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維月は、目を覚ました。何かに包まれている…維心様…?

そして、横で眠る濃いブルーグレイの髪の整った顔立ちを見て、びっくりした。そうだった。私はあの力に捕らえられて…月から分断されてしまっているのだわ。

ヴァルラムは、維月を抱きしめてその髪に頬を寄せて眠っていた。維月は、赤くなった…こんなに近づかなくても、横に並んで充分眠れるのに。

しかし、疲れているだろうヴァルラムを起こすこともしたくなかった維月は、黙って上を向いて横になっていた。目の前に、透明の膜が薄っすらと見える。維月は、それを指先で軽くつついて見た。ぷるんぷるんしていて、まるで人の頃触ったソフトコンタクトレンズみたいな感触。でも、これからイリダルの気はしないなあ…。

維月が考え込んでいると、頭上から声がした。

「…変わったものよな。」

維月は、驚いてヴァルラムを見上げた。ヴァルラムは維月と目を合わせて微笑んだ。

「こんなものに捕らえられたのは我は初めてであるが、何度も見ておるのだ。だが、これの波動は毎回違っておって…」と、指先でそれに触れた。「いつも思うが、イリダルの気は感じぬ。此度は何か、我の気のような波動も感じるし…篭める相手に合わせて変化するのだろうか。」

維月は、頷いた。

「私も、そのように。イリダルの気は感じないなあと思って。」と、また膜に触れた。「月の気も、微かに。もしかして、そうやって相手の気に合わせて遮断する力を作っておるのかもしれませぬわね。」

ヴァルラムは頷いた。そして、また維月を見た。

「維月…主、また気が減っておるの。寝ておっただけなのに。」

維月は、困ったように微笑んだ。

「本当に…基礎代謝の他、いったい何に気を使っておるのかしら。いつもより格段に早いペースで気が減っておりまするわ。」

ヴァルラムは、維月に回していた手に力を入れて、維月の顔を自分の方へ向け、唇を寄せた。

「我とて気を失う速度はいつもより速いが、しかし補充出来ておるゆえ。いくらでも分ける。案ずることはないぞ。」

維月は頷いたが、思った。口付けて気を補充しなくても…確かにそれが一番早いので、言うなれば人の病院での点滴みたいなものだった。なので先ほどのような状態の維月なら、あれが一番手っ取り早い。が、手を翳しても補充できるのだ。手を翳しての補充は食事をしているような感じなので、時間は掛かるが比較的元気な時なら、それでも事は足りた。しかし、ヴァルラムは維月を抱きしめて、深く口付けて来た。寝台の上、こんな状態でのことに維月はハラハラした…もしもここでまた、ヴァルラム様と何かあったら他の意味で大変なことになってしまうのに。

しかしヴァルラムは、そのまま維月を抱きしめて、長い間唇を塞いでいたのだった。


十六夜が、ふと顔を上げた。

維心の居間で、炎嘉と維心と共に椅子に座って、二人がああでもないこうでもないと力を調整してイリダルに対する盾を考えているところだった。

維心がそれに気付いて十六夜を見た。

「十六夜?どうかしたのか。」

「シッ!」十六夜は、空を睨んだ。「…ラティアは、助からなかったのか。」

維心と炎嘉は、目を丸くして顔を見合わせた。ラティアとは誰だ?

しかし、十六夜はまだ空を睨んでいる。

「…そうか。ちょっと待て。聞いてみるから。」と、きょとんとしている維心を炎嘉を見た。「ディークの娘が、気の枯渇で死んだ。今日捕らえられてから初めて面会を許されたみたいなんだが、一歩遅かったらしい。レイティアも気がかなり少なくなっていたが、大人だからまだしっかりしていたみたいだ。で、レイティアと話して、あっちの情報をこっちへ送って、こちらの手助けをしたいと言ってる。レイティア自身、もう自分はいいから世を助けてくれと言っているのだそうだ。まだ、リークが残っているだろう…このままでは、リークが育つ頃には大変なことになると思ったらしい。」

維心が、眉を寄せた。

「…少なからず誰のせいでイリダルがこちらの宮を知り得たと思うておるのだ。維月があのようなことに…」維心は、苦しげに胸の辺りを押さえた。「考えたら居ても立っても居られぬ。今頃どうしておるのか…。」

十六夜は、維心を見た。

「維心、お前さあ、だったら同じ立場でディークみたいに嫁を置き去りにして世を助けようとするか?維明が危ないとしてさ。」

維心は、十六夜を見た。

「出来ぬ。維月は他の誰よりも大切なもの。世の尽くが滅びようと、維月が残れば我は良い。」

言い切る維心に、炎嘉は眉を寄せた。

「正直過ぎるわ。確かにそうでも、王として口に出すのは控えよ、維心。」

維心は、炎嘉をキッと見た。

「何を申す。世のことを考えておるのも、維月が居る世であるからぞ。少しでも良い世で共に暮らしたいと思うからこそ我は尽力しておるのだ。前世のように闇雲に民のためと思うておるのではないわ。維月が居らぬ世など、我には意味がない。それならば黄泉へ逝く。」

十六夜は、長いため息を付いた。

「ああ、わかったわかった。お前は維月に会ってから維月が判断の中心だからな。だがな維心、ディークは、それをしようとしてるんだ。妃を捨てて、息子達民達のために世を救おうと。レイティアがそれを望んでるのもあるがな。このままイリダルの城に留まって内偵をするか、それともこっちへ戻った方が良いかと聞いてるんだよ。」

