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会合

維月は、ヴァルラムと並んで、じっと座っていた。ヴァルラムは、座ったまま様々な炎を小さく作っては、膜に影響を与えられないか試している。あれから、どれぐらい経っただろう。もう、夜であることは分かるが、あれからイリダルにも放って置かれているし、状況がどう動いているのかも分からなかった。

ディークがやって来て、レイティアとの間の娘が死んだことを聞かされた。そして、これからは確かに世のために戦うのだと言っていた。

その後、十六夜とコンタクトを取ったと言ってまた通気孔の方へ戻って来たディークは、イリダルのこの膜が、実は他人の気を操る能力によるもので、つまりは今維月とヴァルラムを覆っている膜は、二人の気が操られて、それで形作られていることが分かった。自分で自分を縛っている…。維月は、それを維持するために気を失っている事実に愕然とした。ヴァルラムが定期的に気を補充してくれるが、それでも追いつかないほど気を失う速度が上がっている。いっそ、気を完全に失ってしまったら、きっとこの膜も消えるのに。

維月は、そう思いながら、フッとため息を付いた。ヴァルラムがそれに気付いて、ハッとしたように維月を見た。

「維月?…また気が減っている。速度が速い…。」

確かにそうだった。ヴァルラムが、試しに炎を膜に当てるたびに、それを維持しようとするために気が多く引き出されてしまう。抜け出したいのに、抜け出す努力をすると気が減ってしまう…。維月は、堂々巡りのことに落ち込んでいた。ヴァルラムは、ため息を付いた。

「やはり、試すのは止めた方が良いか。我とて、この膜の中で気を補充するには時をとる。気が足りぬようになるやもしれぬ。」と、維月に唇を寄せた。「主にだけは、つらい思いはさせぬがの。」

もう、何度目になるだろう。ヴァルラムは、もう慣れたように維月に口付けた。維月もそれを受け、唇から流れ込んで来る気を受けて、自分の体の力が戻って来るのを感じていた。そして、唇を離したヴァルラムは、維月を抱き寄せた。

「…我は、考えたことがあるのだが。」ヴァルラムが、思いつめたような顔をして言った。「維月、恐らくこの膜を維持している力の多くは我の気であろう。しかし我の気は枯渇を知らぬ。膜へ篭められても、炎を使ってこうして補充出来る。つまりは、自然にこの膜がなくなる可能性はない。」

維月は、黙ってヴァルラムに抱き寄せられながら、それを聞いていた。ヴァルラムは続けた。

「なので、我の気を一時的に枯渇させてはどうか。」維月がびっくりした顔をしたので、ヴァルラムは微笑んだ。「大丈夫、一時のことよ。この膜が消えたら、主が我に気を補充せよ。膜から出たら、何とでもなる。主の気で、この膜の維持は無理ぞ。なので、我の力が消えれば必ずこの膜は消える。問題は…いつ、どこでそれを行なうかぞ。」

維月も、思いつめたような顔でヴァルラムを見上げた。確かに、ここで膜を消してヴァルラムが仮死状態であったら、蘇生しようとしている間にイリダルが駆けつけてまた術を、今度はもっと強力に掛けられてしまうだろう。ここを出なければならない…そして、それは、イリダルが気取って追って来るまでに時間がかかる時、つまりは皆がバタバタして居る時がいい。

維月は、ヴァルラムに言った。

「…では、最初にイリダルが維心様を利用しようと動き出した時に、こちらから抜け出せばいいのではありませぬか?」

ヴァルラムは、頷いた。

「そうだ。ディークに、その策を話そう。今比較的自由にここで動けるのはあやつだけぞ。そして、場所は…」と、考え込んだ。「膜のせいで飛べぬのであるから、遠くへは行けぬ。我の城までは無理。ならばサイラスの城がある。あやつの城は地下にもぐっておるが、地下道があちこちに来ておるはず。この近くにも、密かに掘ったと言っておった。そこを抜けたら、サイラスの城までは行けずとも、別宮には辿りつく。そこなら、我が気を失って倒れておっても問題ない。主も落ち着いて、我に気を補充出来ようぞ。」

