唐突な火曜日
「月曜日の雨の日の朝はいつもあなたを見ていました。
水色の傘と、いつも違う女の人。
それでも私はあなたが気になっていました!」
後ろから突然聞こえた声に驚いた。
まるで自分だ。
自分のことを言っているような気がした。
月曜の朝は授業が必修だからサボれない。
しかも雨が降るとバイクに乗れないから歩きだ。
…日曜の夜は淋しいからつい誰かに頼ってしまう。
水色の傘は……アイツがくれた唯一のモノ。
俺が驚くまもなく、横を女子高生が走り去っていった。
顔すらわかんなかったし。
もし、
もしも俺だったら…
やっぱり考えるのはよそう。
清々しく走り去った女子高生を思うと、眩しすぎてクラクラした。
羨ましいな。
あんな風に人を想えて。あんな風な子に愛される人がいるなんて。
いつからだろうか、こんなに道を踏み外してしまったのは。
気持ちを押し殺して、遊び呆ける癖がついた。
そうすると何も考えなくていいんだ。
何も想わなくていいんだ。
時計の針は刻々と進み、気が付いたら俺はまだあの女子高生が通り過ぎて行った場所に突っ立っていた。
虚しさだけがこみ上げてきた。
携帯を手に取り、適当な女の名前を探してアドレスを見ていた。
誰か、誰か、この乾いた自分に水を与えてください。
たまたま一番上に名前のあった女に電話をかけた。
「突然どうしたのぉ?」
甘ったるい声が脳みそを麻痺させる。
「なんとなく。今から行ってもいい?」
「当たり前っ♪
じゃあすぐ来てねぇ!すぐよ!」
簡単に約束を取り付ける。
俺は水を得ることができた。
できたはずだった。
次の日女の家から帰る途中、昨日と同じ道。
また昨日の女子高生を思い出す。
なぜだろう?
自分のことを言っている気がしたから?
違う。
自分にはできないことをしていたからだ。
想いを口にすると言うことを彼女がしていたからだ。
走り去った彼女の姿を思い出した。
俺にもできるだろうか。
もう一度、想いを伝えてもいいのだろうか。
もう一度、あちら側の世界に戻れるだろうか。
俺は今来た駅からの道を、また戻る。
電車に乗りアイツの元に向かう。
無計画で唐突だ。
それでも、アイツに言わなければ。
アイツん家のマンションの前でアイツを待つ。
遠くからアイツが歩いてくるのが見えた。
すぐに分かってしまう自分は、どうしようもなくて苦笑いが出る。
伝えてもいいか?
ずっと前から好きだったって。