第9話 寄り添う心
真夏の海は美しい。これ以上明るい世界はないといわんばかりにまわりを真っ白にまぶしく照らし出す。どこまでも深く青い海、そして抜けるように綺麗な青空に真っ白の雲がところどころ浮かんでいる。そのみごとなコントラストに誰もが目が奪われる。海面はキラキラと波の動きにあわせて強烈な真夏の太陽の光を反射する。
紫織は聖護が出て行った後もしばらくベランダからまぶしいぐらいに青く広い海を見ていた。その鮮烈な光景にすっかり目を奪われていた紫織はふと幼い頃、父、祐一郎が海の写真を見せてくれたときのことを思い出した。
「この海の色はね、本当に綺麗なんだ。おまえの瞳のように青く透明でどこまでも深い美しい色をしているんだ。」
そういって祐一郎は懐かしくその頃に想いをはせていた。
その写真の場所は父が学生の頃に旅行に行った先でみつけた海だった。祐一郎は幼い紫織に世界地図を見せながら説明してくれたが、どこの国かは今は忘れてしまった。それでも紫織はあの時に見た青さと似ていると思った。いつか連れて行くと祐一郎は約束してくれたが、その約束を果たすことは今はもうできない。祐一郎が亡くなってからもう3年が経つ。あの時は本当にこれからどうしていいのかわからず、毎日が不安で怖かった。その頃から自分の中にある魔の力の目覚めは激しくなり、心のバランスが保てず、自分で自分をもてあますようになっていた。毎日のように魔物にまとわりつかれて、嘲られた。そのたびに自分の感情が爆発して恐ろしい力が目覚め、紫織の心は自分に対する疑惑と不安に追い詰められていった。
なぜ、自分は普通の人として生まれなかったのだろう。神の意思で魔を抱えていると父は言ったが神の存在を感じることはなく、自分の中の魔の力ばかりが強大になっていく。想像を絶する魔の力の目覚めに、紫織は魔物たちの言うとおり自分も魔物と同じなのではないかと疑った。そんな不安に押しつぶされそうになり、いっそ死んでしまったほうが楽になれると思うこともあった。それでも、いつも引き止めるのが、父の言葉だった。
「たとえどんなにつらくても目の前の現実から逃げてはいけない。生きなさい。お前は必ず幸せになれる。」
その父の想いに紫織はいつも踏みとどまる。
しかしあれから3年の月日が経つがあの頃と自分は何にも変わっていない。相変わらずつらく自分を抑える日々が続いている。変わったことといえば力がコントロールできるようになって学校にもいけるようになったぐらいだ。しかし学校に行けるようになったといっても、男の中で女であることを隠して混ざって生活するのはひどく神経を使う。その上、人とは違う力を持つことを悟られてはいけないので、なにげない行動であっても気をつけなければならない。この先もっとその生活は難しくなるのだ。これからのことを考えると本当にこれで誰にも気がつかれずにうまくやっていけるのか先が思いやられる。
ふと紫織は、息を深く吸ってみる。潮の香りと新鮮でさわやかな空気が体を包むような気がして目を閉じた。その新鮮な海の香りで紫織の体が満たされた時、重苦しい心の嘉瀬は何一つ変わらないのに、自分がひどくリラックスして気持ちが開放されているのを不思議に思った。この海のせいだ。紫織はそうも思ったが、聖護が近くにいるからだということもわかっていた。さっきは不覚にも聖護の前で眠ってしまった。人前で自分があんなに無防備になったのは初めてだった。ここのところ、ずっと不安で眠れなかったのに、あの時は短い時間でも本当に久しぶりに深く眠れた。聖護の体から伝わるあのなんともいえず心地よい暖かな気のおかげだ。願わくば、ずっとその気につつまれて眠りたいとも思ってしまうほど、聖護の気は気持ちよく紫織を包み込む。
