鈍色な木曜日
今日の空は鈍色だ。
俺のスケジュールは真っ白だ。
「今にも雨が降りそう。
鈍色な空ね。」
「虹色?」
俺の言葉にふわりと笑う彼女。
「馬鹿ねぇ。
にびよ。にびいろ。
薄黒い色のことをいうの。」
「へぇ。」
そうだ。
鈍色を教えてくれたのは彼女だった。
俺の中に彼女が染み着いていたことに気付き、なんだか自己嫌悪。
スケジュールが真っ白なのも彼女とのスケジュールを消したらこうなった。
「私たち別れましょう。」
彼女の言葉は突然だった。
でも原因は俺にある。
ラブホ出た所を目撃された。
なんて失態。
無防備にもほどがあるな。
そんなこんなで昨日水曜日はボーっと過ごした。
だって元々は彼女とランチして、ショッピング付き合って、そのまま家に来て、ディナーを作ってもらい、お泊まりの予定だったのよ。
それがまっさらに。
今日は泊まった彼女を家に送り、仮眠を取って、夜に仕事にって予定だったのよ。
うん、まっさら。
逃した魚はでっかいぞってか?
意外と彼女中心で俺の世界が回ってたんだなって、痛く実感する今日この頃でございますよ。
女遊びも遊びの範疇で実はかなり彼女を愛しちゃってたのよ。
あっさりフラれたのは、彼女の声が決意したもので、揺るがない強さを感じたから。もう俺からずっと遠くに彼女が進んでいることが滲み出ていたから。
誰かと遊ぶ気にもならず、自分の部屋のDJブースでターンテーブルと睨めっこで時間を潰す。
今日は店で誰も踊れないくらい速い曲を中心に回してやる。
くだらない俺の意地。
店ではバイト君が張り切っていて、ちょっとテンションが下がる。
ごめんね、天の邪鬼で。
「何落ちてんの?」
先輩に声をかけられ顔を上げる。
「いやぁなんかバイト君見てたら下がったんですよ。
あと個人的ダメージが。」
俺の最初の言葉にガハハと先輩は笑い、続いた言葉を聞いて肩をポンと叩いた。
「何があったか知らないが、こうゆう時こそ踏ん張りどころだ。」
先輩は俺が言葉を返す前に、バイト君に呼ばれてブースに行ってしまった。
踏ん張りどころね…
仕事入れるかな。
どうせスケジュールは真っ白だし。
よし!仕事やるぞ!
決意した俺は、テンションの高いバイト君にシフトを出してきてもらい、空いている日は片っ端から埋める。
ハイテンションのまま自分の時間をこなし、絡んでくる客に優しく応対する。
いつもと違う優しい俺に、周りはみんなビビっていた。
いつもはどんだけ酷いのよ、俺。
「クールガイな所がカッコいいんですよ。」
バイト君はそんなこと言ってたけど。
まぁ、どうでもいいけど。
さぁ、バリバリ働くよ?俺。
失恋を糧にステップアップするから!
明け方の鈍色の空に誓う。