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6話 変化 — 過去に立つ隊員





1週間後……施設地下、転送室。

青白い光が空間を照らし、隊員たちは無言で整列していた。



湯中が無表情のまま口を開く。




「本日は初の実地転送訓練です。目的は“実際に過去へ行き、現地での行動に慣れる”こと。場所は2048年5月の東京、全員バラバラの位置に転送されます。時間は揃えています」




星野が隊員たちを見渡す。




「合流地点は渋谷駅前の旧交番跡地だ。過去では極力、現代的な行動は避けろ。訓練だからと気を抜くなよ」


「はい!」




湯中の操作によって、転送準備が整う。




「それでは順に転送を開始します」




転送室内、隊員たちは順番に光に包まれ、次々と姿を消していく。



最後に星野が目を閉じ、独りごちた。



「これが……未来を守るための第一歩だ」


 





* 






光が収まり、星野が目を開くとそこは繁華街の路地だった。

上空にはドローンが飛び、ビルのモニター広告には“2048年”と記されている。




「……成功したか」




通信機に手を当てる。




「全員、状況を報告しろ。こちら、星野。渋谷に着いた」




すぐに次々と応答が入る。




「こちら黒木。新宿駅南口。人は多いですが、問題なし」


「五十嵐。おそらく……足立区の工業団地。あー、臭ぇなここ」


「山野です。上野公園の当たり。合流地点はどこですか?」


「海野、練馬区。人通り多し、目立たないように行動します」


「柳。皇居の東側。散歩中の人間ばかりですねぇ」




星野は即座に判断を下す。




「渋谷駅前の交番跡地を合流地点とする。制限時間は1時間。必ず目立たずに移動しろ」


「了解!」


 










目立たないように、だが素早く移動を続ける五十嵐。

活気あふれる繁華街を見て不思議な気持ちだった。

通行人の数、商業ビルの配置、いつも通りだ。

だがここが──2年前の“東京”。



ジャケットのフードを被りつつ、周囲に溶け込むように歩く。



(……渋谷駅はこっちのはず。人多すぎるな、マジで)



ふと、信号待ちの交差点で足を止めた。

ある看板に視線が吸い寄せられる。



「ん……そういえば、この日付……あれ?」



目を細めて周囲を見渡す。



「この日って……確か、あの時期じゃなかったか?確か、この辺を通ったような……」



そのとき、不意に背後から声がした。



「五十嵐さん。振り返らずに進んでください」


「──山野か。いつからいた?」


「今さっきです。この道は監視カメラがあるので、できるだけ自然に動いてください」



前後で歩きながら、山野が小声で続ける。



「今の独り言、少し危なかったです。まさか、過去の自分に会おうとしました?」


「……してねぇよ。ただ、なんとなく見覚えがあっただけだ。ああいうのって、ふっと湧いてくるんだな」


「分かります。でも、今は我慢してください。私達の任務は、記録を乱すことじゃない」


「……まったく、お前ら若いのは真面目すぎるな」




五十嵐が苦笑し、少し歩調を緩める。




「まぁでも、そういうとこ嫌いじゃねぇよ。……よし、行こうか」




二人は人混みに紛れながら、渋谷駅前へと歩を進めた。


 




* 





それぞれ別の場所に転送された隊員たちも、合流地点を目指していた。



黒木は地下道を経由し、柳は裏通りからルートを割り出し、海野はバスを装って渋谷方面へ向かう。



一番最初に合流地点に着いた星野は交番跡地近くに目立たないように立っていた。

腕時計型の端末に目をやる。




「……全員、無事に来いよ」




やがて、ひとり、またひとりと影が現れる。



言葉少なに頷き合いながら、未来から来た者たちは、過去の街に静かに集まりつつあった。


 


* 




交番跡地──今はただの観光案内板と化した灰色のブロックの前に、全員が集まったのは、転送から45分後のことだった。




 星野は時計を見て、一言だけ呟く。




「……よし、時間内に全員到着だな」




 周囲の喧騒に紛れながらも、それぞれが安堵と緊張の混じった顔をしていた。





「まさかこの街が、2048年と言っても何も変わりませんね」

と、小声の黒木。



「2年前もすでにドローンも多いし、歩きながら撮られてる感がすごいですよね。なるべく撮られないようにしましたが」

と、苦笑気味の柳。



「任務じゃなくても、やっぱり緊張するな……この空気、息が詰まりそうだ」

海野は体を伸ばして深呼吸した。



「俺なんか、逆に落ち着いたけどな。なんつーか、“帰ってきた感”あるぜ」

五十嵐は通常運転である。



「でも、“見覚えある”って言ったとき、少し危なかったですよ。自分の行動には気をつけてくださいね」

山野は横目でチラッと五十嵐を見ながら微笑む。



「……はいはい、反省してますよ」



「でも興味深いですよ。この時代の無意識的な行動が、将来にどう繋がっていくのか……観察対象としては非常に有意義です」

眼鏡を押し上げる小野田は、興味深そうに過去の街並みに視線を送った。




改めて星野が皆に視線を向けた。




「それぞれ、観察や記録の感覚はあっていい。だがあくまで訓練だ。何も残すな。何も変えるな」




 その言葉に、全員が静かに頷いた。





「湯中さんとの次回通信までは、あと10分。ここで待機でいいですか?」


「ああ。何か問題が起きたら即撤退。通信が届かない場合は、指定時刻での自動帰還に任せる。……想定内の動きだけしてくれ」



黒木の質問に、星野が返答する。




「未来の我々が、過去の渋谷でこうして立っていること自体が、既に奇跡ですよね……」




柳の意見は皆が思っていた事だ。

確かにここにいるだけでとても凄い。

本当にタイムトラベルをしたんだという実感が湧く。




「……ま、これからの俺らにとっちゃ、“奇跡”が日常になるんだろうな」


「その認識があれば十分だ五十嵐。──よし、残りの待機は交代で周囲を監視。誰かに“記憶”されるなよ」




 特殊作戦部隊Tの隊員たちは、それぞれ自然に立ち位置を散らしながら、2048年の渋谷の雑踏の中に、音もなく溶け込んでいった。

 ただの“訓練”──だがそれは、確かに未来を守るための第一歩だった。









この日、渋谷の歴史に波は立たなかった。

だが、誰も知らぬところで、“未来のための第一歩”が確かに刻まれていた──。











ここまで見てくれたそこのあなた!!さいこーです!

神城クロノと申しますm(_ _)m

今回は、OSMANTHUS — 未来を変える戦い —の6話を読んでくださってありがとうございます!

これから、週2〜3本ペースを目指して執筆していきます

当分の間はストックが溜まってるのでポンポン行きます!

読んで、面白いなーと感じたらぜひ☆の評価ください!

ブックマークも意欲が上がるし嬉しいです\(^o^)/

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