柔らかな土曜日
男なんてみんな馬鹿なんじゃない?
あのバイト君だって
学校の男どもだって
みんな私のことが好きだって気付いてるし。
結局見ているのは外見だけ。
私は清楚なお嬢様でもなんでもないし、
本当は住んでいる所だって、一軒家でもないただのアパート。
父は普通のサラリーマンだし、たまたま母の体調の問題で一人っ子なだけ。
別に一軒家に住んでいるなんて言ったことないし、お嬢様ですとも言ってない。
勝手にみんなが勘違いしているだけ。
私はごく普通に憧れて、ごく普通に恋をしただけなのに
なぜ報われないの?
あの人は付き合っていた彼女がいたことは知っているし、意外と真剣に好きだったことも分かっている。
私はただの暇つぶしに遊んでもらっただけ。
あわよくばいつか振り向いてもらえればいいと思っていただけ。
その小さな願いすら打ち消すのですか?
「お前とはもう遊ばない。
お前とはってゆうのはおかしいか。
俺、しばらく女遊びしないで仕事に打ち込もうと思うんだ。」
突然、というか初めてあの人からかかってきた電話内容がこれ。
「ちょっと…どういうこと?
え?待って?」
私のパニックは当たり前だと思う。
「あー…
んーとな、彼女とは別れた。
この前の見られてたらしい。
んで、しばらく仕事に打ち込みたいなと思って。
適当な人間関係はやめようって決めたんだ。」
なんて勝手な人間。
ひどすぎるのは分かってるけど、どうしても憎むことはできない。
前日にバイト君が言ってたから、クラブに会いに行ったら、見向きもされない。
ちょっと自分の情けなさに笑えてくる。
思わずそこにいた放心状態のバイト君に愛想を振って帰る。
だって、もう来ないから。
滑稽な自分の姿に情けなさすぎて、涙さえ出てきてくれない。
家なんか帰りたくない。
このまま誰か連れ去ってよ。
そう願う日に限って、ナンパもされずトボトボと帰る。
玄関の前まで来た時に思わぬ声がかかる。
「こんな時間に何やってんの?」
あの人かと思って、思いたくて顔を上げると隣の家の高校生。
隣の家は5人兄弟。
まぁ我が家の生活水準もそのくらい。
現れるなら軟派でイケメンの長男にしてくれればいいのに、
現実目の前にいるのは、お調子者の次男。
「夜中に高校生が出歩いちゃだめじゃないの?」
私の素を知る隣人だから、声のトーンもいつもより低めでいい。
「それ言ったら女性が夜中に一人で出歩いちゃだめなんじゃない?」
そいつはニヤニヤと笑う。
「良いのよ、私は別に。」
ぶっきらぼうに返して帰ろうと思ったら、前に立ちふさがりやがる。
「通してよ!帰れないじゃない。」
イライラをすべてぶつけてやろうと、大きめの声を上げる。
「泣きたいなら、泣きゃあいいじゃん。
話くらいは聞いてやれるよ?」
なんで私が隣の家の高校生なんかに話さなきゃいけないわけ?
なんで私の気持ちがわかるわけ?
なんで…
こいつは私のこと見抜いた?
外見以外を見てくれる人?
「ありがとう。大丈夫。」
私は笑って家に入る。
そいつは面食らってたが、私の表情を見たら安心したようだ。
「辛かったら言えよ。
マジで聞くことくらいはできるから。」
私の背中に話しかけ、自分の家に戻って行った。
もしかしたら、私の本質を見抜いてくれるのは案外あいつかもしれない。
ときめきとか激しい恋とかじゃないかもしれないけど、
穏やかな愛を育むことができるかもしれない。
そう思ってもいいですか?
携帯を眺めるともう日付はとうに越していた。
だけど新規メールを作成する。
"さっきはありがとう。
元気になった。また今度話を聞いて。
おやすみなさい。"
恥ずかしくて絵文字は全く使えずに送る。
隣の家だけど。
明日でおしまいです。