8話 なんで皆殺しにしようとすんの?!
村の連中が俺の家を焼き、俺も家族も殺そうとして、俺はリンと一緒に逃げた。
泉へ繋がる川の流れに逆らって、村から遠くまで来たのだ。
ここは平原、少し遠くに街が見える、歩いていけばたどり着けるだろう。
逃げてきた村は森に遮られもう見えない。
とりあえず追手は来ていないようだった。
「……ありがとなリン」
「別に、村のほうがおかしかったからスパイクに味方しただけ。」
俺達はじっと焚き火にあたっていた。
水の中にずっといたから体が冷えていて、危なかったのだ。
木の棒回す原始的タイプな立て方をした火だ。
知識と道具のセットアップは俺、実際木の棒回した係はリン。
焚き火を起こす知識がなければ、体温低下で死んでたかもしれない。
やっぱり前世の経験があるのは強い。
まぁツキにも助けられたけど。
この世界にも月はあるらしく、今日は月明りがあってツキがあった。
もしそれが無ければ焚火を起こすのも厳しかったろう。
「スパイク、これからスパイクのパパ助けるんでしょ?私も手伝うよ」
「いいのか?逃がしてくれただけで十分助かったけど」
リンは俺の手助けをしてくれるようだが、そこまでしてもらう義理は無い。
「ここで関わるのを止めたら、私の誇りは翳る。スパイクを勘違いで甚振ったツケを払うだけ」
子どもが誇りだとか、ツケだとか、そういう事普通言わないだろう。
ちょっとこいつ、おかしいんじゃなかろうか。
まぁあの父親に育てられたのだから早熟でも納得はいく……か。
じゃあ、ちょっとおかしいくらいどうってことないか。
「俺だけじゃ父さん助けんのキツすぎだからな、お前が助けてくれるならありがたい」
「じゃあどうする?どうやって助ける?」
「そうだな………二十秒待て考えるから」
リンはどうやって助けるか?と問いかけてきた。
実際そこが問題だ、俺自身も今のところ思いついてない。
さてどうしよう?
「まず村人を皆殺しに……」
「なんで皆殺しにしようとすんの?!」
リンは俺の提案に疑問があるようだった。
一体何がおかしい。
村人を皆殺しに出来たら、それが一番父さん助けるのには早い。
解りやすくていい作戦だろ。
「だって村人の皆を倒すのって無理だし、そもそも一人も殺さなくたってスパイクのパパ助けられたらそれでいいじゃん」
「いや、皆殺しくらいの勢いでいかないときつい、弱者は人を慮る余裕なんてない」
そう、今俺は追い詰められている。
だから、暴れるしか。
「スパイクを殺そうとしてない人もいたはずだよ?そういう人も殺すの?」
「……そうだな」
リンの言葉で我に返る。
皆殺し、という作戦は無茶というか無謀というか……無駄だ。
村の連中全てが俺を殺すという選択に積極的だったとは思えない、つまり敵じゃない存在もいるだろう。
そんな奴らを攻撃するのなら、俺は悪党である。
悪党になるツケは、本来敵でも何でもない連中から狙われるという形で払う事になる。
「殺されそうになったりパパ攫われたりで、村の人が嫌いなのはわかるけど。復讐が目的じゃないでしょ?」
「……そうだな」
家族を攫われたり家を燃やされたりしていないぶん、リンは俺よりも冷静でいられるらしい。
俺よりも広い視野があった。
確かにこいつの言う通り、父さんを助けるためには皆殺しにする必要なんてない。
なのにそんな選択肢を取ろうとしたのは……私怨だ。
家を燃やされたり、父親を殺されそうになったり、自分自身も殺されそうになっただけで……普通に復讐期になってもおかしくない仕打を受けたからだ。
でも落ち着こう、戦いは最小限でいい。
父さんを助けるのが今の目標なのだ。
皆殺し作戦、は俺の中の選択肢から消していこう。
一旦落ち着くため違う事考えよう……なんか父さん救出とは逸れるけど同じくらい大事な物事ってなんかあるかな。
「母さんの場所がどこなのか、知りたいな」
俺は自然とつぶやいていた。
母さんの所在はわかってない。
「……どうするの?」
リンがたずねてくる。
「今のとこ、どうしようもない」
前世だったらこういう状況で、インターネットとかが使えたがここにそんなものはない。
……とりあえず父さん救出を目指そう。
だって母さんも村での襲撃被害は受けているはず、その結果どうなったかわからないだけで。
となってくれば、父さん救出のためにあの村にアクションを起こしていれば自然と情報も集まるかもしれない。
よし、思考が落ち着いてきた。
ではどうやって父さんを助けよう?