維月は、頷いた。

「はい、ヴァルラム様。でも…気を失って間に合わなかったら…。」

ヴァルラムは、苦笑した。

「その時はその時ぞ。我らの種族は世襲制ではないからの。我に子が居らぬでも問題ないのだ。我の血など関係ない。次に力の強い者が王となる。なので、良いのだ。」と、維月の頬に触れた。「だが…生涯に、一人ぐらいは子が居っても良いかと、主に会うて思うたがの。」

維月は、困って下を向いた。維心様によく似てらっしゃるそのお顔で、そんなことをおっしゃらないで欲しい…。困ってしまう…。

そんな維月を見て、ヴァルラムは苦笑した。

「良い。そのような顔をするでない。」と、維月を抱き寄せた。「我は、この時があればそれで…。」

諦めていた温かさを、身に感じる幸福。ヴァルラムは、それを心に刻んでいた。もう、絶対に離したくない。だが、それは我がままというものだ。今があれば、それで。恐らく、自分は気を枯渇させた時点で世を去るだろう。維月の補充が、間に合うとは思えない。だが、それでいい…。


時間など関係なく、夜の龍の宮では、皆が呼び出されて会合の間に勢ぞろいしていた。

維心と炎嘉がぴりぴりとしている。向こう側では、月の宮の映像で蒼と将維が座っている様子が映し出されていたが、その映像の将維もそれは苛立たしげにしていた。

全ては、維月がヴァルラムと一緒に囚われていて、その気の補充の仕方のことを皆が知ってしまったからだった。

その空気に、サイラスが言った。

「何ぞ?皆で寄ってたかってそのように苛々と。必要なことであろうが。ヴァルラムとて好きでやっておるのではないわ。」

炎嘉が、キッとサイラスを睨んだ。

「主はヴァルラムを庇ってばかりであるからの!知っておるくせに、とぼけおってからに。」

サイラスは、涼しい顔をした。

「何のことか?知らぬのう。」と、話題を変えた。「で、皆自分なりに対抗する力を編み出して参ったのか?」

映像の蒼が応えた。

『オレは、十六夜と同じように浄化の力に遮断の仙術を混ぜてみました。一応仙術で同じような魔方陣を作ってはみたんですが…』と、何やら紙に書かれた図を見せた。『使えるかどうかは不明です。一応試してはみようかということにはなっております。』

将維が言った。

『我は、父上がおっしゃったように魂の浄化に使う力に遮断の術を混ぜた。ただ魂の浄化に使う力であるから、かなりの力ぞ。これを放てば確かに防ぐことは出来ようが、それ以上に相手をどうにかしてしまう危険もある。もしも捕らえて話を聞こうと思うておったとしたら、それは無理であろうな。』

維心は、それを聞いて頷いた。

「確かにの。しかし我はあれの話を聞くつもりなどもう全くないわ。すぐにでも殺してしまいたいのに。」

苛々と言う維心に、十六夜が言った。

「こら、維心。王が居なくなった王国の末路は知ってるだろうが。もしも改心出来るならしてもらいたいだろう。」

維心は、十六夜を睨んだ。

「何を言うておるのだ主は!ヴァルラムがそんな情をかけたゆえ、今このようなことになっておるのだろうが!あれの力を奪ったら、すぐにでも斬り捨ててやるわ!」

十六夜は、ため息を付いた。今は何を言っても無駄だ。蒼がおずおずと言った。

『ですが、維心様…きっと母さんはそれを望まないと思うのですが。』それを聞いた維心は、ぴくと反応した。『あの、他にありまするでしょう。例えば、神でなくしてしまうとか。維心様の力なら、出来るはずだと母さんも常言っておりましたから。』

