2話 結成 — 集結した仲間
「それは、どういう事でしょうか」
星野の質問に山渕はグッと体を前に出し、星野の目を見つめた。
その切り替わった空気に星野は、改めて背筋を正す。
「もしも、国防に関わるような大きな事案が発生しそして取り返しのつかない状況に陥ってしまわないように、日々我々防衛省や警察庁はそれを未然に防いでいるわけだが、それでも未曾有の事態を確実に避けられるわけではない。現に、歴史の中では防げなかった大きな事件、テロがあった。そういった事案。つまり、未然に防ぐ事ができなかった、起きてしまった重大な事案。それに対処する為のチーム、それをキミに任せたい」
「つまり、実際に起きてしまった大事件を解決するチームですか?」
「正確には、実際に起きてしまった大事件を未然に防ぐチームだ」
*
秘匿された部隊の為、我々の拠点は軍関係の場所には置くことができないらしい。
山渕陸将補から星野があの依頼を受けてから、2週間が経っている。
星野はあの隊を任せられるにあたって防衛省から一等陸佐の階級を与えられた。
一段階昇格である。
それがあっても素直には喜べないと星野は思っている。
山渕から指定された拠点に向かったのはあの日の次の日である。
防衛省からそこまで離れてはいないが、軍関係だとはまったく思われないだろうオフィスビルの地下。
そこに嘘みたいな最先端の機材が至る所に置かれているのを見た時は、ここから戦争でも起こす気なのかと星野は頭痛を感じた。
訓練場や食堂、仮眠室に会議室、さらには隊員用の宿舎まである地下一階から地下三階までの想定していたよりもかなり広い拠点だが、星野がそこに顔を出しても誰もいなかった。
隊員はまだ星野以外決定していないからだ。
山渕から渡された書類に、隊員となれる基準をクリアした者達がリスト化されている。
それを見て、星野が選んで良いと言われた。
選んで良いとは言っても、すでにその前にかなり厳選されているのは言うまでもないだろう。
ちなみにだが、隊員はまだ星野だけだが同階級となったあの研究員。
湯中一佐もチームに加入されるらしい。
第一研究課課長と兼任でPTDを起動させたり、点検したりする要員として送り込まれる。
隊長用に用意された執務室でリストを確認しながら星野は山渕との会話を思い出していた。
それはこの部隊は自衛官だけでなく、警察、それも公安の精鋭も部隊に引き入れられるということだ。
防衛省と警察庁の合同。
つまりは、逆に言えば必ず誰か警察の人間も入れないといけないという暗黙の了解。
星野はそれがとても煩わしかった。
隊に引き入れれば自分が率いていかなくてはならない。
それに、今回の部隊は途轍もなく特殊だ。
だからこそ、同じ自衛官ならまだ良い。
が、畑違いの公安を部下に置くのは……。
ただでさえ特殊な任務の為、陸海空の精鋭を一人ずつは率いれるのが理想だと言われている。
同じ自衛官とはいえ一等陸佐である星野にとっては海空の精鋭を部下にするのだけでも頭が痛いというのに。
星野は、これ以上考えても仕方がないなと溜め息をついてリストに思考を戻した。
「リストに載ってて驚いたが、五十嵐は欲しいな」
星野が呟いて名前を出した五十嵐は、星野の自衛隊の部隊の部下の一人である。
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五十嵐竜星、年齢34歳。
自衛隊特殊作戦群所属、階級は一等陸尉。
空手と柔道の最高段位を持つ。
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五十嵐は強面で勘違いされやすいが、後輩や仲間想いで頼りになる男である。
そして、分け隔てなく誰とでも仲良くなれる才能がありムードメーカーでもある。
さらに言えば書類の情報通り、空手と柔道の達人で、近接戦闘では星野と唯一対等にやりあえる部下だった。
年上で部下というやり辛さも微塵もなく頼りにしていた男、新設の部隊にはぜひ欲しい。
星野はリストの五十嵐の部分にチェックを入れた。
星野は次に胃の痛い人物を発見した。
自由に選んでくれとは言われたが無言の圧力でこいつだけは入れてくれと目で訴えられていたのを思いだす。
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黒木鏡花、年齢26歳。
警視庁公安部所属、階級は警部補。
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公安の若手キャリア組。
実力はそれなりにはあるだろう。
しかし、特出しているのかは不明だ。
だが、この人物はとある大物の娘である。
だからこそ、山渕も圧力を掛けてきたわけだ。
星野の気持ちとしてはその大物の影も含めてかなり渋々だが、さすがにあの圧力を無視することはできない。
不承不承チェックを入れた。
それから他に4人。
陸空海の自衛隊からチームに引き入れることにした。
さすがにチームが自衛隊に偏り過ぎている為、後々警視庁からも増員しなきゃいけないだろう。