聖護が傍にいると自分の鎧をどんどん剥がされてしまうようだった。紫織はそれが怖かった。おそらく紫織が聖護に心を許せば聖護は手放しで喜んで傍にいてくれるだろう。しかし、それを望んでしまえば、まだ未知の自分の宿命に聖護を巻き込むことになる。紫織の母は自殺、祐一郎は事故と片つけられているが不信な点も多い。おそらく紫織の生い立ちのことがかかわっていたに違いない。いずれ、自分の兄弟と対峙しなくてはならない。その日がいつやってくるのかはまったく想像つかないが、自分に深く関わりを持つ人は命さえ危険にさらすことになる。とくに聖護は、幼い頃に出逢ってから、紫織は何かと心の支えにしてきた。つらい思いを乗り越えて、今こうしていられるのは聖護がいたからだった。紫織はあの日聖護から手渡されたロザリオを肌身はなさず持っていた。紫織はポケットの中のロザリオをしっかりと握りしめる。聖護はあのわずかなひと時で、幼いおびえた紫織の心に暖かい優しさと強さを与えていった。
入学式で出逢ったときは心臓が止まるかと思った。再会できたうれしさよりも自分の運命を知ってしまった今、できればこのまま出逢いたくなかったのだ。それでも毎日のように学校で顔を合わせていると、どうしても聖護の優しさを追いかけてしまう。今まで押さえつけていたはずの弱さを抑えられず、知らず知らずに聖護に頼ろうとしてしまうのである。紫織はそんな自分を振り切るために聖護を近づけないようにするのだが、離れようとすればするほど、気がつくと聖護は傍にいて優しく手を差し伸べてくれる。今だってそうだ。聖護を巻き込みたくないと思いながら、聖護のやさしさを受け入れてしまっている。それどころか、今回は自分の心が弱っていたので故意的に聖護の傍を選んだも同然だった。紫織はまぶしい海に目を細めながら、もう一度、深く息を吸い込んだ。この海にいる間だけだ。聖護の近くにいられるこの時間だけ、ほんの少しだけ聖護のやさしさに甘えるだけなら、と紫織は心に言い聞かせた。しかし、紫織は少しでもその時間が長くなることも心のどこかで願っていた。
昼になると一旦聖護が帰ってきた。紫織は少しだけ横になりながら、本を読んでいた。聖護は心配そうな顔で様子を聞いてきたが、紫織はできるだけそっけなく、大丈夫だとだけ応えた。おなかがあまりすいてなかったので昼食の誘いを丁重に断ると聖護が、栄養になるものを食えと何も食べない紫織を心配して聖護は昼食後にサンドイッチをもって戻ってきた。
「食べられそうになったら食べろよ。熱がひかないぞ。」
「心配症だな。大丈夫だよ。」
そういいながら、聖護のほうに振り向くとTシャツを脱いで上半身裸の聖護とおもむろに目があった。紫織がぱっと赤い顔をして目をそらしたので聖護も一瞬どきっとして後ろを向いた。少しきまずい雰囲気が流れた。
「なんだよ、紫織。」
「別に。いつも幼い頃から一人部屋だから、ちょっと驚いただけだ。」
「ああ、そうか。お前、ずっとひとりだったんだなあ。」
着替えながら聖護が応える。
「でも、これからはちがうだろ。俺たちは友達だからな、お前は一人じゃないだろ?」
紫織が驚いたように聖護に向き直ると聖護がいつの間にか着替えを済まして紫織の目の前にいる。聖護の黒く澄み切ったまっすぐの瞳が紫織に向けられていた。この瞳だ。この瞳に見据えられると紫織は自分をごまかせない。紫織はこの瞳に吸い込まれるようにに見つめていた。そしてしばらく沈黙が続くと、紫織はちょっと困ったように微笑んだ。
「君は不思議な人だね。」
その表情はうれしそうでもあり、寂しそうでもあった。聖護はその複雑な表情がやや気にかかったが、以前に比べると格段に心を許してくれているように感じて、ほっとした。聖護は紫織に午後もおとなしく寝ているように言い聞かせるとあわてて午後の課外授業に出て行った。
