表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/52

第22話 秘密の告白

新しいキャラが登場します。人間じゃないですが。準レギュラーのつもりです。よろしくお願いします。

 3人は教室にもどって帰り支度をすると、聖護は紫織と七海を先に医務室へ行くように促して廊下に誰もいないことを確かめて携帯電話を取り出した。

 

「聖護です。少し場所を借りたいのですが…。」


聖護はもう一度周囲を確認すると、事情を話した。電話の向こうの涼子は、少し考えていたが、二人がそれで納得したのならと、承諾してくれた。涼子が不安を覚えるのは理解できる。聖護も紫織の話を受け入れたとは言え、不安がないわけではなかった。むしろ、心配が募る。そんな思いを心の中に押し込めるように携帯電話を切ると、紫織と七海のあとを追いかけた。

 医務室にいくといつものようにさわやかな笑顔で涼子は3人を迎えてくれる。事情がわからない七海はやや戸惑いがちだったが、涼子のグラビアアイドル級の笑顔につられて笑顔で挨拶をした。


「こっちの部屋の方がいいんじゃない?」


涼子は診察室の奥を指差した。聖護が頷いて涼子に促されるままに休養室へ入ると、紫織と七海も後へ続いた。


「事情は聖護君から聞いたわ。紫織君、本当にいいのね。」


涼子が紫織に目で確認するように視線をやる。紫織は涼子の視線をしっかりと受け取って、だまって頷く。涼子は軽くため息をついて、わかったといわんばかりに頷いた。


「誰も来ないと思うけど、念のため、こっちの部屋で待機してるわ。」


そういうと涼子は休養室のドアを静かにしめて出て行った。


 いつも、見慣れた顔なのに何かが違う。七海はなぜこんなに警戒するのか戸惑っていながらも、ここにただならぬ雰囲気が漂うことを敏感に感じて体をこわばらせていた。


「七海、今から紫織が言うことを絶対に他人に口外しないで欲しいんだ。おまえだから話すことにした。もし口外したりしたら、俺はおまえが友達でもただじゃおかない。」


七海はビクッとした。聖護の顔が今まで見たこともないほどに厳しく真剣な顔だった。これまでも聖護が凄んでいる姿は何度か見ている。そのたびに普段見せないほどに恐ろしい何かを感じるのだが、いつもは心から怒ってはいないのだろう。今、目の当たりにしている表情は、それとはあきらかに違う。研ぎ澄まされた美しい刃物のように鋭利でゾクッとするような怖さがある。何者をも容赦しない無情の顔だ。それだけに、七海に与えられたプレッシャーは相当なものだった。それでも、七海はびびる気持ちを必死に抑えるように苦笑した。


「おい、おい、聖護、物騒だな。口外したら殺してやるってマジな顔してるぞ。そんな大それた話しなのか?」


いつもなら、聖護は七海の軽口にも冗談ぽく返してくるのだが、今日は無視された。


「誰にも口外しないと約束するか?」


 聖護の漆黒の瞳が鋭く刺すように七海を睨んでいる。尋常じゃない様子に七海は顔をこわばらせて黙って頷いた。聖護はしばらく鋭い視線で七海を捕まえていたが、ふっと視線をはずすと、後ろでその様子をじっと眺めていた紫織に振り返った。聖護の後ろに控えていた紫織は、一瞬聖護と視線を交わしつついつものように無表情を保っていた。しかし、七海にはその蒼い瞳がいつもと違って痛いほどの厳しさを伝えてくるような気がした。

 紫織がゆっくり動く。途端に部屋の中をピンとした緊張感が張り詰める。こんなときになんだが、七海は二人の様子が本当にカリスマの威厳と美しさを兼ね備えた女王とその女王を守るおそろしく腕のたつ忠誠心ある騎士のように感じた。

 二人の間はいつも、他の同級生とは違う空気が流れていた。ある時はさほど話もしていないくせに妙に互いのことをわかっていたり、ある時は何かあった様子は微塵もみせないのに微妙に二人の空気がピリピリしていた。学校では紫織と聖護が一緒にいるよりも七海と聖護が一緒にいるときのほうが多い上、授業が終わると紫織は迎えが来るのですぐに帰ってしまうことが多い。普通は分かり合おうとする態度や行動、それにともなう言動があるはずなのに、七海は二人に関してそれらしき様子を見かけたことがない。唯一あるとすれば聖護が明らかに紫織を守るようなオーラを出して傍に存在することぐらいだ。七海はしばらく二人の近くにいるが、近くにいても二人の関係に関してはわからないことだらけだった。