何が必要だ?
……まず武器は必須だろうか。
こっそり救出しに行っても敵と遭遇して戦う可能性はある。
だがリンパパみたいなのが出てきたら、今勝ち目はない絶対無理、死ぬ。
解決策が欲しい、アサルトライフルみたいなのが有れば多分この世界の生き物はだいたい殺せる。
あと仲間を増やしたい、リンと俺だけじゃ足りない。
一つの村を相手どる命懸けの戦いだなんて、俺もリンもしたことが無いのだ。
だから俺らがミスしてもカバー出来るくらい経験が豊富で、なおかつ信頼も出来る人材が欲しい。
それに情報も欲しい、そもそも父さんがどこにいるのか知らないと救出作戦なんてたてられない。
それに、村人の中にどんなスキル持ちがいるのかも知りたい。
村の地形とかも俺は詳しくないから知りたい。
……待てよ、リンは村人のスキルと村の地形については知ってるんじゃないか?
俺より村人たちと仲良さそうだったし。
「……リン、村の地形ってわかるか?」
「全部知ってる」
リンはうなずいた。よし、それならしないといけない事が減る。
「じゃあ大人たちがどんなスキル持ってるか知ってるか?お前のパパだけでもいい」
「知らない。パパもそういう話しなかったし、他所の子に自分のスキルを教える親御さんなんていないし」
どうやら、村の連中のスキルについては知らないらしい。
なら代案考えるか。
「よし村のクソガキ共を拉致ろう」
「っはぁ?!なんで?!」
俺の案にリンはびっくり仰天している。
なるほど、なぜそんな事をするのか理解できないらしいな。
「子どもにスキルの事教える大人もいるだろ?んで、子どもは秘密を我慢できる程痛みや恐怖に強くない」
「もしかして拷問して吐かせようとしてる?」
「そうだ」
情報を集めるのは大事だ、だが俺達の戦力で出来る情報収集なんて子どもを狙うくらいしかないだろう。
「スパイクっていずれ、本当に悪いやつになりそう」
「え」
「だって、酷い作戦ばっかたてんじゃん」
リンがあっさりと吐く言葉が、俺を突き刺す。
酷い作戦バッカリ、酷い作戦。酷く作戦バッカリたてんじゃん。
なんだか、俺にはその言葉が殴られるよりも衝撃的に感じたのだ。
俺は皆殺しだとか、子どもを攫うとか、そういうのばっか考えてると自覚させられた。
転生してから俺の思考は過激になっている気がする、周りの影響なのかそれともこの肉体がそういう肉体なのか。
使ってる脳みそが変わると、前の体から知識を引き継ごうと性格も変わるのかもしれない。
だって脳と精神って関わり密接なんだし。
冷静になれ俺。残虐非道な人間になりたいわけじゃない、必要な事を必要な分やるだけでいいんだ。
皆殺しは不可能だし、そもそも俺の敵じゃない連中まで殺す可能性がある。
子供をさらうのは悪逆だし、村の連中が警戒することで父さん救出が難しくなるかもしれない。
俺の出すアイデアにはただ暴れたいだけみたいなのが混じってるから注意しなければ。
「あ、そうだ、いややっぱやめとこ」
「なに言ってんの?」
村のクソガキを3人くらい人質にして父さんと交換する手を思いついた。
だが攫うまではいけても、交渉の段階で詰みそうだからやめる。
敵の数を考えれば人質連れてる俺だけ狙えるスキル持ってるやつもいるだろうし、どっかで殺されて終わるだろう。
父さんを救出するために捨てていい愚策だ。
いつの間にかあたりがほんのり明るくなっている、夜が明けそうだ。
……よし決めた。
正攻法で行こう。
もっと穏当に情報を集め、装備と人員を揃えたのちに、潜入して父さんを救出する。
出来る限り人は殺さない、という方針でいく。
さてそのためにも……金を稼がねばならない。
