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悲しいひと  作者: やまだひなこ
4/14

きおく

中3になると

当然のように、彼とは違うクラスになった


彼の教室は3階

私は4階


たまに、廊下ですれ違う

どきどきする

でも

言わない


「ねぇねぇ、美子ちゃん、大事件」

しーちゃんが私の肩をたたく

「事件?」

「吉田がね」

吉田は彼のことだけど

彼はいつも事件を起こすから

別に驚かない


自転車で学校に来たとか

校長室のジュースを飲んだとか


「さっき、授業中に廊下で」

「はいはい」

「平野がね」

「吉田じゃないの?」

「吉田が美子ちゃんを好きだって、叫んだらしい」


「ふうん」

「驚かないの?」

「なんで」

「いつも、驚かないねぇ」


彼が私を好きなことはわかっていた

私が彼を好きなのもわかっている

だから

どうしろっていうのよ



その年の夏は、近くの川にキャンプに行った

去年のことがあるから

遠出はやめようと伯父が言ったから


疲労と直射日光が原因

本当にそう?



「美子ちゃん!」

川の中で、いとこの由香が叫んでいる

「まってて、ジュース飲み終わったら行くから」

ジュースの缶を振りながら答える

「あれ、良太は?」

「あそこ、おとうさんと魚釣り」

「釣れるの?こんなところで」

良太が、こちらに向かって走ってくる


「おとうさんが」

言い終わらないうちに母が走りだした

私も走り出す

いつもの不安がすぐ横にやってくる


父は、川の水に膝半分をつけるように倒れていた

「美子!手を押さえなさい!」

母に言われるまま、父の右腕を押さえた

ものすごい力で押し戻されそうになる

体重をかけて、腕を押さえ込んだ


真っ白な父の口から泡があふれる

なにも見ない目が人形のようだ

人が集まってくる


「救急車!」

誰かの叫ぶ声と

ひそひそ声

いったい、何がどうなっているの?


やがて、発作がおさまり

高いいびきをたてながら

眠り込んだ父を

救急車が運んで行く


帰り道、母の声は真剣だった

今度、会社で倒れでもしたら

会社にはいられないこと

そうなったときの生活のこと


悲しくなかった

ああ、やっぱり

そう思った


その夜

伯母に泣きつく母の声を聞いた

「あんな父親がいるのがわかったら

美子はどこへも、お嫁にいけない」


私は、1晩中その言葉を反すうした

ああ、やっぱり



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