決着
二人の間を重たく殺伐とした風が通りすぎる。
二人ともほぼ同時に刀を抜く、父の愛刀「紅露」は怪しく夕日に照らされ光っている。
かすかにその刃は赤色を帯びているようだ。
一方の「紅桜」は青く光っている、それはひんやりと冷える泉の水のようである。
この「紅露」と「紅桜」は同じ鍛治氏によって作られたものだ。
いわばこの刀たちは兄弟である。
しかし、それぞれの放つオーラは全く違う、
「紅露」はすでに血を欲しているようであり、「紅桜」は逆に血を拒んでいるようだった。
全ては一瞬の出来事だ。
私達は石庭のど真ん中を駆け抜ける。
私は石に飛び乗り大きく父に切りかかった。
しかし、それを読みきっていたらしくそれをいとも簡単に受け止める。
きりきりと刃の軋む音がする。
父の目はとても鋭い、私でも負けてしまいそうなほどの眼力だ。
そして、一瞬にして私達は互いの距離を開ける。
「紅露」は血に飢えている。
そしてまた静寂と殺気の止まった時間が始まる。
それは互いの探りあいであり、精神の勝負だ。
父の気迫は時がすぎるごとに強くなり、私を押してゆく。
私は竹やぶの中に走った。そして、私は精神を集中させた。
父が私に切り込むのを待つ。
草がすれる音、父は私の周りをまわっている。
何かが私をかすめた。
そして、目の前の竹が切り落とされた。
私の右頬は一筋の血が流れていた。
目の前には、父の姿。
後ろにいるはずだったのに、確かに気配は後ろだった。
それがなぜ、目の前に・・・。
そして、追い討ちをかけるように右へ左へ竹が倒れてゆく、そう、段々と私の周りは竹の切り口が広がってゆく。
しかし、父は目の前にいつづける。
「あまり、利口なやり方じゃないな。Maria・・・。修行の成果はこんなものなのか?」
「パパ、紅露が泣いてるわよ。竹なんか斬りたくないって。」
私はそう言って、父に挑みかかった。
何度も何度も刃を交える。
竹を斬り、袴を斬り、私の袖を斬り、永遠と続くような刃の交わり。
辺りはすっかり夜となり、雪も降り始めた。
その時私達は池の真ん中に立っていた。
寒さなんか感じない。
ただ、白い息が昇るのみ。
そのときだった、私は父の向こう側に空に女神がたたずんでいるのが見えた。
私に微笑みかけている。
最後の勝負。
私と父は刃を交えた。
全ては一瞬、一瞬が永久に感じた。
私は膝を地に付けた。
肩を切られていた、そして、腹をきつい痛みが走った。
刃で肩を切られ、鞘で腹を叩かれていた。
私は死ぬと思った。
「まっ・・・Maria・・・。」
父の声がそう呟くと、ドサッという重たいものが落ちる音がしてあたりは静かになった。
私は立ち上がり、父の姿を見た。
深深と積もる雪は父の周りでは赤く染まっている。
父は胴と首を切り離されて倒れている。それでも手には折れた刀が握られている。
私の手には父の愛刀「紅露」が握られている。
父の手にある折れた刀は「紅桜」だった。
私は「紅露」についた父の血を払い、刀を地面に突き刺した。
雪が父を隠してゆく。
成し遂げた。
ついに復讐を成し遂げた。
私の頬に涙がこぼれてきた。
私は知らず知らずのうちに自分の下腹に手を当てていた。
ロバートあなたの言っていたことってこれなのね。
ありがとう・・・。
女神様ありがとう。




