一
いい加減に死のうかなと思う。
午前二時、夜勤中だ。ここは特別擁護老人ホーム。どうしてなのか分からないけれども、いわば「成り行き」でこの職にありついたのだが、これは僕の人生でも最大最悪の失敗だった。徘徊老人が一晩中、施設内を練り歩いて「おはようございます!」と絶叫し、他入所者を起こして廻る。丑三つ時に大騒ぎ。
僕は普通の仕事がしたかった。普通……。想像するに、きっと普通の勤め人というのは、デスクに向かってパソコンをカチカチ打っている、という、あれだ。しかし、高卒無学無能の僕には、その夢は永久に叶いそうにない。だからこうして老人の尻を拭いている。
もうずいぶん前から休みをとっていない。毎日毎日、夜勤と残業ばかりだ。頭の中が腐っていくような気がする。物事を深く真剣に考える暇もないからだ。社会の歯車としてただただ消耗していくだけの日々。誰が見ても生きている値打ちのない人生。現実感はとうに喪われている。ずっと前から、悪夢の中を這い回っているような心地がする。何とかしなければならないと思うが、何をどうすればいいのか見当もつかない。自殺以外の解決策が思いつかない。想像力も摩滅してしまったのだろう。