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第17話 聖なる光 

「俺が殴ったんだ…。鳩尾…。しばらく気付かないよ。」


聖護はベッドで眠る紫織の顔を見つめて思いつめるように低く重苦しい口ぶりで言った。


「えっ?聖護君が?どうして?何があったの?あなたたちの間に…。」


涼子が驚いて聖護を見つめて、聖護の返答を待った。


「わからない…。」


そう言うと聖護はそのまま言葉を飲み込んでしまった。そしてその目は瞬きもせずに紫織の顔をじっと食い入るように見つめ続けている。しばらく沈黙の時間が流れた。涼子はいくら待ってもその先、聖護からは言葉が出てこないように感じて心配そうな表情で軽く息を吐くと、一旦その場を離れて隣の部屋に行った。聖護がめずらしく動揺しているので、気を落ち着かせるために棚からコーヒーカップを取り、カップの上にドリップを準備してコーヒーを入れ始めた。

 聖護はしばらくじっと紫織の顔を見つめていたが、涼子が部屋を出て行くと、ゆっくりと紫織の髪に手を伸ばした。


「紫織…、何があった?あれは誰なんだ?おまえはどうしてしまったんだ?」


聖護は紫織の髪をゆっくりと撫で付けながら泣きそうなぐらい心配で不安げな顔をして小さくつぶやいた。すると聖護の体からぼわっと白い光が現れて、聖護は一瞬はっとする。その白い光は徐々に大きくなってそのまま紫織の体を包み込んだ。聖護には紫織の顔が幾分優しく穏かになっていくように見えた。同時に聖護の中で渦巻いていた不安や緊張が和らいできて、いつものように紫織の存在感が手に取るように伝わってきた。


「紫織…?おまえなのか…?」


聖護はやっとほっと安堵する表情を見せた。


― ガシャンッ!


突然何かがぶつかって割れる音が静けさの中を割って入った。その音にビクッとして聖護が振り返ると、部屋の入り口でコーヒーのカップを床にぶちまけたまま驚いた顔をした涼子が呆然と立ち尽くしていた。


「…先生…。」


聖護も驚いて涼子をみやる。


「しょう…ごくん…なの?君はいったい…?」


聖護は整った凛々しい顔を少し悲しそうにゆがめて苦笑するとまた黙って紫織の方に顔を背けてしまった。そして紫織の髪をなで、反対の手は紫織の手をとった。すると二人を覆う白い光はみるみるエネルギーを増して濃くくっきりとしていった。そのうち聖護の漆黒のように真っ黒な瞳にもぼわっと白い炎のような光が現れた。どのくらいの時間がたっただろう、少しずつ光は弱くなって薄れていき、やがて消えて見えなくなった。すると、紫織がうっすら目を開けた。


「しお…る?」


聖護がおそるおそる紫織に声をかける。紫織は少しぼんやりしていたようだったが、視線の焦点を合わせるように一瞬目を細めてからしっかりと目を開けた。そして傍らに座る聖護の方に頭をゆっくりと向ける。聖護は目を開けた紫織が、いつもの深く透き通る紺碧の海のような瞳だったのを確認して、一瞬ほっとしたような表情をみせたが、紫織が出逢った頃のような不安でおしつぶされそうな表情ですがるように悲しげな瞳を聖護に向けくると、聖護はその瞳を捉えて心が締め付けられるような気持ちになった。


「…聖護……。僕…。」


「紫織…。大丈夫。俺がついてる。心配するな。もう少し休め。」


紫織が何か言おうと口を開きかけたところを聖護がやさしく微笑んでなだめるようにさえぎった。紫織はもの言いたげに聖護をじっと見つめる。そしてやがて紫織の目から涙がこぼれた。


「ばか…、泣くな…。」


聖護は低い声でぼそっとつぶやくように言うと、もう一度紫織の髪を優しくなでた。紫織は安堵したのか、聖護の暖かい手をかみ締めるような表情をして小さな声でつぶやいた。


「よかった…。また、戻ってこられた…。」


紫織が目をとじると涙が後から後からこぼれる。


「泣くな…。紫織。」


聖護は髪をなでていた手で紫織の涙をぬぐってやる。紫織は頷くようにごめんとつぶやきながら何度か頭を動かした。そうして安心したように聖護の手を握り締めて安らかな顔をして眠りについた。

