愛と嘘 (1)
Mariaの復讐リスト
一人目<完了>
二人目<完了>
三人目ロバート<今回>
アメリカに向かう途中の飛行機の中で私は思い出していた。
死んだ娘達の父親のことを。
そう…今から殺しに行くのは娘達の父親で私の元夫なのだ。
でも彼は娘が自分の子供だと知らない。
だって父親を知っているのは私だけだから…。
彼は今はニューヨークのマフィア社会の頂点にいる。
そんな近づくことも難しい男に接触する方法、それに私は頭を悩ませていた。
今、ここに座っている間にも彼は私の存在を察知しているかもしれないのだ。
そうだとすれば空港を出た瞬間、私は命を狙われるだろう。
しかし、その心配は単なる杞憂で終わった。
五年ぶりのニューヨークは灰色だった。
行き交う人の波、時間間隔のない空間、絶え間なく動きつづける街。
私もかつてはここで仕事をしていた。
そして、燃えるような恋もしていた。
一軒のバーに入る。
昔と変わらない雰囲気、全てが変わっていない。私はカウンターに座り男に声をかけた。
「ウォッカマティーニを頂戴。それとピザをよろしく。」
カウンターの男は私を見て息を止める。
しばらく四十代そこそこのちょっと太ったおおらかな顔を驚かせると、笑顔で口を開いた。
「久しぶりだな!!!何年ぶりだ?Maria。」
「久しぶりね。マティス。五年ぶりくらいよ。」
「突然消えて突然現われる。一体なにやってたんだ?」
彼は笑いながら頼んだ品を出して聴く。
「ロバートから聞かなかった?」
「いや、何も。実はロバートはあの日以来着てないんだよ。」
「そう・・・。」
あの日それは私とわかれた日。
そう、八年前、この場所で彼と私は別れたのだ。
原因は私の浮気。
私は生まれながらのうそつきだ。
物心つく頃からずっと嘘をつきつづけてきた。
私の両親はマフィアのボスで私はマフィア一家の愛娘。
家柄が外にばれるのは許されない。
だから、親からも嘘をつくことを教えられていた。
嘘をつくことに罪なんて感じてない。
しかし、ロバートは違っていた。
彼は嘘が大嫌いだった。
そんな彼がこんな世界で生きていけるなんて・・・。
未だに私は理解できていない。
とにかく彼は私の嘘を知るやいなやこの場で私の頬を叩いて消えてしまったのだ。
つくづく思う。
彼は純粋なんだって・・・。私はちょっと暗い顔をし、すぐに笑って言った。
「この五年間ね。色々あったからちょっと旅でもしようと思って、旅に出てたの。手紙の一枚ぐらい送ればよかったわね。ごめんなさいね。」
「そんなことないさ。まあ、職業が職業だったから余計に心配しちまってはいたが。とにかく生きててくれたんならうれしいよ。」
そう言って彼は私の頬にキスをしてくれた。私はくすっと笑って、
「ええ、何とかね。」
「ところで、ニューヨークには何をしに?仕事復帰か?それとも、顔見せに来たのか?」
「どっちでもないわ。借りを返しにきたの。」
「何の借りだ。」
「仲間に大きな借りがあるの。それを返しにね。」
「そうか・・・。」
「ところで、ちょっと頼みがあるんだけど・・・。」
「なんだ?」
数日後私はある会社の主催するパーティーに姿を現した。彼に接触するために。
パーティーが始まってしばらくして彼が姿を現した。
真っ黒なブランドスーツを悠々と着こなし、美しいブラウンのヘアーを短く刈上げていた。
昔の彼とは大きく変わっていた。
私は変わりきった彼の姿を目の当たりにして戸惑いを隠せなかった。
だって、私の知っている彼は違う・・・。
少年のような愛くるしい笑顔に、風に靡くようなロングヘアー、そして、何より大人の雰囲気のない男だった。
それが今の彼はここで見ている限りでも明らかに違っていた。
今の彼はさっきも言ったように外見も大きく変わっているし、そして何よりその雰囲気は色気たっぷりの大人だった。
なにがこんなにも彼を変えてしまったのだろう・・・。
まあ、そんなことはどうでもいいわ。
それより心配なのは彼が私を拒むかもしれないと言うこと。
そう、決して失敗はできない。なにがあっても私はもう一度、彼とよりを戻さなければならないのだ。
私は深く深呼吸をして彼の席に向った。
そして、彼の正面に座り、笑顔で彼の顔を見つめた。
「ひさしぶりね。ロバート。」
しかし彼は驚きもせず、私に目を向けることなくステーキに手をかけて言った。
「ひさしぶりだな。Maria。」
どうも。椿です。
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現在は椿が書いた小説を載せています。でも、もっといろんなことをやっていきたいと考えてます。まだまだ勉強の段階なので頑張ろうと思います。もし、良かったら覗いていただけると嬉しいです。→http://happytown.orahoo.com/kikyoukaren-jl/
安倍 椿