午後の課外授業は、各クラスで自由設定になっているので、聖護たちのクラスはエネルギーが有り余るのか、ビーチバレーのクラス内勝ち抜き戦をすることにした。このホテルの前の岩場の細い散策路を降りていくとビーチが広がっている。聖護を含む班長と委員長はそこに陣取ってコートを張ることにした。その間、ほかの連中は海で泳いで騒いでいる。
「ちぇっ!あいつらいい気になりやがって。クソッ、うらやましい。」
水野が手を止めて汗をふいて海ではしゃぐ連中をうらやましそうに見る。
「おい、文句いってないでこれ持てよ。」
聖護がネットを差し出す。
「もう時間がないんだよ。早くやっちまおうぜ。その後、試合がはじまれば待っている間に泳げる。」
聖護が水野やその他の班長に声をかけて作業を促す。
普段から聖護は仲間とじゃれあったり、一緒にはめはずしたりと気さくにつきあうので友達が多い。しかし、何かことをするとなると目的に向けてきっちり仕事をする。チームの時などはうまくみんなを仕切って仕事をはかどらせた。そのため、大人はもちろん、同級生からも信頼が厚い。実際、今も班長たちは委員長より、聖護の言うことを聞く。委員長でさえ、聖護に頼る。何を決めるにも聖護に伺いを立てる始末だ。聖護自身はそうやってみんなに頼られることをたいして気にも留めてない。自然に自分からしきって仕事を始めてしまうところもあるので当たり前の流れでその形になってしまうのである。
ネットを張り終えると聖護は海で騒いでいる連中を呼び戻しにいった。みんなが集まってくると聖護がその場を仕切り、そしてルール説明を委員長が済ませると勝ち抜き戦がはじまった。聖護は1試合目に審判をやった。その後は5試合目が自分たちの試合なのでそれまで海で七海と泳ぐことにした。今回は班のくじ引きで七海とペアを組むことになっている。聖護はもちろん、七海も運動神経がいいので優勝候補と噂されていた。
「おい、七海、絶対優勝しようぜ。」
聖護が意気揚々に泳ぎながら七海に声をかける。
「聖護お前、熱いタイプだなあ。」
七海は泳ぐというより、仰向けにぷかっと浮かんだ状態で聖護の方に目をやり涼しげな顔で笑って応える。
「まあ、お前ががんばりゃあ、勝てるでしょ。お前以上に運動神経いいやついないもんな。俺は同じチームでよかったよ。お前を敵に回したくない。」
七海はくすくす笑う。
七海は聖護とは対照的で、いつも飄々としていて物事に熱くなるタイプではない。どこかクールでさりげなくなんでもそつなくこなす。聖護はそんな七海をはじめのころはあまり好きではなかったが、付き合ううちにおもむろに自分を出したりはしないが、いつも飄々としているようでしっかり自分の考えを持ち、まわりに流されないのにうまく回りと付き合ううまさに聖護はだんだんと見方が変っていった。聖護のまわりに集まる友人たちのほとんどは自分を頼りにしてくるのでどこか自分が守ってやらないとと思っているところがあるが、七海に関してはそんなところはなく、楽につきあえる。七海のほうも聖護には一目置いているところがあるが、他の同級生とは違って聖護に対して頼る風はなく対等な態度をとっている。しかも同級生で聖護をおまえ呼ばわりできるのは七海ぐらいで、まわりもそんな七海に対しては一目置いていた。
「よくいうよ。俺もおまえを敵に回すと一番やりにくいんだぜ。一緒でよかったよ。今回はいただきだな。」
聖護はそういうと勢いよくジャンプして水の中に飛び込んだ。潜水して七海の足元までいくと水面から顔をだした。七海はその様子を横目で見ながらまぶしそうに目を細める。
「俺はあんまり勝負事が好きじゃないんだよ。ほんとおまえは動物的なやつだな。」
七海がそういうとふっと後ろを振り向き変な顔をした。
「どうした?」
聖護がその様子に気づいて声をかけた。
「いや、誰かに呼ばれた気がしたんだ。」
