表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

【令嬢たちのサロンにて】で、見たの? あの夜会

若手中心の非公式夜会──だったはずが、参加者の誰もが語りたくなる「伝説」になりました。

ほんの五分。

けれど、その五分を“見た者”だけが語れる景色が、確かにそこにはあったのです。

モブ令嬢たちの視点から、“あの場”を語ります。


「もちろん。最初から最後まで、完璧に観察してきたわ」

 

「わたしは途中から。でも、十分だったわね。話題には困らないくらい」

 

午前の定例お茶会。

お馴染みの上位令嬢たちが集うサロンは、いつもどおりの華やかさ。

けれど今朝は、空気に少しだけ熱が混じっていた。

 

「やっぱり……噂どおり、王女殿下が?」

 

「うん。“五分だけ顔を出される”って話だったけど──

あれ、五分で十分だったわよ」

 

「ほんとそれ。もう、場の空気が変わったもの」

 

「わたし、第一声が出なかった。息、止まったのかと思ったくらい」

 

「わたしは逆に、ドレスに見惚れて動けなかった」

 

「水色。あの刺繍、見た?

裾の揺れ方がまるで……」

 

「……舞ってたよね。歩いただけなのに、粒子みたいに光が散って」

 

「粒子(笑) でもわかる。あれ、絶対に計算されてる」

 

「“光が流れるように”って。衣装係が騒いでたって聞いたわ」

 

「そりゃあ騒ぐでしょうよ。非公式夜会であの完成度よ?」

 

「まさかの“本気ドレス”。誰も勝てないって、あれは」

 

「しかも、ぴったりだったじゃない。姫様の所作に。──あれ、狙ってたのよね?」

 

「ええ。あれは、“狙って出してきた”わよ」

 

「じゃあ、合わせた相手も、当然“狙い通り”ってこと?」

 

……一瞬、空気がぴたりと止まる。

 

「ゼノ様ね?」

 

「そう。“たまたま”隣にいた、あの公爵家の嫡男様」

 

「“自然に立っていた”の間違いじゃない?

何の違和感もなかったわよ」

 

「でも、あの位置……誰が指示したのかしら?」

 

「誰もよ。あれ、“最初からそこだった”って空気だったもの」

 

「じゃあ……打ち合わせなしで、完璧に立ち位置が決まってたってこと?」

 

「ええ。それが一番怖い。あの二人、もう“図面の中の配置”みたいに完成されてる」

 

「なんていうか、“絵画”よね。動かないのに視線を持っていく」

 

「しかも……お隣、いらっしゃったでしょ?」

 

「ええ、“歩く粛清”」

 

くすくす、と笑いが漏れる。

王太子殿下をそう呼ぶのは、本来なら不敬にあたるのだけれど──

なぜか、今日のサロンでは黙認されていた。

 

「まさか非公式夜会にまで臨席なさるなんて」

 

「本来なら、若手の場なのにね」

 

「でも、いらっしゃった。

しかも、立ってるだけで空気が変わるっていう……」

 

「“寒くなった”って言ってた子、いたわね。あの方が回廊に入ってきた瞬間」

 

「で、姫様は、まったく動じていなかった」

 

「ええ。完璧な笑顔のまま」

 

「でも……その笑顔、少しだけ“凍ってた”って思わなかった?」

 

「……思った。ほんの一瞬だけね。ゼノ様が視線を逸らしたとき」

 

「わたし、あの瞬間だけは目が離せなかった」

 

「誰も言わないけど……たぶん、全員が思ったんじゃないかしら」

 

「“ああ、この場を制してるのは、王女殿下だ”って」

 

「ええ。殿下でもなく、ゼノ様でもなく──姫様が、“真ん中”にいた」

 

一同、ふっと息を吐いたように静まる。

誰も反論はしなかった。

それは、認めざるを得ない“事実”だったから。

 

「で、結局……」

 

「なに?」

 

「“あのドレス”、今後も使われるのかしら?」

 

「さあ? でも、次にお披露目されたときは、“立場”が変わってるかもしれないわよ」

 

「ふふ、それはそれで面白そう」

 

「ま、とにかく。あの夜会、今年一番の“伝説枠”だったわね」

 

「ええ。あんなの見せられたら──

もう、普通の舞踏会じゃ物足りない」

 

「……姫様、ほんとにずるいわね」

 

「ええ。でも、ずるいのが“王女様”ってものでしょう?」

 

きゃっきゃ、と笑いが広がる。

 

この日、王宮では何も“正式な発表”はなかったけれど──

令嬢たちの中では、ひとつの“物語”が静かに成立していた。

 

あの夜会。

水色のドレス。

完璧な笑顔。

そして、“隣にいたのが誰だったか”。

 

この先のサロンは、しばらくこの話題で持ちきりになるのだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