第3話 賢者の石(中編2)
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学院に戻ったわたしは、再度アベル殿下の部屋へ向かいました。
最上階では、殿下は研究を続けています。
マンドラゴラをすり下ろしながら、何かをしているようです。
「……大根おろしでも作るのですか?」
「マンドラゴラだ」
「マンドラゴラなんて、音の出る大根のようなものでしょう?」
「危険度の高い魔法植物なんだが!?」
ツッコミを入れるアベル殿下。
ですが、障壁持ちのわたしにとって、マンドラゴラの叫びは何の脅威にもなりません。
「それよりも、調べてきましたよ」
「ああ、聞かせてくれ」
わたしは調査結果を報告しました。
とはいっても、得た情報をそのまま伝えただけです。
その取捨選択はお任せしてしまいます。
説明が一通り終わると、殿下は腕を組んで数分考え事をしていました。
そして、その思考が終わると無駄に美しい声で告げます。
「この事件に関して、謎は三つ。まず、犯人はどうやって賢者の石を盗んだのか。ケースには鍵が掛けられていた。それに、警備の人間は残っていた」
「普通に考えれば、不可能ですよね」
「だが、事実としてケースの中には偽物が残されていた。可能性としてまず考えられるのは、賢者の石を保護ケースごとすり替えたというものだろう」
「ケースごと?」
「賢者の石だけではなく、ケースも偽物を作っておいたのだ。すり替えた後、本物は別の場所でゆっくりと開ければいい」
「その可能性は既に考えました」
わたしは少し得意げに言いました。
「あのケースは土台に固定されています。それに関しては、確認しました」
「では、土台ごと盗んだとしたら?」
「土台ごと? それも難しいと思います。土台は床にしっかり固定されています。この固定状態を外すのは不可能だと思います」
「そうか。では、渡してあるカギは偽物というのはどうだ? 犯人は普通に鍵を使ってケースを開け、賢者の石を偽物にすり替えた上、また鍵をかけた」
「それなら可能ですね」
「いや、不可能だ」
「自分で言ったのに!?」
「鍵は四人が自分でかけたはずだ。だとしたら、すり替える隙などないだろう」
「そうですね」
「まぁ、この謎については然程重要ではない。ケースから賢者の石を取り出す方法については、他にも思いつく。不可能ではないということが分かっていれば、それでいい」
簡単に言ってくれますね。
わたしには、賢者の石を取り出す方法など一つも思いつきませんでした。
「では、二つ目の問題だ。盗まれた賢者の石はどこにいったのか」
「盗んだ犯人がどこかに持っていったのでは?」
「あれほどの魔力を放っているものだ。服の中に隠したとしても、魔法使いがすれ違えばそこにあるのは気づかれてしまう。魔法使いの警備員もいた以上、持ち出すのは不可能に思える」
「確かに……」
わたしが警備についていたら、確実に気づいたでしょう。
あれだけ強大な魔力を有しているものが移動するのです。
すれ違わなかったとしても、異変には気づくはずです。
「これに関しては、また後で考えることにしよう」
「では、第三の謎は、犯人は誰かということだ。まぁ、これは然程重要ではない」
「重要ではないのですか?」
「そうだ」
普通なら一番重要なところでしょうに。
何せ、強盗殺人です。
「それで、殿下。私はもうお役御免でよろしいですか?」
「駄目だ」
駄目でした。
「君にはまだ頼みたいことがある。とりあえず、オークションが中止になるかどうかを確認しておいてくれ。以上だ」
「それだけでいいのですか?」
事件解決のための情報収集でもさせられるかと思っていました。
ですが、面倒がないならそれに越したことはありません。
「商会は独立性が高い組織だ。事件が起きたとしても、魔法学院が関わる必要はない」
「それは何よりです」
どうやら、仕事は増やされなくて済んだようです。