強力な装備、優秀な人材、便利な情報、どれ手に入れるにも金が有った方がいい。
ではどうやって金を手に入れるか?そんなの決まってる。
「街へ行こう」
「なんのつもり?」
俺は意気揚々と立ち上がって街に歩き出した、だがそれに続くリンはいまいちわかっていない様子だった。
もしかして、アレを知らないのかこいつ。
「冒険者ギルドだろ、こういう時は」
こういう世界では冒険者ギルドがあるのが定番だ、ネット小説とかだとだいたいそうだ。
冒険者ギルドに登録すると、モンスター退治やダンジョン攻略をこなす事でお金を稼ぐことが出来る。
何よりもいいのが、登録の時住所とか前科をロクに調べられない事である。
だいたいのネット小説だとそうだ、なのでそれを参考にする。
俺達は冒険者になる。
子どもである俺達は「年齢制限があるのでダメ」とか言われるかもしれないが「俺達見かけがこうなだけで成人です」と言えばいいだろう。それでもだめなら見た目による差別だと喚きたててやる。
……いや待てよ、前世ではそれでわりかし通ったけどこっちの世界だと無理か?
前世の世界では、人権や倫理観の発達で差別を止めた方がいいという風潮が広まっていた。
それは素晴らしい事だが、代わりに馬鹿みたいな我儘を押し通すため差別だと言い張るヤツも出た。
例えば映画の子ども料金を大人に対する差別だと言うヤツが大量に出たのだ。
映画館が『日常的出費の多いファミリー層や、お小遣いの少ない子供でも楽しみやすいようにしています』と発表すると、大人や家族を持たない人への差別だと炎上して襲撃され映画館は壊滅した。
ちなみに襲撃犯達は別に映画とか普段見ない連中だったらしい。
問題点はその後、襲撃犯達の罪はやけに軽かった。
何でもかんでも差別だと主張し続ける彼らは色々面倒くさかったのだろう。
そういう世界が俺のいた前世だ。
でも、この世界は倫理というものが全然広まってないかもしれない。
差別が良い悪い以前に、人権意識すらない可能性がある。
真っ当なルールに対して差別だどうこう騒いでも、単に排除されるだけで終わり……か?
そんな事考えてるうちに街にたどり着いた。
そして人にたずねると、やはりこの世界には冒険者ギルドがあるらしい。
冒険者ギルドはいくつもあるそうだが、一つのギルドが突出して強大なのだという。
あまりにも力を持ちすぎていて、”冒険者ギルド”って言葉は基本的にそこについて使われる。
まるでそこ以外に冒険者ギルドが存在せず、他のところと区別する必要などないかのように。
教えて貰ったバカデカい冒険者ギルドの建物に入ると、めっちゃ人がいた。
むさくるしい男性から、若い女性、老婆、構成する面子は多種多様だ。
俺とリンの姿をちらと見た冒険者らしき連中は、子どもがここにいる事を全然疑問にも思っていなさそうだった。
とりあえず、この世界だと子どもが冒険者ギルドをうろつくのは疑問視されないようだ。
俺達以外に子どもがいないから当たり前ってわけでもないだろうが。
「強そうな人いっぱいいるね、ここに来たのは助けてくれる人を探しに?」
リンが俺に質問してくる。だが、惜しい。
「それはもうちょっと後でする事」
ここで俺達の仲間になってくれる人を探す、というのもいいだろう。
だがしかし、それはあくまでも後の話だ。
まず冒険者になって、金を稼ぐのが先である。
今は人を雇うお金払えないし。
そして受付のお姉さんに冒険者ギルドに加入したいと告げる。
「君のいう……冒険者になるっていう仕組みはもう無いよ」
すると受付の人はあっけからんと、俺にとってはあまりにも衝撃的な事を言い放つ。
「はぁっ???!!!!」
つい俺は叫んでいた。