夕焼け
2日して父はもどってきた
父のもどってきた晩
母が出て行った
医者に止められたアルコールを
父が飲もうとしたとき
母は泣きながら怒った
みんながこんなに心配しているのに
体に悪い事はしないでほしいと
たのんでいるのに
それでも
あなたはお酒をのむんですか
それをのむなら
私は出て行きます
父はのんだ
母は出て行った
次の朝
父は何事もなかったように
会社に行き
私は、塾の夏季講習に行った
普通に友達と会い
普通に授業を受ける
夕食を作っていると
父はいつもの時間に帰ってきた
料理をテーブルに運んでいると
父はグラスを取り出し
ウイスキーをなみなみついだ
「おとうさん!」
父の方に駆け寄る
「どうして?なんのためにお母さんは出て行ったの?
やめてよ!」
それでも、かまわずグラスを口元にもっていこうとする父
「それをのんだら、私、もう何も食べないから!」
ゆっくりと
あおるようにのむ父
次の日
電話をかけてきた母に
弟は言った
「おねえちゃん、何も食べてないよ」
あわてて帰って来た母は
もう、なにも言わなかった
父も黙ってグラスをかたむける
思う
母が出て行くと言っても
私が食べないと言っても
のむのをやめない父
あの人は
あの瞬間
母を捨て
私を捨てた
新学期が始まる
目の隅で彼を探す
彼を探してどうするの
私は誰も好きになってはいけないのに
新学期が始まって1週間経っても
彼の姿は見えなかった
「ねぇ、吉田がケンカした話知ってる?」
「ケンカ?」
「うん、休み時間に誰かと、それで、学校に来れないんだって」
「ケンカなんて、しょっちゅうじゃない。なんで1週間も
来れないのよ」
「さあ?」
何かあったんだ、と思う
家の方で
彼が再び姿を見せたのは
9月の半ばを過ぎてからだった
放課後
夕日のあふれる道で
彼の後姿を見つけた
追いかけて、話をしたかったのに
追いかけなかった
私は人を好きになってはいけない
私は人を救えない
不安が私をはなしてくれない