「呼ばれた?」
聖護がいぶかしげに七海に聞き返す。
「俺たちの周りには誰もいないぜ。」
随分ビーチから離れて泳いできているので回りに人はいない。
「ああ、でも、こっちに来てからいつも誰かに呼ばれてる気がするんだ。」
「こっちに来てから?」
「ああ、変な夢みるしな。」
「そう言えば、バスでそんなこといってたな。どんな夢だ?」
「ああ、それが・・・。」
七海が話をしようとしたときに笛の音が聞こえた。二人がビーチのほうを振り返ると高岡が戻って来いと大きく手をふっている。
「ああ、時間だ。あとで聞くよ。おい、気合入れろよ、七海。」
聖護は勝負に目が輝いている。
「はいはい。わかりましたよ。将軍様。」
七海はため息をついて肩をすくめてくすっと笑った。二人は目をあわせるとせいので同時にジャンプし勢いよく泳いで戻った。試合は、大差で聖護と七海のコンビが勝った。そのまま、勝ち抜いてベスト8に残り、明日の午後に準々決勝からはじめることにして自由時間となった。
そのあとは七海と話をするどころではなく、聖護の周りに人が集まってきてみんなで泳いだりじゃれあたりしていているうちに集合時間いっぱいになってしまった。聖護は七海のことが気にかかったが、話は夜にでも聞けると思い、その場をやり過ごした。柳の号令でみんなコートのそばに集まると夕食場所と集合時間を確認してすぐに解散となったので、生徒たちはホテルのプールサイドにあるシャワールームでシャワーを順番に浴びて帰った。
聖護は最後にシャワーを浴びて、濡れた髪をタオルで拭きながら部屋の前までやってきた。ふと中から紫織の声が聞こえてくるのに気付いた。その声はあきらかに様子がおかしい。あわてて鍵を差し込んでドアを開けると紫織の叫ぶような声に一瞬ヒヤリとする。
「違う!僕は、違う!」
聖護があわてて中に入ると紫織はベッドに横たわっていた。どうやらうなされているらしい。聖護は荷物をバスルームに投げ込むとすばやく紫織に近づいて紫織の横たわるベッドに座って紫織の顔を覗きこんだ。紫織は汗をかいて眉間にしわを寄せ苦しそうな表情をしていた。
「違う!来るな!」
紫織が叫ぶ。
「紫織?」
聖護がうずくまっている紫織の肩を少しゆすってみる。紫織は目を覚まさない。聖護がため息をついて、持っていたタオルで紫織の額の汗を優しく拭いてやった。
「聖…護…。」
ふと名前を呼ばれて聖護はどきりとする。起きたのかと思ったが、まだ眠っているようだった。
「聖護…助けて…。」
紫織の白い肌に閉じられた目から涙が一筋流れた。聖護がはっとする。
「聖護…。」
紫織が苦しそうにもう一度聖護の名前を呼ぶと今度は聖護に手を伸ばす。とっさに聖護が紫織の手をとると紫織の方からぐっと力強く握りしめてきた。すると苦しそうにしていた紫織の表情がすうっと穏かになって静かに寝息を立て始めた。聖護はあいた方の手で紫織の涙を優しくなでるように拭ってやった。そのまましばらく聖護は紫織の穏かな寝顔を眺める。
「こいつ、眠ってると子供みたいだな。」
聖護はふっと微笑むとしっかり握られた手を見てみる。紫織の手は華奢で聖護より小さい。聖護の大きな手を白く細長い指が必死に握りしめている。その手が聖護に穏かなぬくもりを伝えていた。熱は下がったらしい。聖護は少し安心してもう一度紫織の眠っている顔を眺めた。紫織はどんな夢を見ていたのだろう。助けてといっていた。いつも無表情でそっけなくしているが、紫織は重くのしかかる何かにおびえて苦しんでいる。聖護は無意識の中で自分に助けを求めてくれたことに対してうれしさを感じながらも、紫織が抱える心の闇を思いやった。聖護は紫織の不思議な力のことを知っただけでそれ以外何一つ知らないことに改めて気付いた。もう少し、紫織のことを知りたい、いや、知らなければならない。聖護はそう思いながら、柔らかい髪を優しくなでて穏かに寝息をたてる紫織の寝顔を見つめていた。辺りはだんだん薄暗くなってきている。聖護は安心したのか紫織の隣でいつの間にかうとうと眠りについていった。
