愛と嘘(5)
「嘘を言うなよ・・・。君はあの時、子供は浮気相手の子供だといっただろう。と、言うより浮気相手はこの俺だったんだよな。」
このとき、彼の表情は少し凍っていた。
私は続ける。
「そうよ、確かにあの時はそういったわ・・・。それにはちゃんとした理由があったから。」
「その理由とは?」
「本当はあなたと付き合っている間は私は一度も浮気なんてしなかったわ。そして、子供が出来た・・・。出来てすぐの時はあなたに知らせようと思ったでも、ふと考えたの・・・。私はマフィアの両親に育てられた。あなたに子供の存在を知らせたら、あなたは結婚しようと言う、そうしたら娘達は私と同じような苦労をしなくてはならない。そして、間違えなくこの世界と関わらなくてはならなくなる・・・・。そんなこと私はさせたくなかった。だから私はあなたに子供たちのことを隠したの。」
「そんな風に言われたって、君が浮気していなかったっていう確証はないんだ。証拠がないだろ。」
彼はそう言って、ワインを一気に飲み干した。
「いいえ、証拠ならちゃんとあるわ・・・。」
「ほぉ・・・・。」
「一度、DNA検査をしたの。こんな事態になった時にちゃんと証明出来るようにね。その結果を記載してある書類は検査を依頼した会社に保管してもらっているわ。嘘だと思ったら調べてみるといいわ。あなたは身分証明さえちゃんとできればすぐに見ることが出来るようにしてあるから・・・。」
彼は私の言葉を聞きながら、タバコに火をつけて一服して考えている。
タバコまで吸うようになっているなんて・・・・。
アルコールさえ受け付けなかった彼がこんなにも・・。
私がそんなことを朧になる意識の中で不安を感じながら考えていると、突然彼が乱暴にタバコをひねり消して口を開いた。
「会社じゃあ信頼できないな。証拠にはならんだろう。もし、私がいまから会社に問い合わせて書類を取り寄せるとしよう。おそらく電話に出るのは君の息のかかった者だ。そして、君が偽造している書類が僕の元に届く。きみならこんなことぐらい赤ん坊の手をひねるぐらい簡単なことだろう?」
彼は不敵に笑いながらそう言ってまたワインを注ぐ。
私は逆に俯いてしまった。何故そうしたかわからない・・・。私の今状態は強い自白剤のせいで感情をそのまま外に出した状態で、いつもの状態とはあまりにもかけ離れていた。
「たしかに・・・。そうよね・・・。証拠にはならないわね・・・・。でも、もう一つ同じ書類が保管されている場所があるわ。ここは絶対証拠になるわ・・・・。」
「ほう・・・。それはどこだ?」
「FBIよ・・・。」
本当はこれは言いたくなかった。確かに証拠にはなるだろう・・・。しかし、そうかといってこの世界にいる彼がわざわざ危険を冒してFBIにまで調べに行くはずがない。つまりこの瞬間、私は失敗したのだ。私は失望感に涙が止まらなくなってしまった。
そんな私を彼は無表情にみている。
「本当だな・・・。」
彼は重い声色で私に尋ねた。
「本当よ・・・。」
「いいだろう。その言葉を信じよう。嘘だったらお前はここで殺すからな。」
「誓うわ。」
私は思春期の少女のようにべそをかいて泣きながら答えた。
そんな私をよそに彼は立ち上がり私を連れてきた男二人に電話を持ってこさせどこかに電話をかけ始めた。
「やあ、私だ。ロバートだ。じつはしらべてほしいことがあるんだ。礼はいくらでもする。そうだ、この前お前がほしいと言っていたやつを礼として渡そう。いいか?そうか、さすが。私が頼りにしているだけある。頼みと言うのは――――――Mariaに関する資料を全て私に渡してほしいんだ。三時間後××ホテルの―――号室に来い。礼は後日する。じゃあ頼んだぞ。」
彼は電話を切るとソファーに腰を静めて私を見つめた。
「何を考えている?」
私は涙は止まっていた。そして、不快な朧な意識の中、口を開いた。
「愛する人のことよ・・・。」
「愛する人・・・。それはだれだ?」
「あなたよ。」
私の意識はコントロールすることはままならなかった。私は違う世界から自分を眺めていた。
彼は私の言葉を聞くと鼻で笑って言った。
「愛する人じゃなくて愛した人じゃないのか?もっとも愛があったかじたいわからんが。」
「愛していたわ、何よりも・・・。そして、いまも愛しているわ。あなたは私がであった人の中で一番心から愛することができる人よ。でも、あなたは変わってしまった。あの時のあなたから・・・。」
私は泣いていた。そして、それを見た彼は目を背けて吐き捨てるように言った。
「信じられるか?そんなこと。私だってあの時までは君を心のそこから愛してた。あの日私はプロポーズの指輪まで持っていたんだ。それなのにあんなことをいわれたんだ。何も信じられなくなって当然だろう。」
「そうね・・・。でも、じきに真実がわかるわ・・・。」
「そうだな・・・。それまで眠っていてもらおう・・・。」
そういわれた瞬間、私の世界はまた闇の中に戻された。
闇から戻った時、私はどうなるのだろう・・・・。
おそらく、死ぬ・・・。良くて監獄に戻される。
彼は私がこうして闇の中にいる間に、あの二人を呼んでいるかもしれない。
どちらにして私の復讐劇は終りを迎えるようだ。
何で私がこう感じているか、原因の大きな一つは自白剤に私は負けていると言うことだ。今の私には彼を殺す気持ちは微塵もなく、ただ彼の愛を取り戻したいと感じている女になっているだけだからだった。
私は失敗した・・・・。
久しぶりにあとがき書きます。椿です。「復讐のMaria〜愛と嘘〜」 長引いてますね・・・・(==;)いつになったら終わるんだか。自分でもわかりません。でも、いままでよんでくださってありがとうございました。さて、Mariaはこの先どうなるんでしょうか?続きはあるのでしょうか???謎です(笑)
安倍椿




