、刀を抜いた。「策を遂行するとするか。」

炎嘉、将維、義心、慎怜もそれに倣って刀を抜いた。アキムは、怯えた顔をする。レムが、刀を抜いた。

「…お手柔らかにの。」

維心は、フッと笑った。

「我は」と刀を振り上げた。「いつなり手加減しておるわ!」


維月は、心配そうに通気孔の方を見上げた。ディークは、十六夜に連絡してくれたのだろうか。全く連絡が無くなった…。

ヴァルラムが、じっと座っていたが、立ち上がった。

「維月。」維月は、振り返る。「恐らく、十六夜は来ない。」

維月は、びっくりしたようにヴァルラムを見た。

「でも…知ったら必ず来てくれるはずなのですわ。」

ヴァルラムは、維月の肩を抱いた。

「知らねば来ないだろう。」維月は、不安そうに眉を寄せた。ヴァルラムは続けた。「恐らく、ディークは捕らえられたか殺されたのだ。そうでなければ、今頃は我ら南の森へと走っておったはず。十六夜の力をあてにしておってはならぬ。己で何とかしなければ。」

維月は、しばらくショックを受けていたようだったが、顔を上げて頷いた。

「はい、ヴァルラム様。」と、寝台に乗って、高い場所の壁の石に触れた。「膜を被っているので、どこまで出来るか…それに、十六夜よりも格段に力が弱いのです。今は気も少ないので、消せるかどうかわかりませぬが。」

ヴァルラムは、頷いて維月の手に手を重ねた。

「我の炎を貸そう。これで、膜を細かく抜けることは出来る。さあ維月、己を信じてやってみよ。」

維月は頷いて、意を決して力を込めた。いつもなら、こともなげにしてしまうことなのに。子供の頃、十六夜と二人で遊びでよくやった…。

維月から、青白い陰の月の力が湧き上がって流れて行く。ヴァルラムは、それを驚愕の目で見ていた。これが月の力。陰の月…。

見ていると、目の前の岩がまるで氷が解けるようにさらさらと消えて行くのが見えた。維月は、青い顔をしている…気が消耗している。

「いま少しぞ。」ヴァルラムは、維月を抱き寄せた。「我の気を分けるゆえ。もう少しで、抜けることが出来る大きさの穴が開く…。」

ヴァルラムの気が、維月に流れ込んで来る。維月は、それに力を得て、一気に直径50センチほどの穴を開けた。ヴァルラムが、唇を離してそれを見て、言った。

「よし、これで大丈夫ぞ!」

見ると、ヴァルラムの身長より少し高い位置に開いた穴からは、地上が見えていた。維月は、パアっと表情を明るくすると、ヴァルラムを見た。

「ヴァルラム様…これで出れまするわね。」

ヴァルラムは、苦笑した。

「我らは今飛べぬのだぞ?我が先に台になるゆえ、主は我の背に乗ってあそこへ登るのだ。膜があるゆえ、あまり離れるわけには行かぬぞ。出来るか?」

維月は、頷いた。

「はい。そういうのは得意でございますから。」

維月は、すぐに四つんばいになったヴァルラムの背に足を掛けて立つと、そこの淵に手を掛けて、一気にジャンプして地上へ移った。ヴァルラムが、膜に引っ張られないようにすっと立ち上がって維月との距離を縮め、足を押し上げる。

維月は、それで簡単に外へと出た。ヴァルラムは、それこそ簡単にその淵に飛びつくと、ぐいと懸垂をして事も無げに上がって来た。維月は感心した。すごい…神様って、気が使えなくても何でも出来るんだなあ。

「主は女であるのに、身軽だの。」ヴァルラムは、自分のことは棚に上げて言った。「城の女でそんなことが出来る者は居らぬ。」

維月は、苦笑した。

「それは…子供の頃から、十六夜と二人で走り回っておりましたから。父が寛容で。」

ヴァルラムは、大真面目に頷いた。

「こんな時のためと思うたのやもの。良いことよ。」と、維月を小脇に抱えた。「さ、参る。何が出来ても、主は気が少ないのであるから。ここよりは徒歩。我が運んで参る。じっとしておれ。」

維月は頷いて、ヴァルラムに運ばれながら南の森へと急いだのだった。

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