interview~5~【正解はありませんので】
こんにちは
全6話構成の、短いお話です
お気軽に覗いていってください
「私は今、彼にダンスのお誘いをしたつもりでした。私と、踊って、くれませんか?と。こういう風に――」
彼女は今一度、先ほどと同じような動作をしてみせた。
なるほど、確かにそうとも見える。誘い、そして待つ。心を込めて差し出す、手。
けれど一方で、オオツキさんが言ったストーリー――高貴な女性の命令としてのマイム――もまた、確かに成り立つ。
どちらにも取り得る。マイムという身体言語には、正解も不正解もないということだ。
「す、すいません。私、てっきり、――」
「正解はありませんので」
彼女――朝倉は、即座にその言葉を断ち切るように、しかし優しく言った。
私のストーリーも、今オオツキさんが考えられたストーリーも、どちらもあって良いと思います。バレエは、言葉がない分、その人の想像力や感性が直に刺激されます。そこが面白いところでもあるんですよ。
もちろん、可愛い衣装や豪華な舞台セット、生演奏であれば音楽を聴きに来る方もいます。何度も言うようですが、バレエは総合芸術なので、楽しみ方や魅力の考え方は十人十色で、これが正解というものはありません、――
ひと呼吸置いて、彼女は視線をカメラにではなく、オオツキさんにまっすぐ向けた。
「ですから、現時点での私の考えで述べさせてもらうと、言葉のない芸術だからこそ、面白さがある、といったところが、質問に対する答えでしょうかね」
そう締めくくって、彼女はにこっと、穏やかに微笑んだ。
その笑顔に、オオツキさんの表情もようやく和らいだように見えた。
張りつめていた顔つきが、少しずつ柔らかくなっていくのが分かる。
ここへ来てようやく、彼女は「話す」ことよりも「感じる」ことに意識を向けはじめたのかもしれない。
もしかしたら、オオツキさんはバレエを知らないのではなく、
“知らない自分”を恥じていて、それを覆い隠そうとしていたのかもしれない――。
確証はない。ただの憶測だ。でも、そう思わせるほどに、彼女の空気が変わった気がした。
まあ、日本じゃ、まだまだだもんな――。
私は心の中で、そんな言葉を呟いた。
それは少しばかりの嘆きであり、でも、希望でもある。
きっと、これから少しずつでも変わっていく。今日のような対話が、その一歩になればと願いながら。
〜〜
「では、最後に、日本初国立バレエ学校創立十周年を迎えた記念に一言いただけますでしょうか?」
気がつけば、後半も時間が経っていた。締めの言葉である。彼女は口角を少し上げた。
「まずは沢山の方々に感謝をお伝えします。この国立バレエ学校は、私が日本にもっとバレエを広めたい、バレエダンサーを志す子どもたちの環境を支えたいという想いから始まりました。海外、特にヨーロッパでは、芸術が必要だと国民の中で認知されているようですが、日本ではまだまだ芸術家や舞踊家の立場が確証されていなく、悲しい環境でもありました。バレエダンサ―の中には、やはり日本で踊りたいという人も多いです。そこで、何かできないかと思ったところ、機会をいただき国立バレエ学校、および国立バレエYOUTHの創立という運びとなりました。ここではバレエの基礎や公演、地域との関わりを持つことによって、よりバレエを知ってもらおうという志を基にプログラムが組まれています。ゆくゆくはバレエダンサーという立場が、職業として認定されるよう目指していく所存です。そのために、この学校へ併設されている小劇場や、数多くあるバレエ団の公演へ、足を運んでもらいたいなと願っています。改めまして、全ての方々に感謝申し上げます。そして、これからの活動も応援していただけたらなと思います」
******
※5/5~5/10まで夜22:00に毎日、投稿します




