ファンキーな金曜日
DJブースには今日もカッコいい姿。
昨日めちゃめちゃシフト入れてる横で確認して、あの子に伝えた。
だから来る。
今日もあの子は来るはず。
俺の気分の上がり下がりはあの子次第だと最近気付いた。
要するに恋ですね。
惚れちゃってるんです。
でも、さっき言った通りにあの子が来るのは、目的があるわけで。
俺だって女だったら好きになるよ、あの人のこと。
最初から叶わないんです。
ぐすん。
初めてあの子がこの店に来た時は、もの凄く浮いていた。
こんな夜の街にお嬢様!?ってくらい清楚で、まぁ友達に連れられて来たんだろうなって分かりやすいくらいだった。
肩から少し下くらいのストレートな髪。
もちろん色は入れてなくて、だけどちょっと栗色で。
ブルー系のニットのアンサンブルに、ひざ下丈のふんわりスカート。
そこからのびる細い脚。
お店に来る客はみんな露出度が高くって、揃って巻き髪で、頭の色も金に近いような子ばっかで、
それに慣れていた俺は一種のカルチャーショックを受けた。
俺自身だってお店に溶け込むようなナリだし。
こんな子まだいるんだなぁって思いながら、バイトに勤しむ。
まぁ、あの子が二度とこんな店(と言っては失礼だが)来るわけないから、気にも留めてなかった。
いや、ここまで観察していれば気にしてるか。
もう会うわけない人に恋しても報われないし、忘れることにしたんだ。
だけど、あの子はまた現れた。
お店の開店準備をいつものようにこなしていると、後ろからトントンと肩を叩かれた。
「あい?何すか?」
一応お店用営業スマイルで振り返る。
「あの…まだ開いてないんでしょうか?」
困ったように瞳を揺らしたあの子がいた。
「え?あぁあと1時間後くらいっすね。」
えらい早く来た客だ。
っつーかお嬢様には早い時間じゃないのか。
「あ…分かりました。ありがとうございます。」
深々と頭を下げて去って行った。
と思ったら振り返った。
様子を眺めていた俺とばっちり目が合う。
見ていたことがバレる!気まずい…。
彼女は小走りで戻ってきて、俺を見上げる。
「あ、あの、昨日の人って、今日もいますか?」
昨日?えーと…
「あの、DJの人…あ、11時過ぎくらいだったかな。」
「あぁ!あの人は今日は休みすよ。」
俺の言葉に明らかに落胆する。
あぁそういうことね。
「教えていただき、ありがとうございます。」
またも深々と頭を下げる姿に、俺は戸惑う。
だって今までそんなに丁寧な人に会ったことねーもん。
「来週の!同じ時間ならいますよ!!」
思わず立ち去る背中に向かって叫ぶ。
驚いたあの子は振り返り、微笑んでまたひとつお辞儀。
なんて綺麗なんだろう…
簡単に恋に落ちました。
だから俺はあの人が回しに来る日はテンションが高い。
「お前、毎日ハイテンションなの?」
ってあの人は楽しげに聞いてくるけど。
「今日お前アシやらねぇ?」
あの人からの突然の提案。
「いや、マズいっすよ。
自分、接客のバイトなんで店長に怒られます。」
あの人のアシやりてぇー!!!
不純な動機ではなく、あの人のプレイを間近で見られるなんて機会ない。
「じゃ俺が店長に言うよ。
お前家とかで回してるんだろ?目指してるんだろ?」
俺、あの人の優しさに涙がでそうです。
ということで、今日はあの人のアシをやることになりました!
緊張と興奮でテンションがさらに上がる俺。
だけど迷惑かけないように、真剣に時間をこなす。
終わった後、燃焼しきった俺は放心状態でカウンターに立っていた。
そんなとき、お店の中では絶対話しかけてこないあの子が、今日は突然声をかけてきた。
「今日ブースにいたね。
凄いね。」
お店で声をかけてこないのは、あの人に見られたくないから、たぶん。
どんな心境の変化?
何かあったの?
いいの?俺と話していいの?
俺、頑張ってもいいデスカ?
好きでいてもいいデスカ?
「俺、マジでDJ目指すわ!!」
あの子は微笑んでくれた。
この想い、届けるから!
いつか絶対!