表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

aが求めたもの/悪魔を探せ


柔肌を空に晒して、少女は私の手を引く。

風に靡く長髪が手の甲をくすぐる。

山頂に到達すると、少女はおもむろに私に抱き着き、時計が鳴った。



朝である。

六畳主義者の私は時間という概念に縛られないので、私は朝か夜か以外の時間的情報を必要としない。


六畳主義者の朝は長い。


朝のうちのほとんどの時間は、布団から脱出するために浪費される。

といえども私は布団から出ようと、六畳より外の世界には買い足し以外の用事で出向くことはない。

金が尽きれば、ブログの代筆やら編集に恋文、データ入力の代行からフリマサイトで折り紙を販売したりなどして小遣いを稼いでいる。



柚木はいわゆる阿呆である。

惰眠を貪り、六畳で遊んで暮らしてきた。

去年、高校への登校を自主的に拒絶したのち、自分のするべきことを見失い、以降は六畳で本当の自信を探求するようになった。

柚木は一人暮らしである。

故に彼を止める人間はいなかった。

柚木はモテなかった。

それどころか、女友達の一人もいなかった。

故に彼をためらわせるものはなかった。

柚木はいわゆる無敵の人間であった。



柚木に希望はなかった。

それは本人が一番熟知していたし、そもそも彼以外に、彼の名前以外の情報を知るものは存在しなかった。


柚木はたとえ今から死ぬことになってもきっと絶望などしないであろう。

それどころか彼の屍はニヒルな笑みを浮かべたまま、10日後に家賃の取り立てに来た大家によって発見されることであろう。

彼はそういう人間である。



太陽が体感20度ほど傾いたころ、柚木はようやく布団から出た。

パジャマを放り投げ、ピーコートに中折れ帽という室内にしては着こみすぎている格好に着替えた。

彼はこれ以外の服を所持していない。

昨日の飲み残しの炭酸飲料を飲み干し、へにゃへにゃのストレッチを始めた。

その様の頼りなさと言ったら、誰もいない部屋でさえやきもきせるほどに危うい。

そんなことを言っていると、気づいたら柚木はすでに大きな音を立てて転倒していた。

六畳の隅でぽつねん似非スクワットをしていたものだから壁に顔を衝突させて鼻血を垂らしていることだろう。酷ければ前歯を折っているかも。



柚木は驚いた。

本来なら自分は前歯を折って鼻血で白い壁に文明発展の証でもある名誉壁画を残すところであったのに、自分の目の前には今、畳が存在してる。

彼は、床に向けて転倒している。

何故であろうか。

彼の部屋は、畳六枚で構成された四角形の六畳である。

本来ならここは壁になっているはずだ。

なのに今自分の目の前には半畳分突き出した未知の空間が広がっている。

柚木はしばらく考えたが、彼の頭はこの六畳では日々最高値を更新し続けているが世間一般では阿呆とみなされる。

考えてもしょうがないので柚木は体を起こして部屋を見回す。

柚木は絶句した。

これまで苦楽を共にしてきた六畳に新しく半畳が追加されているではないか!

正方形であった六畳は今では端っこにもう一つの半畳が追加されテトリスのブロックの様な形になっている。彼には哲学以外の難しいことはおよそ理解できないが、これが異常事態だということはすぐにわかった。



私は顔をつまんでこれが現実であることを確認した。

昔から思っていたのだが、こんなことをしたとて、今見ている夢が痛みを伴うほどにリアルなものであたら、この方法では何も確かめられないのではなかろうか。

しかし、他に自分が虚構の存在でないと確認する術を私は知らないので今は、これで満足させていただく。


とりあえず私が虚構の存在でないと仮定できたので次は、この半畳が本当に存在するものか確認しなくてはならぬ。

まず私は半畳にゴミを投げ入れてみた。

何も起こらない。

一応自分の立っている畳の上にもゴミを置いてみたがこちらも何も起こらない。

これでおそらく触れても平気、ということが立証されたので今度は実際に触って確かめてみよう。



その半畳は愛する我が六畳を構成する畳たちと、恐ろしく同じものであった。

触ったときの質感といい、押し込んだ時の弾力といい、匂いといい、日焼け具合といい。

もはや最初から存在していて、お前が気づいていなかっただけ、と言われた方が納得できそうなまでに我が六畳になじんでいる。


私はこの半畳が、実在するものと認めざるを得なくなった。


突如六畳が真っ暗になった。



柚木は見知らぬ空間を揺蕩う。

人間は生まれる前、母体の羊水の中にいたので溺死する直前の人間はむしろ安心感を感じるというが、柚木にはそのような感情はわかなかった。

柚木が信じるのは自分と堅苦しい本だけであった。

なんと悲しい人間だろう。



「諸君、といえども誰もいないであろうか。

いや、それは六畳時代から、果ては高校時代からそうであったか、、、」

突如いわゆる魔法陣的なものがあたりを覆う。

魔法陣はピカピカと回っている。

我が六畳にも欲しいなぁ、などと考えていると気づけば天使が目の前に。

「お目覚めのようですね。」

天使は言った。

これが異世界転生というものか。

さようなら、愛すべき六畳。


特殊能力をもらうのなら、六畳を生み出す能力が欲しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