 それでも、七海はなぜかこの二人にひきつけられるのだ。聖護は気も会うし、今まで特定の友人をもたなかった七海にとっては唯一信頼できると思えた。それに、聖護は何をしていても自分を満足させるような手応えのある出方をしてくる。一筋縄ではいかないのに、なぜかそのやり取りが楽しいと感じさせる。聖護も認めてくれているのだろう、気付くと七海はいつも聖護の傍にいた。

 紫織は…。はっきりいってあの蒼い瞳がはじめは怖かった。じっと睨まれると寒気がするほどに威圧感を感じていた。しかし、聖護はその紫織をこの上なく大切にしている。だから、聖護と一緒にいると当然のように近くに紫織がいることになる。紫織に対して聖護はただの友達と思えないほどに執着しているように感じて七海はいい気はしなかった。しかし不思議と夏の合宿以来、さほど、紫織が嫌でもなくなった。

 確かに慣れてはいないが、最近では見方が変わってきてさえいる。寡黙で聖護と七海以外、相変わらず人を拒む様子はかわないが、クールで無表情を装いつつ、人をよく見ていてさりげなく助けている。自分は絶対に前に出ることはないが、頭が良くて人一倍繊細な神経なのだろう、周りで起こっている状況を的確に把握していて一番効果的なやり方でツボを押さえて動いている。時々当事者よりよくわかってるんじゃないかとさえ思うときがあるくらいだ。自分も家の事情から大人とばかり付き合っているので、同級生が妙に子供じみて物足りなさを感じることがあるが、聖護もそうだが、紫織もその辺の大人より大人だった。七海はこの2ヶ月一緒にいて、紫織は本当は優しいやつなのではと最近では思い始めている。だから、笠井のことも何かかかわっていて、もしかしたら助けてやれるかもしれないと思って紫織に話す気になったのだ。


「七海、笠井は魔物に取り憑かれていたんだ。」


紫織が真顔で言った言葉に耳を疑った。


「魔物?」


七海はからかってるのかといわんばかりに繰り返した。紫織はこの七海の反応にやはりかといわんばかりに薄っすら笑った。しかし、蒼い目は笑ってはいない。紫織は目を閉じて何かを念じるようにその清麗で繊細な美しい顔を微妙に動かした。

 ふと、部屋の中の空気が電流に触れたときのようにピリピリとした感触に変わった。そして紫織は目を開けて七海のすぐ横の床に視線を落とした。七海はその様子に息を呑む。紫織の瞳が紫に光っていたのだ。信じられないものを見ているといった様子で固まっている。ふいに何か感じたのか、七海はビクッとして自分の立っている足元を見た。

 そこに紫の煙とともに何か小動物のようなものが姿を現した。この感じは魔物の一種だと聖護は一瞬警戒する。紫織は表情を変えずに七海の足元の小動物を見ている。

 この小動物のような魔物は全身真っ白な柔らかそうな毛で覆われていて、落ちそうなほどの大きな紫水晶玉のような目を持ち、猫のようなピンとした三角の耳をしていた。見かけは背中の翼のような小さな羽根を除けば小猿のようだった。しかし、大きな紫の瞳に宿る鋭い光と両手足のむき出しになっている鋭い爪が、魔物の獰猛さを表わしている。その魔物は姿を現すと紫織の前に少し近づいて跪いた。


「お呼びでしょうか。ご主人様。」


もとより固まっている七海はもちろんだが、聖護ですら、その様子に驚いた。


「ああ、デュリン。おまえに知っておいてもらいたい者たちがいる。ここにいる者たちには私と同様に仕えるのだ。この者たちの命令は私の命令と同じだ。」


紫織は平然として当たり前のように穏かに話しているが、その響きには有無を言わせない強引さがある。聖護も七海も見たことのない紫織の様子にさらに驚いているようだった。


「はい。」


デュリンと呼ばれた魔物はそう返事をしたとたん、はっと何かに気がついて、七海の後ろに飛びのいた。


「ご主人さま…?この者は…!」


聖護をみて怯えるように後ずさる。


「心配するな。この者は私の守護者だ。おまえに危害は加えない。」


「ほんとうでございますか…?」


デュリンはまだ疑いながら怯えるように聖護を見やる。しかし、主人からは何も発せられないとわかって諦めたようにもう一度跪いた。


「かしこまりました。」


怯えながらうなだれている。しかし、紫織は無表情のまま淡々と言い放つ。


「それだけだ。」


「はい。」


そう返事をした途端、デュリンは羽を広げて飛び立つと1回転して紫の煙とともにふっと消えた。

 しばらくしんとしていた。七海は目の前で起こったことが信じられないといった様子だ。聖護は、機嫌が悪そうに紫織を睨んでいる。紫織は相変わらず無表情だ。


「間宮…。おまえ、何者なんだ?おまえが魔物…なのか?」


七海がおずおずと感情を見せずに視線を向けてくる紫織にたずねた。


「違う。俺達と同じ人間だ。」


聖護が紫織をかばうように横槍をいれる。その言葉に紫織がわずかに反応した。七海は紫織の蒼い瞳が一瞬曇った気がした。


「少し、普通の人と違う力があるだけだ。」


紫織は聖護の言葉に寂しく笑って七海を見た。七海はその顔を見て、なんとなく察した。おそらく、自分のこの状況を好ましく思っているわけではなく、できるだけ隠しておきかったのだろうと思った。そしておそらく聖護はそれを知っていて、紫織を他の者の目から守っているのだとも。


