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Drive  作者: 夏 小奈津
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最終章 石岡 5月


穴瀬を乗せたジェット機が斜めに青い中空を突っ切って行った。整理がついたはずの気持ちが、まだ少し痛かった。


『ごめんな。そんな自信が、まだ、ない。

時間が足りなかった訳じゃないと思う。

お前と何年も付き合ったとしてもやっぱり同じ答えをだしたのかもしれないけれど。


待ってて、って言えないよ。

ましてや、一緒に行こうなんて言えない。


だけど、もし、また出逢えたら、また始めてみないか?って言うかもしれない。

分からない・・・インドに行ったらなぜか俺は赤い糸を見つけてしまうのかもしれないのだし。』


そういって笑った。石岡がずっと好きだったあの出し惜しみするような笑顔で。


いいのだ、それで。石岡もそう思っていた。


この恋を続けるには自分はまだ若すぎる、と石岡は思った。

穴瀬を待ち続ける、と誓える程きっと自分は練れていない。

一緒に行くと覚悟を決めて、誰のせいにもしない未来を歩いて行ける程強くもなかった。


そして、もしもう一度彼と出逢えたなら、その時こそ石岡は穴瀬を上手く愛することができるのだろうか。面倒くさがりの彼のすべてを受け入れて、彼が心地よくいられる強さで愛して、そのことに満足できるくらいの自分で居られるだろうか。


経験を重ねたら、きっと上手く運転できる。

自分の気持ちを。

恋愛というドライブも。

胸の奥から突き上げてくる、自分をどうしようもなく突き動かす想いを、上手く手綱を捌きながら誰かを愛する日が、きっと、きっと来る。



小さくなるジェット機がとうとう見えなくなって、フェンスを握り締めていた手を離すと手がジンと熱くなった。振り向いて身体をフェンスに預けると、森川が待っていた。



5月。飛行場の風は強い。デートに来たカップルの声が大きくなったり小さくなったりしている。小さな子どもを連れた老夫婦。大学生ぐらいの若者たちがかたまって空を見上げているのは、誰かの見送りだろうか。


森川はポケットに手を突っ込んだまま、石岡を見守っていた。彼は何も言わなくてもとても饒舌だ。


そうやってしばらくフェンスに寄りかかっていた石岡はやっと気が済んで、森川を見た。石岡が下唇を突き出すようにして笑顔を作ると、森川の優しい顔につられたような笑顔が浮かんだ。「もういいの?」とその顔は言っている。


石岡は溜息をついて言った。


「行っちゃった!」


「ん」


肩を並べて歩いた。自動ドアが開いて、空港特有の空気がエアコンに煽られて石岡の鼻をくすぐった。出発ロビー、到着ロビーと書かれたサインが見える。石岡の恋の到着と出発。駐車場に向かいながら、森川が車のキーを振った。


「ね、じゃんけんで決めない?」


大の男がふたり、エスカレーターでじゃんけんをしている姿を、小さな男の子が見あげている。二人はそんなことには気づかず拳を振りあげていた。


「よしっ!」「おお!!!」


森川はキーを石岡の手に乗せた。


「や さ し く し て ね ♪」


二人は顔を見合わせて大きな声で笑った。天井の高い空港のエスカレーターの踊り場で、アナウンスの声と共に森川と石岡の笑い声が響いた。





おわり






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