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邪な水曜日

また見てしまった。


あの男が女と歩いている所を。

しかも腰に手を回し、ラブホの前を歩いている所を。


今回は確定でいいと思う。

絶対に他の女がいるって。



ショックでフラフラになりながら家路を辿る。

人間って凄いことに意識なくても、家までは帰れるみたい。

今日私が証明したわ。


マンションの前まで来ると、懐かしい顔があった。


「あれ?何やってるの?」


元カレだ。いつぶりだろう。


「お前どうした?

なんかひでぇー顔。」


私の質問は無視ですか?

相も変わらずね。


そんなことを腹の中では思いながらも、私の気持ちをすぐ察してくれたことに嬉しくなり、涙が零れる。

いや、涙の洪水が引き起こる。


「うわーーーん!!!」


泣き出した私に驚き、ギョッとしたあと頭を撫でてくれる。

私はその優しさに決壊したダムのように泣き喚く。


「と、とりあえず何があったか言えよ。

ここじゃ嫌なら場所変えよう。な?」


私は必死カバンから鍵を取り出し、押し付ける。


「家?上がっていいの?」


言葉も出せない私は、コクコクと頷いた。

だって、話を聞いてほしい。

元カレってゆう所はマズいとは思うけど、誰かに話を聞いてほしい。


はぁと大きな溜め息が聞こえ、驚いて見上げた。


「分かった。聞いちゃるから。」




久々に男が家に来た気がする。

あの男は家には2回か3回来たけど、最近は全く来ない。

そう思うとまた泣けてきた。


ソファーに座ると真剣な顔で私の顔は覗かれる。


「さて、どうしたん?何があった?」


優しい声が私の部屋に響く。


「浮気、してた。

彼氏が浮気してた。」


私の言葉に元カレは目を見開いた。


「証拠でも発見したん?」


「女と歩いてた。

腰に手を回して。

しかも…」


「しかも?」


「ラブホの前を…」


あぁという顔を元カレはした。

そりゃアウトだなぁと呟く声に、涙がまた土砂降り。





それから何時間経ったのだろう。

私は元カレに、というか元カレという友達でもない微妙な相手にすべてぶちまけた。

頭がガンガンするくらい泣いて、

家にあった酒をすべて飲み尽くして。


ちょうど日付も変わろうという頃に、元カレはふと時計を見やった。

時間を確認したあと私を真剣に見つめた。


な、なに?


「今日俺はお前に伝えたいことがあって来たんだけど。

俺ね、まだお前のこと好きなわけよ。

で、話聞いてたらチャンスかと思ってたんだけど…」


鳩が豆鉄砲くらったような顔をした私を見て、元カレはニヤリと笑いまた言葉を継いだ。


「聞いてると、まだお前は彼氏のことが大好きで仕方ないみたいだし。

まぁ弱みに漬け込むのもどうかと思ったから、今日は帰るわ。」


「え?帰る?」


「これ以上いたら襲うぞ?

御希望なら仰せのままに。」


焦って私がたじろいでしまった。

それを見て元カレは吹き出した。


それが好きな人に対する態度?

馬鹿にされてる?


「もし、お前が辛くて一人で耐えられないなら電話して。

そしたら漬け込むから。」


捨て台詞のように、カッコよく元カレは帰って行った。

カッコいいのかは謎だけど。



一人残されるとガランとした部屋で恐くなる。

冷蔵庫のちょっとしたモーターの音すら嘲笑うかのようで、また涙が零れる。


いっそ元カレに泣きついてしまおうか?

大きく空いた心の穴を埋めてもらおうか?


携帯に手を伸ばし、アドレスから元カレの名前を探る。

番号を確認し、通話ボタンを押す。

ワンコールもせずに先程まで聞いていた声が聞こえる。


「何?もう漬け込まれたいの?」


クスクス笑う暖かい声。



だけど、


「さっきはありがとう。

ごめん、やっぱりもう会えない。

アドレスも消して。」


私の口から出た言葉は全く逆の言葉。

一瞬だけ詰まった声の後、また暖かい声が降り注ぐ。


「分かった。

もう会わないし、連絡しない。

今日お前と会えてよかったよ。

じゃあな、電話は俺から切らせて。」


その言葉の後、3秒の間があってから切れた。


「ありがとう。ありがとう。ありが…っ」


届かない私の声が部屋の中でこだまする。


私はそのままあの男に電話する。

リダイヤルで今話した元カレの下にある名前。

着信履歴を埋め尽くす名前。




ねぇ私たち別れましょう。



私はその言葉を口にするために。


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