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第4話 何故彼女は苦しんだのか(相談編)

     1


 わたしは食堂での出来事を説明しました。

 それを聞いていた殿下は、何故か面白そうにしていました。

 少しだけ殴ってやりたくなりました。

 殴ると喜びそうなので止めておきますが。


「ところでセレナ」

「はい、何でしょう?」

「俺は正確に話すように言ったはずだ」

「正確にお話ししていますが?」

「では、確認させてくれ。昼食の注文はどのようにしているのだ?」

「食堂での注文は口頭で行います」


 わたしはあえて少しずれた回答をしました。

 これで誤魔化せればいいのですが、やはりそう上手くはいかないようです。

 殿下は人並み外れた推理能力を持っています。

 その推理力がわたしに牙をむきました。


「この事件は、飲料に毒を入れられていたというものだ。出来る限り詳細に、情報を隠すことなく伝えることを求めている」

「そうですね」

「では、聞き方を変えよう。君はどうやって焼肉丼を注文したのだ?」

「……料理人が焼肉丼を注文する前に、私のトレイには焼肉丼が置かれていました」

「もしかして君は、いつも同じものを注文しているのか?」

「はい、そうです」

「焼肉丼をか?」

「何か問題でも?」

「いや。聖女のイメージが崩れて面白く思っていただけだ」

「聖女時代は、三食ずっと粗食だったのです。焼肉丼に溺れて何が悪いというのですか」

「いや、悪くはない」


 殿下は顔を背けながら答えました。

 どうやら、相当おかしかったようです。

 こうなったら、毎日ここまで焼肉丼を差し入れに来てさしあげましょうか。

 薬品の匂いが漂っているこの研究室は、明日から焼肉の匂いで満たされることになるのです。


 わたしは、そんな逆襲のネタを考えていました。

 そんなことを考えている隙に、わたしは追撃を受けることになりました。


「やはり、君は可愛らしいな」

「な、何がですか?」

「毎日焼肉丼を食べているというのが恥ずかしくて、あえて伏せていたのだろう。その恥じらう姿が、とても可愛らしく思えたのだ」


 微笑みながら、殿下はそう言いました。

 もうこの人にはかないそうにありません。

 わたしはそう確信しました。


「さて、話を元に戻そう。まずは、この事件について、君の意見を聞かせてくれ」

「私としては、タルサ・カキンが毒を入れた犯人なのではないかと思っていました。ですが、今はそれが違うように思えています」

「違うと思えるような理由があったんだな?」

「はい。私は『鑑定』スキルを持っているのですが、そのスキルで毒物の有無を確認できるのです。リリィさんが運ばれていった後にそれぞれのコップを調べてみたところ、全てのコップから毒の反応が出ていました」

「だから、彼女たちも被害者だと?」

「そうなのではないかと思いました。それに、リリィさんが倒れた時、タルサさんは本当に狼狽していました。あれは演技ではないと思います」

「何故演技ではないと思う?」

「私は聖女として、沢山の人と話をしてきました。その経験によって、表情から感情を読み取る技術は持っているつもりです」


 実際は、スキル【真偽判断】によるものなのですが、それを話すつもりはありません。


「ふむ、成程」


 殿下は目をつぶりました。

 そして、右手の薬指でテーブルをリズムよくたたき始めました。

 これは殿下が考え事をするときの癖のようです。

 彼の頭の中では、情報が整理され、推理が組み立てられているのでしょう。

 以前の『消えた指輪』事件では、少ない情報から真相を導き出していました。

 今回も出来るのでしょうか。


 数秒すると殿下は手を止め、目を開けました。


「大体分かった」

「分かったって、真相がですか?」

「そうだ」


 その声に淀みはありませんでした。


「この事件の謎を解くために考えなければいけないポイントは四つある。

 一つ目は、毒を入れた犯人は誰か。

 二つ目は、何故、四つ全てのコップに毒を入れたか。

 三つ目は、リリィは毒入りであることを知っていたのか。

 そして最後は、何故彼女は苦しんだのかだ」

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