維心は、下を向いた。確かに維月は…いつも殺すなと言う。己が殺され掛けても殺すなと言う。ならば目の前で斬り捨てたりしたら、きっと後でどれほどに責められることか。

「それは…また、考えようほどに。とにかく、維月を救出に行かねばならぬ。こちらは筆頭軍神が皆防げるであろう術を使える状態になった。軍を離れてはおるが、義心も連れて参る。そちらはどうか。」

蒼が、肩をすくめた。

『本来月の宮は動かぬのですが、こちらも筆頭の嘉韻がどうしても行くと申すので連れて参るのと、明人と慎吾は術は取得しましたがもしものため、こちらへ守りとして残しておこうと思っております。』

維心はまた不機嫌になった。嘉韻は、維月を助けたいのだ。それでも、それは口に出さなかった。

「そうか。ならばすぐにこちらへ向かうが良い。我ら、いつなり出れるようにしておかねばならぬからの。」

十六夜が言った。

「だが維心、今は機じゃねぇだろう。あいつが動くのを待った方がいいんじゃねぇのか。」

サイラスが、頷いた。

「そうよ。相手の思うままだと思わせて、あちらへ参った方が良い。何もないのにこちらから大挙して出掛けて参れば、人質がどうなるか分からぬぞ。あくまで自然に大陸へ参れる機を待たねば。」

維心は、歯軋りした。

「そうは言うても…、」

そこへ、兆加が転がるように駆け込んで来て膝を付いた。

「お、王!こ、このような書状が参りましてございます!」

維心は、その覚えのある気を放つ巻物を手に取って、さっと開くとすぐに閉じた。そして、すぐに闘気がブワッと出たかと思うと、すっとそれを退いて、フッと笑った。十六夜は、なんとも言えぬ不気味さを感じて身震いした。

「なんでぇ?!うす気味悪ぃ!」

維心はちらと十六夜を見た。

「ふん、イリダルが我にドラゴンの討伐を命じて来たのよ。あの地を根絶やしにせよ、との。」

サイラスが、身を乗り出した。

「早速か!では、あちらへ向かうことが出来るではないか。何と馬鹿な男ぞ!」

十六夜は、維心が放り出した巻物を開いて見た。

「…地の王として龍王維心に命ず。ドラゴン族を根絶やしにせよ。時は三日以内。妃は三日後討伐が終わっていたら顔を見せる。そうでなければ滅する。」十六夜が声に出して読むと、映像の将維があからさまに眉を寄せた。「へえ、三日だってさ。」

維心は、暗く微笑んだ。

「我がその気になれば、そんなもの一晩で事足りる。だが、ヤツの思うようにはせぬがの。」と、炎嘉を見た。「さて、参るか炎嘉?久しぶりよの、主と戦場へ出るのも。」

炎嘉は、面倒そうに維心を見たが立ち上がった。

「主は何でも一人でやりおるから、おもしろうない。我も少しは刀を交わしたいものよ。主が出て参ったら、何でも一瞬であるからの。」

そして、蒼と将維を振り返った。

「主らとは、あちらで合流しようぞ。」と、サイラスをせっついた。「サイラス、何を呆けておる。行くぞ。レムに案内させようぞ。ヴァルラムの城へ。」

十六夜が、驚いたように維心と炎嘉を見た。

「え、結局あっちの城へは行くのか?」

炎嘉が、それを呆れたように見た。

「それは行かぬことには。イリダルに、一泡噴かせてやりたいものでな。さ、参る!早よう行って、あちらで策を練るのだ。」

維心と炎嘉に急かされて、ヴァルラムの筆頭軍神のレム、サイラスの筆頭軍神のバリー、サイラスは慌しく龍の宮を飛び立った。

十六夜は飛ぶのは面倒なので、月へ帰って皆の行動を見守ったのだった。

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