「なぜ、俺に?」


紫織は七海の言葉の意味を察して、口を開いた。


「ひとつは、笠井の身に起こった真実をわかってもらうため。もうひとつは、君を信頼しているから、僕達の真実を知っておいて欲しかったんだ。」


七海はずっと気になってた。自分は紫織にとって何者なのだろうか…。知り合い以上友達未満と思っていた。君を信頼していると言われて、妙に心が躍る。なんだ、自分も間宮と友達になりたかったのか、今更ながら自分の気持ちを知った。聖護といるうちに、いつのまにか紫織のことが気にかかるようになって、対等な友人として認めてもらいたいと思っていたのだ。そんな自分の気持ちに気付くと七海はふっと笑った。

 紫織は不意に七海が笑ったことを不信に思い、訝しげに七海を見た。


「なんで笑ってる?」


しかし、口を開いたのは聖護だった。七海は聖護を見て、笑顔で答えた。


「いや、信頼してもらって素直にうれしいと思っただけだ。」


七海に真実をぶつけることはある意味一番心配だっただけに、紫織も聖護も七海の反応を見て少し安堵した。


「僕達ってことは、聖護も何かあるのか?」


七海はすかさず、聖護に視線を向けた。


「ああ、紫織を守るためだけに発動する力だけどな。」


聖護のその言葉に紫織は一瞬目を細めた。うれしそうな顔ではないことを七海は見てとった。紫織は聖護すら巻き込んでいることを本位には思ってないらしいと理解した。


「なるほど、やっぱり騎士ナイトだったんだ。」


そう、七海が意地悪くいうと、聖護はむっとしたように睨み付けた。


「おおこわっ!本当、おまえ、間宮のこととなると怖いよな。魔物もおまえを見て怯えてたぞ。」


そういって七海はいつものように屈託のない笑顔で笑った。本当は、普段の聖護が放つわずかな神気に触れて怯えたのだが、あえて説明はせず、聖護は罰が悪そうに不満気な顔をした。しかし心底起こっている感じはなく、いつもの冗談でつっこむの時のやり取りと同じ顔だった。ようやく緊迫していた部屋に和やかな雰囲気が戻ってきたようだった。


「でも、さっきのデュリンって何者なんだ?おまえにえらく懐いてたけど?」


七海は海外でもその名を知られる服飾ブランドをもつグループの会長の直系である。あのように傅く様子にこなれている。ただ、なぜ、紫織がああして、魔物に傅かれるのかを知りたかった。しかし、聖護はその質問に再び顔をこわばらせた。


「デュリンは、僕の使い魔だ。怪我をしてこっちの世界に迷い込んで来たのをたまたま通りがかって見つけたんだ。悪意を感じなかったので、連れて帰って手当てしてやった。そしたら、ある日、傅いてきた。デュリンの一族はもともと恩を受けるとその者と主従関係を結び、ずっと仕える種族らしい。それで、帰るところもないので家に住まわしてるんだ。」


 そうやって顔色ひとつ変えずに話す紫織を七海は面白そうに眺めていたが、聖護は不機嫌だ。しかし、何も言わない。おそらく、なぜ俺に話をしなかったんだという、ある意味わがままな不満なんだろうと七海は勝手に思った。聖護は強引で押しが強い。誰でも自分の思うようにしてしまうところがある。七海は、普段そんな聖護を見慣れているだけに、紫織に対しては思うようにならないもどかしさに子供のようにすねたりする聖護を目の当たりにして、余計に面白がった。おそらく、この先こいつらと付き合っても退屈はしないはずだと七海は満足気な顔をした。

 そして、一瞬大きく息を吸うと七海はまた真顔に戻った。


「話は戻すが…。笠井のことを教えてくれないか。」


紫織と聖護は七海の目をみてゆっくりと頷いた。




次回は斉藤と笠井のその後のお話です。是非またお付き合いください。


もう少しお待ちください。今執筆中です。大分仕上がってます。もうまもなく更新します。

大変申し訳ございません。m(__)m 2007.04.20

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>現代FTシリアス部門>「蒼い十字架」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