女性騎士の心得
王国に於いて、女性騎士は騎士全体の結構な割合を占めている。
これは王国が仮想敵、隣国の帝国を想定している為軍事寄りであり、
かつ魔術の存在によって男女に戦闘能力差が小さい事も関係する。
ゆえに王国制式騎士団では騎士団長や副騎士団長にも女性がおり、
有力貴族配下の騎士団でも三割から半数近くまで女性が占める。
騎士団へ所属出来るのは、基本的に十五歳で成人した者である。
王国制式騎士団では王立中央学院を優秀な成績で卒業出来た者が、
有力貴族配下の騎士団でもおおよそ同様の条件で入団試験がある。
が、ちょうどこの年齢、貴族や準貴族では結婚適齢期であるのだ。
かつてはさらに早かったが、現在では十五歳から十八歳程度まで。
事情があって遅れた者でも婚約は済ませており、せいぜい二十歳。
平民とは異なり、家系の存続が付いて回る為致し方ないのだが、
結婚しているかしていないかはとりわけ女性への視線が厳しい。
責務を果たす能力や意識に欠けているのではと勘繰られてしまう。
また、家系とは無縁の立場であってもややうがった見方をされる。
心身に何かしら問題を抱えているのではあるまいかと。
故に女性騎士となる者には、大抵の場合最低でも婚約者が存在する。
あるいは入団時には既に結婚している事も多い。
相手がいない女性騎士は、王国の騎士団では少数派なのである。
◆
とは言え、さすがに入団直後すぐに産休に入られても困るのだ。
そう、女性騎士には出産後の一年間に有給休暇が与えられている。
また妊婦となった女性騎士も、判明時点で有給休暇に入っている。
現在騎士団長や副騎士団長の席にいる女性騎士達も子持ちである。
さすがに彼女達は出産して何年も経っているのだが。
だが入団直後はほとんどの者が十五歳、行為に興味を持つ年頃。
思わず突っ走ってしまう連中も、ごく一部には出てしまうのだ。
その期入団の女性騎士にも、やはりと言うかそういうのがいた。
やらかしたのは準男爵家の次女である。入団二日目に妊娠発覚。
逆算すると入団試験前に事に及んだ訳である。未成年で。
直属の上司たる騎士隊長は何とも言えない表情をしている。
監督責任といっても、監督する前にやらかした事なんてどうしろと。
無論さらに上の騎士団長と副騎士団長へもこの話は届いている。
王国制式騎士団では平の騎士が下に配属された兵士達を指揮する。
彼女が抜けてもそこに予備役の騎士が充てられるのでそれはいい。
しかし彼女が有給休暇を終えた後、ここへ復帰させて良いのか?
勤務内容など把握する前にここから抜けるのだぞ?
部下とも上司とも信頼関係など築けまい。
彼女は予備役扱いで、規約通り一応有給休暇へと入る。
そこから二年、給金を受け取りながら子育て生活を過ごし。
有給休暇を終えるとともに、あっさり騎士団を退団した。
騎士として王都にいたのは一日のみである。
◆
当然だが王国制式騎士団上層部も、舐めた態度に怒りを覚えた。
こんな事が繰り返し起こるようでは騎士団が立ち行かなくなる。
まず騎士団規約の改正。女性騎士は入団後一年間子作りを禁じた。
破った者は一代騎士の位こそ剥奪されないが即強制退団となる。
給金も退職金も与えられない事となった。
遡及してやらかした彼女へ罰を与える事は出来なかったものの、
全く何も出来ない訳ではない。やらかした彼女の夫は現役騎士だ。
当然彼には厳重注意が入り、一連の問題に対して調査された。
赤子は当然、女性一人では作れない。相手にも責任がある。
夫の騎士は問題の娘の二年ほど年長であり、男爵家嫡男であった。
この家、領地がなく収入が限られているにも関わらず金遣いが荒い。
調べれば男爵家当主が賭博にのめり込み、借金をこしらえていた。
非合法ゆえ夫人や寄り親へは相談出来ないものである。
一代騎士とは言え、貴族年金は出る上に騎士として給金も出る。
息子の嫁、問題の彼女が得る収入を借金返済に充ててしまおうと、
二年間の給金は全額そこへとつぎ込まれていた。
禁欲中の息子をそそのかし、未成年の彼女と子供を作らせる。
うまく行くかは賭けだったが、都合よく入団二日目で発覚した。
それで借金は完済。夫人にも寄り親にも発覚はしなかった。
だが騎士団はさすがに規約の悪用など見逃したままではいられない。
一連の裏事情は王国の名の下に大々的に公表された。名前入りで。
当然男爵家当主は非合法賭博に関わったとして罪に問われた。
当主は強制的に交代、膨大な罰金と共に男爵家から準男爵家に降爵。
新たに当主となった息子も問題ありとして騎士としての給金は減俸。
寄り親からも関係は切られ、前当主の夫人は離婚し実家へ帰還。
非合法賭博にも捜査の手が入り、関係者は全員捕縛された。
そしてやらかした彼女であったが。お咎めはなかった。
子作りも自ら望んだ事ではない、という主張が認められたのである。
本来相手の家に嫁いで家裁に専念するはずが、入団させられたのだ。
彼女は準男爵家から縁を切り、寄り親を介して実家へ帰還する。
準男爵家となった問題の家は将来と後継者を失う事になった。
彼女が産んだ男児は、彼女の家庭で育てられる。
現当主の代で家は潰えるだろう。
一連の話は、後の世代の女性騎士達に大きな影響を与える事となる。
同列に語るようなもんじゃないですが。
社会人一年目、同期入社に同じような行動とったのがいましてね。
男性ですが、入社二日目から研修ブッチして競馬場でお馬さん遊びを。
一か月ちょっとで退社していきました。書いてて思い出しましたわ。




