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その夜会は、“伝説の五分間”と呼ばれた
──時は、翠月十五日よりも前。
場所は、王都に数多くある“とある夜会場”。
表向きには「若手貴族の交流会」と銘打たれた非公式の夜会。
しかし、その実態は、社交界が密かに注目する“前哨戦”だった。
なぜなら。
その会に、あの方が姿を現すなど──
誰も、想像していなかったからだ。
王女、アリシア・リュミエール。
かの姫君が、その夜会に“ほんの五分だけ”姿を見せた、という噂。
そして──彼女の隣に立っていたのは、公爵家のあの青年だった。
衣装は本気。視線は釘付け。
ざわめく侍女。硬直するモブ令嬢。色めき立つ令息たち。
そして、あとに残されたのは、“伝説の五分間”という記録だけ。
これは、あの夜──
ほんの一瞬、扉が開かれた瞬間の、いくつかの視点からの物語。
誰かが震え、誰かが焦り、誰かが惚れ直した──
“まだ婚約発表の前”、けれど世界はすでに動いていた。