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第3話 50ゴル硬貨20枚の謎(後編1)

     2


「ならばいい。さて、結論から言えば、その50ゴル少年は君を毒殺しようとしている」


 その言葉の意味をすぐには理解できませんでした。

 今は小銭の両替の話をしていたはずです。

 それなのに、どうして『毒殺』なんて話につながるというのでしょうか。


 そもそも、わたしを毒殺するなんて不可能です。

 私はあらゆる毒を無害化する能力を持っています。

 それに、あの少年がそんなことをするとは思えません。

 彼にそこまでの悪意は感じませんでした。


 ですが、アベル殿下の態度にふざけた様子はありません。

 まるで、その結論が自明のものであるかのように落ち着いた佇まいをしています。


「50ゴル硬貨20枚。これを君はどうやって扱う?」

「どうって――。全てを重ねて、塔のような状態にしてしまいます」

「実際にやってみてくれ」


 私は言われた通り、50ゴル硬貨を重ねていきました。

 一枚ずつ雑に重ねていき、崩れないように途中で何度か調整を行います。

 20枚を重ねるとバランスが悪くなるので、10枚ずつ二つの塔を作りました。


「……出来ました」

「ふむ。では、君は50ゴル硬貨のどこを触った?」

「どこって……」


 硬貨を摘まむときは、その側面を掴んでいました。

 硬貨を重ねていくことを考えれば、その持ち方がもっとも効率がいいからです。


「これが答えだ」

「え?」

「両替少年は、50ゴル硬貨の側面に毒を塗っていた。20枚を一気に渡したのは、君に重ねる作業をさせて、側面にしっかりと手を触れさせるためだ」

「ええっ!?」


 そんな可能性は考えていませんでした。

 もっと不思議で思いもよらない謎があると思っていたのに。

 現実は無情です。


「側面にかすかに粉のようなものがついていただろう。あれは、塗布されていた毒を君が無意識のうちに浄化していたからだ」

「あ……」


 そう言えば、浄化された毒は、粉状のものになるのでした。

 忘れていました。


 その粉は側面にしかついていません。

 ということは、側面に毒が塗られていたというのは確定でいいのでしょう。


「君、毒が浄化されたらどうなるか忘れていただろう?」

「いや、だって……。毒って基本的に飲むものじゃないですか。粉状になったとしても、体内でまた溶けたりするから、あまり見る機会がないのですよ」

「念のために教えておくが毒とは、飲むものではなく、避けるものだ」

「まぁ、そうですけど」


 常識的なツッコミを入れられてしまいました。

 それよりも、私はショックを受けていました。

 あんな少年までもが私に危害を加えようとするとは。


「それにしても、迷惑な話ですね。私が無意識化で浄化していなかったら、その50ゴル硬貨がお釣りとして誰かの下へ渡ってしまっていたかもしれませんよ」

「それでも大丈夫なように50ゴル硬貨にしたのかもしれないな」

「どういうことです?」

「それは二番目の謎とも関連する」


 二番目の謎――確か『どうやって50円玉を彼は集めているのか』だったはずです。


「この国では、貨幣としては500ゴル硬貨、100ゴル硬貨、50ゴル硬貨、10ゴル硬貨、5ゴル硬貨、1ゴル硬貨がある。このうち、500ゴル硬貨と50ゴル硬貨と5ゴル硬貨が集めにくい硬貨だと俺が言ったのは覚えているか?」

「ええ、そうですね」

「何故だと思う?」

「分かりません」


 私の返事に、殿下はため息をつきました。

 馬鹿ですみませんねぇ。


「少しは自分で考えたまえ」

「ヒント、ヒントをください!」

「その三つの硬貨に共通する要素があるのだが、これは何だと思う?」

「……5の倍数」

「それは1ゴル硬貨以外すべてに共通するな」

「上げ足を取られた!?」

「こうも丁寧に足を差し出されれば、反射的にとってしまうさ」

「アベル殿下は脚フェチだったと学院に報告します」

「おい、止めろ」

「それが嫌なら、説明をしてください」

「……君は、頭の回転が速いのか遅いのかよく分からないな」


 殿下は呆れたような顔をしました。

 ですが、あまり嫌がられてはいないようです。多分。


「おつりとして、基本的には二枚以上渡されることはないのだよ。おつりの枚数は少ないに越したことはない。そのため、10ゴルのおつりの場合は、5ゴル硬貨2枚渡すのではなく10ゴル硬貨を1枚渡すことになる。つまり、50ゴル硬貨を20枚集めるためには、最低でも20回は買い物をする必要があるということだ」

「ああ、言われてみれば」

「どう考えても、一人で集めるのは困難だ。だから、少年の背後には複数の人間がいると考えられる。少年は実行役に過ぎないのだろう。もしかしたら、50ゴル硬貨に毒が塗ってあることも知らない可能性がある」


 それは悪質すぎます。

 ここまで聞けば、あの少年を責める気にはなれませんでした。

 次に彼が来たときは、問答無用で保護することにしましょう。

 そして、彼を背後で操っている輩を徹底的に叩きのめすのです。


「さて、話を戻そう。50ゴル硬貨は、基本的には一度に一枚しか使用しない。だから、一度に渡される硬貨も一枚だけ。側面に触れたとしても、毒の量は君が触れた時に比べれば微々たるものだ」

「つまり、まとめて50ゴル硬貨を扱う私だけが効果が出る量の毒に触れるということですか」

「もっとも、そこまでの配慮をしているかどうかは分からない。客の手にまとめて渡ることはなかったとしても、他の店員がまとめて触れる可能性はあるのだから。そもそも、何も考えずに強い毒を使っている可能性もある。そのあたりは、浄化してしまった以上、分からないが」


 そのあたりは、やはり犯人グループから聞き出すしかないでしょう。


「ところで……。君はその少年のことをどう思っているのだ?」


 今の発言の意図は何なのでしょうか。

 もしかして、嫉妬しているとか――だとしたら、とても可愛い!


「大丈夫ですよ、殿下。私たちは一応婚約者ということになっています。それに、私は貴方のお兄さんのおかげで男性不信気味になっています。あの少年に対する好意は一切ありません」

「そうか。ならいいが――って違う!」

「おや、違うのですか? では、どういうことなのでしょう?」

「……別に、()()()()()


 どういうことなのでしょうか、これ。

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