果て
私は女神の加護のもと復讐を達成した。
私は胸のメモリーをとるために父が呼んだ男を待つことにした。
その間に父を竹やぶの中に埋葬した。
私が竹やぶから戻って、離れの軒先に腰掛けていると、志乃がお盆に何かをのせて私の横に座った。
「旦那様が申しておりました。近々、娘に殺されるだろうと・・・。」
「そう、志乃さんこのお家あなたに差し上げます。どうぞお好きにしてください。あなた、父の妻なんですし。」
「ご存知だったんですか。」
そういって、志乃は煎茶を一服した。
私も一服する。
「私も、こんな世界で生きてきましたから、下調べぐらい簡単です。」
「じゃあ、私の過去も・・・。」
「ええ、一応調べさせていただきました。」
「このお屋敷は私一人が住むには広すぎますよ。」
そう言って志乃は笑う、この人はこんなに上品でなでしこのようだが、その過去は波乱で修羅に満ち溢れていたらしい。
彼女の今の私と同じで復讐の果てを生きているのだ。
「この先、どうなさるんですか?」
志乃が呟くように私尋ねた。
「とりあえず、生活の基盤を作ろうと思います。」
「そうですか。では、お子さんが生まれるまでこちらにいてはいかがですか。身重の体であちらこちらへ動くのは良くありませんし・・・」
「ですが、ここではあなたに迷惑がかかります。そんなこと出来ません。」
「迷惑なんて・・・。私一人でこんな広い屋敷にすんだって寂しいだけですし、Mariaさんがよろしいのなら是非ここで・・・。」
「ありがとう志乃さん。でも、私、約束してるんです。お気持ちだけ頂いておきます。」
「それは・・・、残念ですわ。」
「志乃さん・・・。私を恨まないんですか?私はあなたの愛する人を殺したんですよ。」
すると、志乃は父が埋まっている方を眺めて言った。
その表所は穏やかで何一つ動じない。
「あの人は遅かれ早かれ死ぬ運命にありましたから。」
「どういうことですか?」
「もう、手の施しようがなかったんです。」
「えっ・・・。」
「悪性のガンですよ。あの人はとても後悔してましたよ、家族をバラバラにしてしまったことを。やはり人は年老いると若き日の後悔にきづくんですね。」
「そうでしたか・・・。あの・・・志乃さん。」
「なんですか?」
「あなたは戸惑わなかったんですか。復讐がおわってあらたに生きなくてはいけなくなった時・・・。」
「私の復讐は終わってないんですよ。」
「えっ・・・。」
「本当はあの人も復讐の相手だったんです。でも、殺すことが出来なかった・・・。近づきすぎたんですね・・・。情がうつってしまって・・・。」
「それで許してしまったんですか。」
「ええ。だから、私には生きる理由がいつもありました。」
「そうでしたか・・・。」
「Mariaさん。全てお忘れなさい。そして、子供を幸せに育てて、あなたも幸せになるんです。」
「志乃さん・・・。」
「私は結局はここに残ってしまいました。でも、そんな状況でも幸せなことはいくらでもありました。ならば違うところならもっと幸せになれるはずです。幸せになってくださいね・・・。」
「ありがとう・・・。志乃さん・・・。あっ・・・・・。」
その瞬間私の胸が悲鳴を挙げた。
何かが私の奥に入り込んでくる、それは肉を裂き、私の身体を突き破る。
メモリーが私の内側に食い込み始めたのだ。
私は悲鳴を上げる暇もなく意識が飛んでゆき、私はくらい闇の中に落ちていった。