紫織がぼんやりと目を覚ますと聖護が傍にいて一瞬はっと驚いた。しかし聖護は眠っているようで、気持ちよく寝息を立てている。さらに紫織は自分が聖護の手をしっかりと握り締めていることに驚いた。聖護が握っているのではなく、紫織自身がしっかりと強く握り締めていたのだ。紫織はじっとその手を眺めると、聖護の優しさを想い、ふっと微笑む。
紫織は聖護を起こさないように体を起こすと、体が軽く、熱がさがったことがわかった。紫織は近くにいる聖護をもう一度じっと眺める。聖護はいつも笑顔で明るい雰囲気だが、こうしてだまっている顔は額は知的にやや広く美しい野生動物のような精悍な顔だちをしている。今日は天気もよかったのでしっかり日焼けしてその精悍なイメージがさらにくっきりとひきしまって見えた。いつもは人懐っこい表情で話しかけてくるが、時に真顔で漆黒のように真っ黒な瞳でまっすぐに見据えられる。紫織はその目をそらすことができないほど、あの瞳に強く囚われる。
ふと、あの巨大蜘蛛と対峙したときに見せた顔を思い出した。あのときの聖護はいったいどうしたのだろう。今まで見たこともない顔だった。そしてあの神気を帯びた力。聖護は何を抱えているのか。本人にまるで自覚がないようだったが、なぜなのか。その力はいつも紫織を助ける。今もこうして紫織を癒している。聖護は何者なのか。紫織は聖護の髪にそっと触れてみる。やや乾きかけた柔らかい髪からほんのりシャンプーの匂いがふわっと香っってくる。紫織はもうしばらくこのままでいたいと心から願った。今、この部屋には穏かで静かな時間が流れている。外の景色はやや赤紫を帯びてだんだん薄暗くなりつつあった。まもなく日が落ちる。紫織は窓の外の景色に目を細めた。
聖護が目を覚ますと目の前に紫織の姿はなかった。はっと体を勢いよく起こすと自分の体にかけられたブランケットが床にすべり落ちた。
「紫織か?」
ふっと微笑んであたりを見回したが紫織の気配がない。静かな空間に突然電話の音が鳴り響き、聖護は一瞬驚いた。
「はい。」
聖護が寝起きの声で電話にでた。相手は柳だった。
「おい、須崎か?そこにいたのか、食事時間だぞ。班長が遅れてどうする?間宮を連れて早く来い!」
そういうと柳は勢いよく電話を切った。時間をみると6時半になっていた。
「やべっ!」
聖護はあわてて部屋を出る。紫織を探す前に、とりあえずレストランに顔を出したほうがよさそうだと判断して直接向かった。
「遅いぞ。今、間宮も来た。早く座れ。」
そういって柳が聖護に席を指を差す。聖護は眠っていて遅れたことを詫びるとすぐに席についた。聖護は席に着くなり、目の前に座っている紫織を見て話しかける。
「よかったよ。探しに行こうかと思ってたんだぜ。」
「ああ、熱が下がったから気分転換に外を散歩してたんだ。」
「そうか、調子よくなって良かったな。朝より顔色がいい。」
紫織は食事をしながらちらっと聖護の顔を見た。自分が直しておきながらやはり本人に自覚がないようだ。他の誰にもそうなんだろうか。聖護が触れるだけでヒーリングの力がが発揮されるのだろうか。紫織はふとそんなことを思いながら、聖護と七海の活躍に盛り上がる同級生の話を聞きながら食事を済ませた。
夕食後、聖護は班のやつらに呼ばれているから1015室に少し付き合ってくる、なんかあったら連絡するように紫織に言って席をたった。紫織はだまって頷いて部屋に戻っていった。
七海の様子がおかしいことになんとなく気付きはじめている聖護。そして居なくなった紫織。夜の海で何かが起こります。是非次回も読んでくださいね。