脱出
その日、あの医者は私の前に姿を現さなかった。
無機質な部屋に注ぎ込む夕日の光が私の身体を照らす。
私はまだ傷の塞がりきってない腕を強く握っていた。
痛みは感じない。そして、出血がひどくなったようでもない。
ただ、全身が鉛のように重かった。
私は立ち上がりドアをあけたときだった。
誰かがやってくる。
私は急いでベッドの中に潜った。
そして、車輪が回る音と同時に電子音が聞こえてきて、私の目の前で止まった。
「今日は多いな、得体の知れないお客さんが・・・。」
「そんな日もあるさ、でもさ・・・。聞いたか?そこの女、あの伝説の暗殺組織に関係があるらしいな。キンバリーが身元調査してて見つけてビビってたぞ。」
「おい、こんなところでそんなこというな!もし聞いてたらどうすんだよ。俺たち消されるかもしれないだろ。」
「心配すんナよ。あの女は瀕死の重症で今は記憶喪失状態。何の害もないさ。」
「そっ、そうなのか・・・。」
男達の会話を全て聞き終って私は布団から顔を出し、部屋を見渡した。
すると、目の前にはベッドが増えていた。そして、そこには男が一人眠っていた。
この男一体何者なんだろう。
私は立ち上がって、彼の脇に座って彼を眺めていた。
右目に三筋の傷跡、全身包帯だらけ、とても屈強な体つきをしている。
私が立ち上がった時だった。
「あっ・・・あんたは?」
男が目を開いている。その黒い色の目ははかなく今にも消えてしまいそうだった。
私は微笑んでいった。
「運が良かったわね。ここは病院よ。」
「そうか・・・。よかっ・・・た。」
そう言って、男はまた生死の境をさまよい始めてしまった。
私はベッドに戻って窓を眺めつづけていた。
夕食に少しだけ手をつけて、眠れずに天井を見つづけていたときだった。
私は気になって仕方なかった。目の前に男・・・。一体何者なのだろう。
そんなことを考えているときだった。何かものすごい殺気を感じた。
そして、その殺気は部屋に入ってきて男にその殺気は向けられていた。
低い、しゃがれた男の声。
「なんていう生命力だ。あれだけ痛めつけてやったのに・・・・。まあ、いいもうこれで終わりだ。オマエの復讐もこれで終りだ。死ね。」
「ちょっと、そこの男もう仏様なんだけど。」
すると、男は私のほうに向きかえっていた。
「なに?だが反応は出てるぞ。」
「植物状態よ。死んだも同然。時期に秘密裏に闇商人にその臓器が売り飛ばされるようになるわ。わざわざ手を下さなくてもいいでしょう。下手に今やったら足がつくわよ。」
「それもそうだな。ところでお前何者だ。」
「知らない方が身のためよ。」
「そうだな。この病室は危ない人間がいる病室だからな。」
「そうね。早く出たほうがいいわ。」
「そうだな。」
そう言って男は出て行った。
そして、自分のベッドに入ろうとしたときだった。
「あっ・・・。ありが・・とう・・・。」
私は自分のベッドに座り口を開いた。
「あなた、復讐をしているの?」
「そうだ。」
「なぜ?よかったら聞かせてくれない。」
「あいつらは俺の家族を奪った。」
「そう・・・。家族を愛していたのね。」
「俺の全てだった。」
「そう。家族は全てよね。」
「君は?」
「私も家族を殺されたわ・・・。自分自身も死にそうになって監獄送りにされたわ。」
「そうか・・・。つらいな・・・。」
「ええ・・・。」
それっきり会話は途絶えてしまった。
瑞々しく輝く満月が二人の間を照らしてた。




