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桜
「しんちゃん」
私は
私の声が
やわらかいのに気付く
「大好きよ」
しんちゃんの背中を
そっと抱くと
しんちゃんが
その腕をほどいた
春が
桜が
甘く
狂う
「美子は」
「私は?」
「別れる男に、好きだって言ってどうするんだよ」
「だって、好きなんだもの」
「だったらどうして」
「どうしても」
しんちゃんが私の手首をつかむ
「はなして」
「はなさない」
はなさない?
それが
あいしてる
に
きこえるから
私は
しんちゃんのそばにはいられない
「こんなに」
あいしてるのに?
「痛い」
しんちゃんの手がゆるむ瞬間
ふりはらう
手首についた
しんちゃんの手の跡を
ゆっくり眺めながら
なぜか笑ってしまう
「桜が綺麗よ」
しんちゃんが
見上げる桜は
しんちゃんに優しいかしら
「さびしいのよ」
「そばにいるだろ?」
「いないわ」
「いる」
「だって、家に帰るじゃない」
しんちゃんが何かを言おうとする
私は言わせない
「ずっとなんてない」
学校に行くじゃない
卒業したら会社に行く
友達にも会いに行くでしょ
絵を描くとき、私を思う?
仕事しながら私のことを考える?
何十年も私を好きでいる?
ほかの誰も好きにならない?
まばたきもせずに
ずっとずっと
私だけを見ていられる?
いやなのよ
ずっとなんてない
永遠じゃないものなんて
いらないのよ
しんちゃんの手が
私の頬に触れる
甘い香りが
温度が
私を抱きしめた




