脱出
暗い闇その先に浮かんでくるモノは赤い色で聞こえてくるモノは愛する娘達の悲鳴だった。
その闇から目覚めるたびに、私は力一杯拳を握りしめていて、倦怠感に満ちあふれた身体を起こす。
許さない・・・。
刑務所の中でも旅の途中でも闇から目覚めるたびに私は復讐心をたぎらせる。
でも、今は違った。
かすかに遠くから聞こえる音は機会の音と、人が忙しそうに声を張り上げている音。
しばらくして、またただの闇の中にもどっていく。
そして、また何かが見えてくる。
誰かが立っている。
それは、何か見覚えのあるモノで、でも、おぼろげになっていて、つかめそうでつかめなかった。
でも、私は知りたかった。あなたは一体誰なのか私は尋ねた。
すると、どこからともなく声が聞こえてくる。
「Maria・・・。こっちに来てはいけない。君は生きなくてはいけない。」
その声は間違えないロバートだ。
「ロバートなの?」
「そうだ。Maria、ここから先に来てはいけない。」
「どうして?」
「僕が贈り物を用意してるからだ。でも、それ以上、君が僕に近づいてきたらそれは渡せなくなってしまう。」
「変な事いわないでよ。渡せないって。どういう事よ。」
「Maria、目を覚ますんだ。そして、君が果たそうとしてる事を果たすんだ。そうすれば、僕の贈り物が君に届くから。」
彼がそういった瞬間、世界は真っ暗な闇にもどって、そして、だんだんと現実にもどって行くのが分かった。
目の前には清潔感たっぷりの天井とそしてベッドが目に入った。
そして、窓縁に一輪の華がおいてある。
そして、私が上体を起こそうとした瞬間、だれかがそれを制した。
「まだ、起きあがってはいけませんよ。」
そこには医者らしい女が座っていた。女は私を安心させるように笑顔で口を開く。
「とても危ない状態だったんですよ。感染症にもなりかけてたし、毒物中毒にも陥ってたんですから。でも、もう大丈夫ですよ。」
「そうですか。それは、どうも・・・。」
すると、急に女は表情を引き締めて口を開いた。
「私はドクターキンバリーです。ここは 総合病院です。あなたは親切な人のおかげでたすかったんですよ。教えていただけませんか?一体、何があったんですか。」
「わからないんです。」
「どういう事ですか?」
「わからないんです。」
「覚えている事でもけっこうです。話していただけませんか?」
「先生!!私は誰なんですか?」
私は女にしがみついた。
「なにも、思い出せませんか?」
「はい。いったい私は・・・。私は・・・。助けて下さい。」
私は悲壮な表情で女に訴えた。
「分かりました。少し待っていて下さい。すぐもどってきますから。」
そういってしがみつく私を振り払って、女はそそくさと私の前を後にしていった。
おそらく、私の身元を調べさせるのだろう。
バレてしまえばまた監獄戻りだ。それは、こまる。
今はそんな余裕は無いのだ。私はここから出て行く事を考えるのに必死だった。
どうも、ひさしぶりです。また、新しい章にはいりました。もう少しで完結です。この調子で頑張りたいとおもいます。どうぞよろしくお願いいたします。
四月十四日 安部 椿