だが、発足する初期メンバーと考えれば十分だった。
何をするにもとりあえず他の人の手が欲しい。
さすがに星野1人では捌けない。
*
数日後、部隊のメンバーが拠点に集まった。
国家レベルの秘匿部隊という説明しかなされていない為、全員が半分困惑した顔をしている。
ただ一人だけニヤニヤしているのを星野は見逃していない。
特殊作戦群時代の部下、五十嵐である。
「元自衛隊特殊作戦群、一等陸尉。五十嵐竜星、着任しました。また面白そうなことになってますね隊長」
「ニヤニヤする癖をまずやめろ、他のやつらが引いてるぞ」
「だって、面白そうじゃないですか。しかも隊長が率いるなんて確定案件です」
「はぁ……その感じでお前が優秀なのが腹立つな」
「ありがとうございます!久々の隊長からのお褒めの言葉嬉しくて俺、今日も仕事終わりの酒が美味そうです」
星野は、もう放って置くことにした。
「はいはい……。他の皆も宜しく頼む。俺がこの隊の隊長の星野零だ。階級は一等陸佐だが、今回は警視庁とも合同だから自衛隊のメンバーも、そこまで階級は気にしなくてもいい」
星野の言葉を聞いても階級を気にしていない者はいなかった。
全員が綺麗な姿勢で立っている。
「警視庁公安部から来ました。警部補の黒木鏡花です。宜しくお願いします」
そう挨拶をした黒木は模範のような姿勢で敬礼をした。
星野はその新人隊員のような綺麗な敬礼に苦笑しながら、返礼を返した。
「最初に言っておくが、俺はキミを特別扱いしない。それでも良いのか?」
「はい!その方が、嬉しいです」
今後の扱い方に関わる為、少し強く言ってはみたがなぜか黒木はそれを聞いて喜びの表情を見せた。
変わり者なのだろうかと星野は思った。
「次は……」
「あ、はい!山野美穂二等陸曹であります!星野一佐」
「堅苦し過ぎるな。いつの時代の自衛官だ」
「も、申し訳ありません」
チラッと星野が目を向けて山野は自己紹介を始めたが、その独特な言葉遣いに星野はまた変人か?と頭痛を感じた。
今どきそんな言葉遣いをする自衛官はいない。
「し、志望動機は髪色自由であります!」
「そこまで聞いてないぞ?」
「申し訳ありません!」
確かに茶髪のボブだなぁとは思っていたが髪色自由に惹かれたのか。
いや、確かにこの隊はかなり自由にして良いとは言われてるがまさか上層部がそんなバイトの求人みたいな謳い文句をしているとは。
「柳雅人三等空尉、着任しました。宜しくお願いします」
「あぁ、優秀な噂は聞いている。宜しく頼む」
「はい!」
柳は細身でゆるふわなパーマの優男だ。
この見た目だが航空自衛隊では有名な優秀な隊員らしい。
少しチャラそうな見た目だが、挨拶も問題ないので大丈夫だろう。
「海上自衛隊二等海尉、海野誠司です。」
「海上自衛隊最強の異名は伊達じゃなさそうだな」
「私など、まだまだですよ」
海野は短髪で筋骨隆々、そして日焼け。
明らかにThe海兵といった男である。
海上自衛隊最強と言われる武術の達人でもあり、その無駄のない大きな身体は明らかに強者といった感じだ。
五十嵐と同じく筋肉馬鹿なようだが、頭も良いと評価されていた為安心感がある。
そして、ついに今日この場に集まったなかで最後の1人となった。
黒髪に丸眼鏡の印象の薄い顔立ちで自衛官だとはとても思えないが彼は間違えなく自衛官である。
「小野田世界です。階級は陸曹長、統合情報部に所属していました」
「よく来てくれた。キミは確実に欲しかった1人だ」
「え、ほ、本当ですか?」
「当たり前だ。キミは唯一無二と言っても良い存在だ」
「頑張ります!」
幸薄そうな童顔なこの男を星野はリストの中で一番気になっていた。
小野田世界陸曹長。
統合情報部所属、情報工作員。
学生時代にダークウェブ上で最も有名だったクラッカー(違法行為を行うハッカー)であり、その才能を買われ逮捕か自衛官になるかを迫られたと書類には書かれていた。
IQ190の天才で、ハッキングを行えば右に出る者がいないらしい。
情報部を上層部がなんとか説得して予算を引き上げる代わりに引き抜いても良いとなったそうだ。
それだけ重要な男。
リストの中でもこの男の部分にだけは最初から丸で囲まれた書き込みがあり、入隊は確定していた。
「ええ、というわけで6人に集まってもらったが今日は来ていないがもう1人すでに着任している隊員がいる。まぁその隊員は後日紹介する。隊員と言っても機械を管理してもらう担当なので実行部隊ではないから問題ないだろう。」
そう湯中真平は今日来ていない。
まぁ彼の場合は第一研究課と兼任なので仕方がないだろう。
はじめまして!皆さん
神城クロノと申しますm(_ _)m
今回は、OSMANTHUS — 未来を変える戦い —の2話を読んでくださってありがとうございます!
これから、週2〜3本ペースを目指して執筆していきます
当分の間はストックが溜まってるのでポンポン行きます!
読んで、面白いなーと感じたらぜひ☆の評価ください!
ブックマークも意欲が上がるし嬉しいです\(^o^)/