雪
どこからか
なつかしい歌がきこえる
「まだ、話すの?」
私はしんちゃんを見上げる
「まだって」
なにも話してないだろ
「そうだった?」
返事のかわりに
しんちゃんが
ライターを
かちかちと
開けたり閉じたり
「その」
誰か綺麗な人にもらったライターを
捨てたら話すわ
しんちゃんが
ライターを放り投げる
ため息をついて
それを拾いに行きながら
私は
髪に
しんちゃんの香りが
移っているのに気付く
「結局、なんだかんだ言ってもね」
拾ったライターをしんちゃんに渡しながら言う
どうにもならないときは
死ぬこともできないのよ
「冬だったの」
なんの脈絡もなく
死のうかな
って
思ったの
ずっと
死にたいと
思っていたけど
その頃には
そんなことも
どうでもいいかなって時で
事件らしい事件もなくて
どちらかというと
平和な時
なのに
ふと
死のうかなって
思ったのよ
しんちゃんが煙草に火をつける
学校の帰りに
反対方向のバスに乗ってね
ひとりで
なんとなく
海のほうにいこうかなって
「怒ってる?」
「怒ってるよ」
「ふうん」
「で?」
「まだ話すの?」
しんちゃんが笑うと
そこら中が甘くなる
「冬だったの」
真冬
バスで駅に向かっている途中
雪が降ってきちゃって
とにかく雪で
道路が大渋滞
「晴れていたら」
30分位で着くのに
1時間以上かかっちゃって
バスの窓から
外を見て
寒そうだなって
海なんて行ったら
もっと
寒いだろうなって
「おわり」
「おわり?」
「そうよ」
「駅に着いて、そのまま電車で家に帰ったの」
「寒いから、死ななかったんだ」
「雪が降ったからよ」
「美子」
「なあに」
俺の前で、他の男とキスするなよ
私が、笑う
寒かったからね




