2 先生と騎士
王子さまはたくさんの家来をしたがえ、フランクベルト王宮を出発しました。
二頭の馬が、王子さまののるりっぱな馬車をひいて、進みます。
馬車のまえには、ピカピカ鎧の馬と、ピカピカ鎧の馬にまたがる、ピカピカ鎧の騎士。
馬車の行く手をみちびくために、先頭を走ります。
それから、馬車のよこにも、うしろにも。
ピカピカ鎧の馬にのった、ピカピカ鎧の騎士たちが、王子さまののる馬車をかこんでいます。
王子さまが、ぶじに旅をしてまわれるように、騎士たちがまもっているのです。
ある騎士は、馬にのりながら器用に、フランクベルト王国の旗をかかげています。
そうすると、風になびく旗のようすが、沿道に立つひとびとにも、よく見えました。
ひとびとは、王子さまの冒険をおうえんしようと、かけつけたようです。
「王子さま、がんばってくださいね」
あちらこちらから、歓声があがります。
「王子さま、よい旅を」
ひとびとは、りっぱな馬車がすぎさるのを、えがおで見おくりました。
「女のようにウジウジとした王子さまですが、この旅で、ひとかわむけるかもしれませんね」
うでを組みながら、まんぞくそうにうなずくのは、王子さまの先生です。
先生は、たくさんのひとびととおなじように、王子さまの旅立ちを見おくりにきたのでした。
先生のとなりには、王子さまに剣のけいこをつけていた騎士がならんでいます。
「王子さまは、お考えがふかく、おやさしいかたです」
騎士は、ムムム、と、うなりました。
「ウジウジとしているのではありません。いまの王子さまのままでも、きっと、りっぱな王さまになりますよ」
「それではあなたは、『ゲオセルミアへ旅立つように』という王さまの命令が、まちがいだというのですか?」
先生はかんかんになって、騎士につめよりました。
「いいえ。王子さまはこの旅で、さまざまなひとびとと出会い、きっと成長なさることでしょう」
騎士がそういうと、先生は、「そうでしょう、そうでしょう」と、うれしそうにうなずきました。
「男はみんな、そうして大人になるのです」
先生はあごをツンとあげて、宮殿へともどっていきました。
「ううん。そういうものかなあ」
騎士はあたまをボリボリとかいて、ひとりごちるのでした。
だって騎士は知っているのです。
王子さまの先生が、フランクベルト王国をはなれたことはありません。
けれど、さまざまな外国をわたりあるいた、高名な学者であると、ウソをついているのでした。
ほんとうに外国を旅してまわったのは、先生ではなく、先生のお父さんです。
王子さまの先生は、先生のお父さんがのこしてくれた、たくさんの記録をよんだり。
フランクベルト王国で出会った外国人から、はなしを聞いたり。
いっしょうけんめい勉強して、かしこくなったのでした。
「ウソはよくないが、けんめいに勉強することは、わるいことではないはずだ」
騎士は首をかしげます。
「とはいえ、旅に出て、さまざまなひとびとと出会うことは、よいことにちがいない。ううん。ということは、先生のいうことが正しく、先生のいうことにモヤモヤしてしまうことがまちがっているのかなあ」
騎士はふだん、剣のけいこや、どうやって兵士をうごかすか、といったことばかり考えているものですから、ほかのことを考えることが、にがてでした。
そんな騎士を、みんなは『男らしい』とほめてくれます。
ほめられれば、騎士はうれしくなります。
けれども騎士は、つぎのようにもおもうのでした。
「『男らしい』こともよいことだが、『思慮ぶかい』ことや、『知恵がある』こと、それから『こころやさしい』ことも、よいことだとおもうんだがなあ」
むらさき色のちょうちょうだけが、騎士のつぶやきを聞いていたのでした。