炎嘉は、十六夜を見た。

「あちらに居った方がこちらの助けになろう。城の中までは分からぬからの。」

「わかった。」と、十六夜は空を見た。「じゃあお前はそっちに居て、様子をオレに知らせてくれ。城の中までは、オレ達もみえねぇから。」

そして、しばらく空を見ていたかと思うと、目の色を変えた。

「…維月は、地下か。地下のどこだ?」

維心は、その言葉にバッと十六夜を見て言った。

「維月…維月はどうしておる?!」

十六夜はそれを手を上げて顔をしかめて制した。そして、言った。

「そうか、ヴァルラムと一緒に、城北側の地下一階の牢に居るんだな。見張り居らず、結界だけか。お前は潜んで行って、様子を見て来た訳か。それで、気は…」と、黙って、また言った。「ヴァルラムが引っ切り無しに補充してる?何だってそんなに気を使うんだ。維月は何か言ってたか?」

こちらで、炎嘉が言った。

「碧黎が言っていたことを思い出せ。イリダルは気を操るだけだと。」

維心が、ハッとしたように言った。

「つまり、維月とヴァルラムの気を操って、己の気であの膜を作っておるのか。それで維持のために、維月は気を使っているのかもしれぬ。」

十六夜も、頷いた。

「こっちでも、今その膜を防ぐやり方を皆で模索してるんだ。ヴァルラムには、もしかしたら膜を破れる可能性がある。浄化と遮断を混ぜた炎を使えないか伝えてくれ。」

そして、しばらく黙った後に、十六夜は暗い目で言った。

「…そうか、ラティアはもう、膜に包まれていなかったか。それは、きっと本人の気が枯渇したからだ。早いとこイリダルのヤツを始末して、連れて帰ってやろうや。」

十六夜が、暗い表情のままで維心と炎嘉に向き直った。

「同じ年頃の娘が居るからよ。オレになら耐えられなかったろう。オレだって、維月と維織を守るためなら、お前達だって裏切るだろうよ。身につまされらあ。」

炎嘉はため息を付いた。

「我は前世、そこまで子達に思い入れがなかったゆえなあ…王として、一族を守ることしか考えておらなんだ。妃は元よりそこまで重要視しておらなんだし。しかし、愛する妃が生んだ娘と妃であれば、同じように必死になったのやもしれぬ…。」

維心は、十六夜を必死に見た。

「それで、維月は。ディークは何と言っておったのだ。」

十六夜は頷いた。

「さっきも言ったろう。城の北、地下一階の牢に、ヴァルラムと一緒に膜へ入れられたまま篭められている。気の消耗が早いので、ヴァルラムが維月に気を分けている。ディークが上の小さな通気孔からそっと声を掛けた時も、ヴァルラムが気を分けてる真っ最中だったらしくて…なかなか返事をしなくて案じたと言ってた。」

それが維心と炎嘉の頭に浸透するのに、しばらく時間が掛かった。そのあと、炎嘉がぐっと眉を寄せ、それを見た維心も、見る見る顔色を変えた。

「気を分けると…まさか、まさかヴァルラムは維月と身を繋いでおるのではないだろうな!?」

確かにそれが手っ取り早い。十六夜は、呆れたように維心を見た。

「あのなあー必要なことだろうが。気を分けてるんだぞ?」

維心はぶんぶんと首を振った。

「そんなことをせずとも手を翳せばこと足りるだろうが!許さぬ!絶対にそれは許さぬからの!ディークにそれを伝えさせよ!」

十六夜は、手を振った。

「はいはい、まだ身は繋いでねぇよ。唇くっつけてるだけだ、ディークが言うには。最初びっくりしたらしいがな。声を掛けても気付かないし。」

炎嘉が足を踏み出した。

「ヴァルラムは維心にそれでなくとも似ておるのに!維月に懸想しておっても、世のためと我慢しておったものを、こんなことで崩れてしもうたら押さえは聞かぬぞ!維心を見よ、婚姻このかた維月を毎夜己の部屋へ連れ帰っておるだろうが!こやつも維月以外には手も触れたことがないというのに!」

維心は、びっくりして炎嘉を振り返った。

「何と申した?!ヴァルラムが、維月に懸想?!」

十六夜が、あーあ、と言う顔をした。

「こら炎嘉!せっかくみんなで隠してたってのに!維月だって、だから表に出て来なかっただろうが!」

維心は、ふるふると身を震わせて拳を握り締めた。そうか、おかしいおかしいと思っておったら、やはりそうだったのか!

「許さぬ!一刻も早く維月を助け出し、ヴァルラムから引き離さねば!」と踵を返した。そして、叫んだ。「兆加!会合の間へ皆を揃えよ!今すぐ攻め入る策を練る!」

炎嘉が険しい顔でそれを追って行く。十六夜は、慌ててそれについて行きながら維心に言った。

「だから、まだしてねぇっての!」

維心は十六夜を物凄い形相で睨んだ。

「手を出してからでは遅いのだ!!何を言うておるのだ主は!」

「そうよ!」と炎嘉も十六夜を睨んだ。「ほんにこんなことには鈍感であるの!!」

十六夜は、二人の迫力に毒気を抜かれて黙って付いて行った。

しかし、心の中では、こう思っていた…オレがこうでなければ、お前ら維月に指一本触れられてねぇぞ?維月はオレの嫁なんだからよ。

しかし、二人は火のように怒って会合の間へと急いでいた。

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