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第3話 何故彼女は苦しんだのか(事件編3)

     2


 わたし達の応酬は、しばらくの間続いていました。


 その大半が、下世話な指摘をするタルサさんに対し、わたしが迎撃をするというものでした。

 いつの間にか、わたし達の会話は周囲からの注目を集めていました。

 食堂にいた学生の数はあまり減らず、新たに来た学生たちも興味を持ってその場に留まるようになりました。

 食堂は大盛況でした。最悪です。


 そうしているうちに、先程テーブルを離れた二人の女学生が戻ってきました。

 手には飲み物が置かれたトレイを持っています。


「タルサさん、ただいま戻りました」

「あら、お帰りなさい。それでは、セレナさんに飲み物を差し上げて」

「はい」


 小柄な少女――リリィが、トレイをテーブルの前に置きました。


 そのトレイの上には、四つのコップが置かれていました。

 中身は全て違うようで、それぞれアイスティー、アイスコーヒー、オレンジジュース、グリーンティーの四種類でした。

 全て冷たい飲み物で、氷がたくさん入っています。


 どれかを選んだら、それにケチをつけるつもりなのでしょうか。

 いや、それはいくらなんでも考え過ぎでしょう。


 わたしは無難にアイスコーヒーをもらおうとしました。

 ですが、この四つの飲み物には何らかの意味があるような気がしました。

 アイスコーヒーを選ぶことを予想されていた可能性があります。

 わたしはあえて別の選択肢――オレンジジュースを選択しました。


「それでは、これをいただきます」


 わたしはオレンジジュースが入ったコップを手に取りました。

 すると、タルサたちもそれぞれコップを取っていきました。

 考え過ぎだったのでしょうか。それならそれでいいのですが。


「それでは、頂きましょう」


 かくして、不穏な食事会が始まりました。

 三人組はほとんど食事に手を付けませんでした。

 代わりに何をしているかというと、元聖女――つまりわたしに関する陰湿な会話を繰り広げ始めていました。


「私は今回、とても大きなショックを受けています。ドラゴニア王国の国民たちも、同じ気持ちでしょう。まさか、これまで聖女として尊敬してきた方が、偽物だったなんて。その失望や怒りは、察して余りありますわ。そう思いません?」

「ええ、そうですね」


 こんな感じで、タルサさんの言葉に取巻きの二名が同意を示すのです。

 これには、流石にうんざりしました。


「あの、本人の目の前でそういう会話をするのは止めてもらえませんか?」

「あら、何のことかしら? 私はドラゴニア王国の国民の話をしているのですわ。貴女は傷ついた国民ではないでしょう? 口を挟むのは止めてくださらない?」


 胃が痛くなる思いでした。

 あくまでも仲間内の会話という形をとることで、反論を封じているのです。

 もっとも、これは屁理屈でしかありません。

 その会話の中にわたしの名前が出てきており、その内容も彼女を侮辱するものです。

 十分口を挟む権利はあります。小手先のテクニックなど知ったことではありません。


 わたしは実力行使に移ろうとしました。


 ですが――。

 それを実行に移す前に『事件』が起きたのです。


     3


 わたしの目の前で一人の女学生が苦しそうな表情を浮かべながら身体を傾かせました。

 そして、バタンッ、という音を立てて、椅子から転げ落ちました。


 その女生徒は、三人組の中の一人。小柄なリリィでした。

 彼女は床に倒れ、腹を両手で押さえていました。

 歯を食いしばり、眉を顰めています。


「あああぁぁぁ! ()()()()()()()! ()()()()()()()()()()!」


 そう唸りながら、リリィは身体をよじらせました。


「リリィ!? どうしましたの!?」


 そんな彼女に、タルサが呼びかけます。。

 ですが、苦しがるリリィの様子に気圧されて近づくことすら出来ずにいました。

 その表情には、心からの困惑が見て取れました。


 他方で、当のリリィは暴れ続けていました。

 テーブルクロスを掴んでそのまま転げまわっています。

 そのせいで、置いてあった料理や飲み物が床に落ちてしまっていました。


「……あ」


 わたしの焼肉丼も落ちました。

 まだ少ししか食べていなかったのに。

 こんなことなら、トレイを持って避難しておけばよかった。

 いくら無料とはいえ、あまりに勿体ない。

 床についていない部分だけでも食べてしまいましょうか。


 わたしは呑気にそんなことを考えていました。

 すると、厄介さんが突っかかってきました。


「セレナさん。まさか、貴女の仕業なんですの?」

「何の話ですか?」

「とぼけないでくださいました。貴女が私たちを嫌っていることは、分かっていますわ。貴女がリリィのコップに毒を仕込んだのでしょう!」


 推測とすら言えないその発言に、わたしは眉を顰めました。

 わたしとしては、彼女たちと会話もしたくないのです。

 目の前から消えてほしいとさえ思っています。


「いえ、そんなことはしていません。そもそも、彼女の飲み物は彼女自身が持ってきたものです。その後は、私たちはずっと一緒に食事をしていたでしょう?」

「それは……。いえ、だったら、どうして彼女は苦しんでいるというのですか!?」


 その答えは決まっています。

 明々白々です。

 つまり――。


「わたしの知ったことではありません」

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