5話 暗躍 — 隠された研究本部
昼休みも終わりかけた頃、星野は部隊の隊員たちを集めた。
「今日は訓練も講義もない。だが、紹介しておきたい人物がいる」
柳が眉をひそめて訊く。
「誰ですか?」
「昨日話した湯中真平だ。俺は一度会って面識がある。研究本部第一研究課の責任者で、現在は秘密裏に動いているが、PTDの管理者でもある」
隊員たちはざわついた。
「ん?研究本部……って、表向きはもう存在しないはずじゃ?」
山野が首を傾げる。
「そうだ。だが、技術研究は秘密裏に続けられている。彼がその中心人物だ」
その時、控えめなノックとともに、ドアが開いて湯中真平が現れた。
無表情で無造作な髪、黒縁眼鏡。
見るからに研究者然とした雰囲気の男だ。
そして、彼は淡々とした声で挨拶を始めた。
「特殊作戦部隊Tの皆さん、湯中真平一等陸佐です」
特殊部隊Tは上層部から与えられた部隊の正式な名前だ。
なぜTなのかは星野もよく分かっていないが、多分TimeのTなのだろうと推測している。
「まず、今日はPTDの実物を見てもらい、今後の運用について話したいと思っています」
湯中が案内しますと早速動き出し、皆はそれに従った。
星野もPTDを見るのは初めてだ。
湯中の雰囲気に皆が心の中で気味の悪さを感じていた。
口調は終始丁寧な敬語、そして冷静かつ機械的な話し方。
その丁寧すぎる態度が、逆に距離感を生み、どこか嫌悪感にも似た感情を芽生えさせる。
隊員たちは食堂から離れ、ひんやりとした廊下を歩く。
そして、やがて重厚な鉄扉の前に立った。
「ここがPTD格納室です」
扉がゆっくり開き、室内に足を踏み入れると──
そこには巨大な装置が鎮座していた。
四角い機械の塊。
高さは約3メートル、壁一面を覆うほどの大型筐体。
各所から光が漏れ、機械音が微かに響く。
「うわ……でかい……」
山野が声を漏らし、思わず一歩後退する。
「これがPTD……?」
黒木は目を見開き、じっと機械を見つめている。
「これを使って、過去への転送を行います」
湯中が操作端末を手に取り、静かに説明を始めた。
「PTDは単なる転送装置ではありません。時間と空間を同時に制御し、指定した過去に人員を送り込む装置。現状では数十名規模の同時転送が可能で、今後の任務で活用する予定です。今から、この装置を私が調整します。調整は同期率の確認が目的で、問題がなければ、来週から訓練にも組み込みます」
湯中の声は冷静だが、その言葉に隊員たちは一瞬にして気を引き締めた。
「PTDは、時間のズレを最小限にするための高度な調整が必要です。これができなければ、過去転送はリスクがとても高い」
その言葉に、五十嵐が「確かにこれは、ただの機械じゃねぇな……」唸った。
湯中は淡々と続ける。
「時間は直線的でも環状でもないです。可塑的な性質を持ちます。だから過去への介入は未来に影響を及ぼす。
PTDはその“時間の可塑性”に適応する装置であり、一種の生体機能を模した構造を持っています」
小野田が端末に視線を移しながら呟いた。
「つまり、過去に行くたびに歴史の地層を攪拌するようなものか……」
湯中はそれには答えず、操作を続けた。
「動作確認は成功です。同期率は99.98%。今後の任務でも支障はないでしょう。私はこのまま調整を続けます。お話は以上です」
退室していいですよ、という空気を醸し出す湯中に従い全員が部屋から出た。
部屋を出ると、再び星野が口を開いた。
「昨日の話が実際に目の前で動いている。ようやく実感できたか?俺もその一人だ。この技術を扱うには、そうとうな理解力が必要だろう。それに皆の協力が不可欠だ。今後は過去に行く訓練もする予定だから、覚悟はしておけ」
隊員たちは重い言葉に頷きながら、日常と非日常の狭間に立っている自分たちを改めて実感した。
「来週から湯中と計画を練って本格的に、タイムトラベルの訓練を行う予定だ。各々その事を心に留めておいてくれ」
そう星野に言われた隊員たちは、ゴクリと生唾を飲み頷いた。
「とりあえず黒木だけ俺の執務室に来てくれ。今後のことを計画していく」
「分かりました」
「他は皆解散でいいぞ!明日からは拠点内で訓練を行うからちゃんと身体も休めろよ」
「「「「はい!!」」」」
星野、黒木、湯中以外の面々はなんとなく訓練場に辿り着いた。
各々が沈黙を続けながら、小野田はベンチに座り、他は筋トレを始める。
その沈黙を破ったのは五十嵐だった。
バーベルを握り締める手がいつもより強張っている。
「まーだ、実感わかないんだよなぁ」
「ですです!タイムトラベル……よく分からないですよね」
山野が震える手を押さえながらそれに反応する。
皆も無言で頷く。
「でも、あんな見たこともない馬鹿でかい機械見せられたらな。あぁ〜、まじで出来るんだタイムトラベルって気になるよなぁ」
「あの機械は凄かったですね」
頬を引くつかせながら小野田が二人の会話を聞いてぽつりぽつりと口を開く。
「……凄い……なんてものじゃ、ないですよ。ちょっと見ただけでもスペックの異常性が分かりました。宇宙人が持ってきたって言われても俺は信じます」
「まじかよ。やっぱあれすげぇのか」
「そりゃあ凄いですよ。凄そうでしたもん」
空気が重いのは、恐怖なのか、それとも未知すぎるのか、本人達にも分からなかった。
今までに感じたことのない感情が心を埋め尽くす。
「でも、凄いよな。もし、俺らが過去に戻って歴史を変えるような事件を未然に防げたら……」
海野の言葉に皆が力強く頷いた。
そう言った海野のベンチプレスを握る手はいつもより汗ばんでいた。
確かに凄いことだ。
未だかつて誰もやったことがない任務。
恐怖と未知、それを払拭できる程の希望、そして責務。
その後、部屋に戻った後も全員の心の中で渦巻き続けた見たことのない未知なる未来。
きっとそれは平穏ではない。
それでも……
それが誰かの平穏に繋がるのだとしたら。
そう信じ、皆はまた一つ覚悟を決めたのだった。
続けてここまで見てくれたそこのあなた!!さいこーです!
神城クロノと申しますm(_ _)m
今回は、OSMANTHUS — 未来を変える戦い —の5話を読んでくださってありがとうございます!
これから、週2〜3本ペースを目指して執筆していきます
当分の間はストックが溜まってるのでポンポン行きます!
読んで、面白いなーと感じたらぜひ☆の評価ください!
ブックマークも意欲が上がるし嬉しいです\(^o^)/