 その二人の様子を呆然と見ていた涼子は、はっと我に返って、あわてて床に散らばった割れたカップの破片を広い集めた。そして隣の部屋に一旦戻ると、床を拭くための雑巾をもって戻ってきた。涼子は気を取り直して床を拭いてさっさと片付けると様子が落ち着いた二人の傍に近づいてきた。


「聖護くんも…、君も紫織くんと同じ不思議な力を持っていたのね。」


聖護ははっと驚いたように涼子の顔を見上げた。


「先生…紫織の力のこと知って…。」


涼子は苦笑しながら複雑な顔をして頷くと、聖護の隣に腰掛けた。そして紫織を起こさないようにと抑え気味の低い声を発した。


「ごめんなさい。隠してて。でも、誰にも言えないことだし、誰かに見られたら困ることだったから…。まさか、聖護くんもだなんて思いもしなかったものだから…。」


「もしかして、持病って?」


聖護も抑え気味の声で尋ねると涼子は申し訳なさそうに頷いた。


「でも、もともと紫織くんは、デリケートで心の状態が体に現れやすくて弱かったのは事実よ。この力がコントロールできずに、初等部の頃はほとんど学校にこられなかったの。その所為で心も閉ざしてふさぎ込んでた。だからしょっちゅう熱を出していたの。私はもともと間宮先生が亡くなった後から、彼の主治医をしてきたのよ。」


涼子は悲しそうな顔をして聖護をじっと見た。聖護は涼子の目をじっと見つめると、ふと紫織の顔に視線を落とした。


「そうだったんですか…。」


聖護は何かじっと考えるように紫織を見つめている。


「あなたはいつから?その力は…。」


「紫織と話すようになった夏頃からです。…俺にもなんなのかよくわからないんです。」


そういうと聖護は紫織の手を握ったままぎゅっと目を閉じて身体をこわばらせた。涼子にはここのところ急に大人びてあやうげなところは微塵にもみせなかった聖護が、今だけは自分に何が起こっているのかわからず、不安と怖さで一杯の13歳の等身大の少年のように見えた。そして、一瞬間があくと、再び聖護は目を開けて紫織の顔を見ながら口を開いた。


「…でも、紫織が危険になったり、怪我をしたり、病気になったりすると俺の意志に関わらず、さっきみたいな白い光が現れるんです。そして魔物に対して攻撃したり、防衛したりするんです。さらにこの光を紫織が浴びると怪我が治ったり、心が穏かになって安定して元気になるようなんです…。」


「そう…。やっぱり…。あなた達の間には、はじめから何かあるような気がしたけど、やはりそういうつながりがあったのね。それを互いにどこかでわかっていて引き合って、出逢うべくして出逢ったってことなのね。」


そう言うと涼子はそおっと聖護の肩に手を置いた。聖護は一瞬びくっとしたが、涼子から伝わる暖かいぬくもりに安堵して涼子の顔をもう一度見上げた。涼子は聖護の目を見てニッコリいつもの明るい笑顔で笑った。


「なあんか、ちょっと驚いたけど、安心しちゃったわ。紫織くんの本当の心をわかってあげられるあなたが現れて、正直ほっとしてるの。ずっと1人で耐えてきたんだもの。もう、ひとりじゃなくていいのよ。あなたもね。あなた達は二人でひとつなのよね、きっと。はじめからなんだか似てると思ったのはそういうことだったのね。でも、うらやましいわ。互いの存在を大切に守りあってる。ステキじゃない?」


聖護は驚いたような顔をしたが、すぐに照れくさそうに微笑むと黙って頷いた。










涼子と不思議な力のことや魔物の話を共有できてほっとする聖護。しかし、自分と紫織の身に起こっていることに不安を隠せなかった。

次は久々に総真が存在感を持たせて登場します。

これからも努力してまいりますので引き続き、読んでいただけるとうれしいです。

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