僕とダリル
少年はエドと言う名前をもらい、ダリルの影武者になった。
僕は名前をもらった日、ダリルの部屋にいるよう命じられた。
「蛇はいなくなったが、恐らく再び暗殺者は王子を狙ってくる…そこで、エド、お前が王子と一緒の部屋に入り、王子をお守りするのだぞ!」
「はい、けれど、ひとついいですか?」僕は質問した。
「なんだ?」大臣は言った。
「なんか食べ物を…」
食事は王家のものと同じではないかとおもってしまうほど豪華だった。
しかし、城内はまだ混乱していたためか大広間での食事ではなく、ルームサービスのようなものだった。
味は一流であったが、どうも僕のの舌に合わなくて食べることが辛かった。だが、それでも空腹を満たすためにある程度は食べきってしまった。
食事を済ませた後、僕はダリルのいる部屋に行こうとした。廊下の角を曲がろうとしたとき誰かとぶつかって僕の体がふんっとんだ。
「も、申し訳ございません。 」よく見たらディッシュだった。
「ディッシュ、僕だよ…」僕はズボンをはたきながら言った。
「あっ、何だお前だったのかぁ…」ディッシュはため息をつきながら言った。そして、続けて言った。
「それより誤解が晴れて、よかったなぁ。それに、名前までもらったらしいじゃないか?なんて名前だ?」
「えっと…エド•クロフォードって言う名前に…」僕は答えた。自分の名前を教えるのに慣れていないことが不思議でたまらなかった。名前こそ、人が自信を持って言える数少ないことではないのかと思った。
「エドかぁ…なるほど…じゃあこれから何か疑問に思ったり何かあったら俺の所に来な、知っている限りのことを教えてやる。 」と僕の肩に手をのせながら言った。
「ありがと。」僕はそう言ってディッシュと別れた。
大臣からもらった地図を頼りに、何とかダリルのいる部屋までたどりついた。
見張りの男とかわりダリルの部屋に入り、僕とそっくりなダリルを見た。
親の死を悲しむ暇ない身分はとても辛いことだと僕は思った。
「…ダリル…王子」僕は次に何て言っていいのかわからなかった。
「…ダリルでいい」とダリルは答えた。その瞬間、会話が思いついた。
「僕たち、なんか不思議だよね…姿が似てるし頭の中で会話も出来るし…なんなんだろうね…?そういえば何で僕が君の正体を知っていることがわかったの?」僕は疑問に思った。
ダリルは「さぁ…なんとなく…かな」と言った。
「何で男装をしているの」僕はついずっと疑問に思っていることを言ってしまった。
「いろいろあって…」ダリルは静かに答えた。
ダリルの国であるエドウィン王国は、4代目国王ダイオニシアス王の時、繁栄を極めた。原因は、その時発見された金属だった。どの金属よりも頑丈で軽く銃の弾として使うのにうってつけだった。王のなまえからダイオニシアス鉱石と言われ世界の先進国からの輸入が殺到した。銃の性能が何倍にも膨れ上がるためである。
しかし、ダイオニシアス鉱石がとれる鉱山にはメシア教と言う宗派が住んでいた。メシア派は、ダイオニシアス鉱石を神の子として崇めていたため、国の開発に強く反対した。
反対を抑えるためダイオニシアス王はメシア教の弾圧を命令し、多くの人を捕らえた。捕らえた人は殺されはしなかったが、国に強い不満と怒りを感じた。
そして、事件が起こった。
エドが来る一年前、ダイオニシアス王の一家暗殺が起こった。
長男のブルーノ、次男のバーンハード、長女のケアリー、妻レイアが毒殺された。
暗殺を逃れたのは病気で死にかけている三男ダリル、そして、たまたま毒を飲まなかったダリルの双子の妹エフィーであった。
しかし、その日に、ダリルが病死してしまった。
エドウィン王国では王位継承は男とされていたために、ダイオニシアス王と大臣は生き残ったエフィーをダリル王子と入れ替える計画をたてた。
二人は似ている上、本物のダリルは寝たきりであったため顔を見た人も少ない。
暗殺現場をみた家臣のみに本物のダリルにエフィーの姿をさせ、あたかも暗殺されたかのようにみせた。
そしてエフィーはダリルと入れ替わった。
王は、ダリル以外暗殺されたこと、ダリルが病気から治ったことを国民に発表、真実を隠したままであった。
その後、暗殺者を大臣たち一部の家臣たちは探したがわからなかった。
僕は本物にダリルが悲しく辛い立場にいることが分かった。
そして僕は、彼女を慰めるためにやって来たのではないかと思った。