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第1話 元聖女、働く

     1


 魔法学院に来てから十五日が経過しました。


 わたしのことを嫌っている学生や教師は多くいるようですが、彼ら彼女らからの嫌がらせは適当に受け流すことが出来ています。追放されたにしては、悪くない環境です。むしろ、責任がなくなった分聖女時代より気が楽かもしれません。


 ただ、問題はありました


 その問題は一言でいえば『お金』です。


 追放された時、当面の金は用意されているはずでした。実際に用意はされていました。問題は、その『当面』の定義です。わたしとしては、最低でも一か月分程度は想定しているものと思っていたたのですが……。どう見ても十日程度の分しかなかったのです。


 食堂が無料で利用できてよかった。この食堂がなければ、わたしは餓死していたかもしれません。追放先がここで本当によかった。ですが、これで安心してはいけません。餓死を免れたとしても、生きていくためには色々と必要となるのです。その為には、お金が必要なのです。


 というわけで、わたしは働くことにしました。普通の人がするような仕事を探して、いくつかの求人に応募してみました。ですが、わたしを雇おうとするところはありませんでした。わたしの素性を知った途端に、彼らは全力でわたしの今後のご活躍をお祈りしてくださったのです。聖女時代を思い出しますね。中にはわたしのことを信じてくれている人もいましたが「客商売におけるリスクを考えると雇うことは出来ない」と言われてしまいました。


 そんな中、唯一見つかった就職先が『学院事務局』でした。学院組織の一部であり、学院に関係するあれこれに対応するお仕事をしている部署ということです。腹黒学院長の息がかかっていそうで嫌でしたが、仕方がありません。背に腹は代えられないのです。


 もっとも、この仕事に不満はありません。事前に聞いた話では、職務内容は問題が起きた際にその処理を行うというものらしいのですが。この魔法学院に所属する学生の多くは貴族階級です。良くも悪くも、身の程というものをよく知っています。少なくとも、わたしよりは。そんな彼らが学内で問題を起こすことはほとんどないでしょう。


 つまりは閑職です。

 暇なお仕事です。

 労せずお金を貰えるのです。


 実際、働き始めてから三日間は平和そのものでした。事務局長のカレン・マーリンさんの指示により、学院内の設備のチェックを行った程度です。聖女時代の激務に比べれば天国そのもの。天国はこんなところにあったのですね。


 そう思っていました。

 三日目までは、そう思えていました。


 そう思えなくなったのは、働き始めてから四日目のことでした。この日の講義は午前中しか行われなかったため、わたしは午後になるとすぐに学院事務局へと出向きました。手軽な仕事をこなしてお金を得るのです。


 ですが、この日はそうはいきませんでした。


     2


「セレナさん。城下町の飲食店で問題が発生しました。今日はそちらの応援に行ってください」


 その日、カレン局長がそのような不可解なことを言いました。


 ここは学院事務局です。ナイトフロスト魔法学院の事務局です。城下町の飲食店と言えば、どう考えても学院の外の話でしょう。管轄外であるはずです。何故学院事務局が応援に行くということになるのでしょう。


「もしかして、学生が問題を起こしたりしましたか?」

「いいえ、違うわ。問題を起こしたのは、学院とは関係のない貴族の女性よ。その対処のために、学院事務局に応援要請があったの」


 局長は当然のように言いました。

 これはいよいよ訳が分かりません。


「あの、それって、学院事務局の仕事なのですか?」

「ええ、勿論」

「でも、城下町って学院の外ですよね?」

「いいえ、外ではないわ」

「どういうことですか?」

「セレナさんは知らなかったのね。いいわ。仕事の前に、この学院についてお話ししてあげる」


 いやな予感しかしません。

 これを聞いたら出動せざるを得なくなってしまうような気がします。聞かなかったからと言って、出動しなくていいことにはならないでしょうけれども。


「そもそも、この城下町は学院を中心に発展したものなのよ。最初は、城下町などはなかったの。だけど、必要があって学院が商人などを誘致した。つまり、この城下町は自然発生的に出来たものではなく、学院が誘致して作り上げられたものなのよ」


 話が読めてきました。

 信じたくはありませんが。


「つまり、この城下町全体が学院の関係施設ということになるのよ」

「それは暴論が過ぎませんか!?」

「そういうものなのだから、仕方がないでしょう。とにかく、今回の件にはセレナさんが適任だと私が判断したの。今すぐ行ってちょうだい」


 業務命令とあらば、行かざるを得ません。

 それが働くということなのです。


「それでは、行くだけ行ってきます」

「後で報告書も作ってもらうからね」

「……はい」


 不承不承、わたしは現地に向かうことになりました。


 わたしに出来ることは、なるべく状況が面倒なことになっていないことを祈ることくらいです。ですが、その祈りが届くことはないでしょう。最近、祈る対象から裏切られたばかりですし。


 実際、そこでは非常に面倒くさい事件がわたしを待ち構えていたのです。


 というわけで、大変長らくお待たせしました。

 ここからは、ミステリーのお時間です。

 最初の事件――『消えた記憶と指輪事件』の開幕です。

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