4話 スキル発動、本当にゴミなのかこれ?
俺は母さんとともに庭で花の世話をしていた。
母さんは俺に色々と経験を積ませる方針らしく、家事に参加させてくれる。
そうしている中で色々な事を聞いた。
今俺が住んでいる場所は、森に囲まれた田舎である事。
この世界に生息するモンスターの特徴。
”スキル”は色々な人が持っているモノがあるし、世界中探しても一人しかいないのもあって、珍しさがぜんぜん違う事。
ちなみに俺の<水ひっかけ>はレアかどうか不明らしい。そのスキルの持ち主だと判明した瞬間殺される事例が多いため、計測がやりにくいそうだ。
ソロで色んなダンジョンに潜っていた母さんの知識量は凄まじくその全てを吸収する事はまだまだ出来ないだろう。
少し前に、俺もお返しに何か教えてあげたくなったので
「俺、前世覚えてるんだぜ」と教えてあげると
「そうなのねーすごいわねー」と返された。信じて貰えなかった。
さて、花の世話も佳境となった。後は手元のじょうろから余分な水を捨てれば終わり……
「……ッなんでこんなところに?!」
母さんが突如叫ぶ。
俺は母さんを見て、そして母さんが何かを見ているのでそちらに視線を向ける。
イミテモがいた。
うねうねと動く、人を包むこむ程大きい半透明ゼリーみたいな見た目のモンスターだ。
擬態能力を持ち、人間や、花瓶や、石ころなど様々なモノに化ける。
今は、人型になっていた。
半透明なのは形が変わろうと変わらないので、人間なら見分けがつく。
しかし、危険な生物だ。
強いうえに、人間を捕食するのだイミテモは。
冒険者や傭兵といった荒事に長けた連中の中で、上位層にたどり着けるヤツしか対処が出来ない存在なのである。
街中や村中で見かけたら速攻駆除しないといけない、そういうモンスターである。
そうそう現れるものじゃないらしいが、運が悪いものだ。
「母さん、どうするの?」
「先手を取る。アイツに襲われるより速く」
母さんはイミテモに駆け出した。
『イミテモは武器を使った戦いに慣れた個体が多いわ。殺し合いを素手でするなんて普通いないからね。だから素手のほうがむしろイミテモが慣れてない分戦いやすい事もある』
以前そんな事を母さんは言っていた。
だからなのだろう、母さんはイミテモに素手で殴りかかっていく。
この前見せてくれたあのボロナイフは取りだそうとも考えていない様子だった。
そして母さんとイミテモの打撃の応酬は凄まじかった。
母さんがイミテモの蹴りを腹に受けて、前のめりに倒れたかと思えばそれはフェイントであり前宙のような軌道のケリがうなる。
そんな激しいアクロバティック戦闘を当然の顔で母さんはこなす。
スキル<ステゴロ>と<曲芸格闘>母さんは持っている。納得の動きだ。
しかしイミテモも負けてない。
少しだけ上体を反らして母さんの攻撃を躱し、逆にしなるパンチで反撃する。
母さんは右肘で軽く受け止めながら左ローキックをかまそうとして……そんなハイレベルな超人的な格闘戦が続く。
母さんの打撃がぶち当たる度、イミテモの不定形な体は飛び散って蒸発するように消滅していく。
母さんの方が優勢、このままなら勝てるだろう。
だが、イミテモは思い切りバックステップで母さんと距離を取った。そして風景に溶けていく。
「何それ……?見たことないわね、そんなの」
擬態能力は大したことが無い、そう母さんは言っていた。
だがしかし、明らかに今戦っている相手はそんな事が無い。
完全に風景に溶け込み、イミテモは見えなくなった。
まずい、何か特別な個体らしい。
「スパイク、お父さん呼んできて。私だけじゃだめかも」
母さんが俺に、父を呼べと頼む。
そんなにまずいのか。
……いや、たしかにまずい。イミテモの気配はどこにもない。
つまり致命打をいきなり母さんが食らう可能性もある。
まずい、このままだと母さんが殺されるかもしれない。
父さんを呼びに行けと言うのは、イミテモから逃げろという言葉の言い換えだろ。
だけど嫌だ、母さんに死んで欲しくない、どうする?どうすればいい?
今世で出会って大した時間は経ってないけど、母さんを守りたいと俺は思っている。
血のつながりとかじゃなくて、母さんが俺を思ってくれたからそれに応えたい。
でも俺に何かできる?
「……じょうろ」
ふと、俺は手に持ったままのじょうろに気づく。
花の世話をしていたから持っていたコレ、水は中にあった。
……だから、試したくなった。
「……イミテモは風景に溶け込んだという油断があるだろう。だけど機を窺って母さんの隙をつく気だ。下手に母さんの攻撃を受けると大ダメージだろうからな」
俺は考える。
俺の思いついた行いが、母さんの邪魔にならないか。今それをすべきなのか。
「計算すべきものは単純、後は俺に備わった力を……」
俺は"それ"を使いたいと心の底から願う。
どこかから力が与えられる。
勝手に腕が、動く。
右斜め、俺が右腕を真横に伸ばしたのを0とすると角度は43くらい。そちらに向けじょうろを振ると、中の水が飛んでゆき、見えない何かにひっかかった。そこがイミテモの位置だ。
<水ひっかけスキル>初めての発動であった。
「うぉおおおお!」
母さんが叫び、一瞬でイミテモがいるであろう虚空に接近し殴りつける。
あたりにイミテモの肉片が爆散して散らばった。
俺と母さんはイミテモに勝った。
水で俺がイミテモの場所を示し、母さんがそこに攻撃を加える勝利だ。
飛び散って溶けてゆくイミテモの死体を見つめる母さんの背中が、なんだかかっこいい絵になっていた。
そして、母さんは振り返り
「偉いわスパイク!よく頑張ったわね!」
俺を抱きしめた。
照れる。一応俺は実年齢大人だ。
「俺もう大人だからそういうのやめろよ。前世込みで実年齢高いんだぜ」
「もう!あなた照れなくていいのよ?!私を立派に助けたんだから!」
と言われても照れる。
それと、こんなに喜んでいていいのか?という疑問があった。
「母さん。さっきのイミテモって普通来ないんだろ?なんでここに来たんだろう」
「さぁ?まぁでもいいじゃない!」
母さんは俺の活躍に大喜びで、俺の疑問に答えない。
俺もなんとなく、まあさっきの妙に強いイミテモが何だったのかというのは後で考えればいいやと感じる。
ただ単に”偶然強いのがいただけ”という可能性も高いしな。
とりあえず母さんと俺の命が助かったし、俺は初勝利。めでたいのだ。素直に喜んでおこう。
そしてこの日、晩御飯は豪勢だった。
ちなみに後回しにした疑問はイミテモの事だけじゃなくもう一つあった。
夜、ベッドに入って俺はそれを考える。
「……普通に強くねえかな」
神は水ひっかけスキルをゴミと言った。だから俺はたぶんゴミなんだろうと思ってた。
医者も母さんも父さんも、ゴミスキルだと思ってた。
でもこのスキルって本当に、ゴミか?
今日のイミテモ戦で活躍してたし、普通に強いんじゃないのか?
補足情報
<イミテモ> タイプ;モンスター。 危険度;個体による
特徴;
アメーバのようなうねうねした半透明生き物。
人を飲み込む程度にデカい。雑食。
学習能力が高く、結構なんでもこなせる。
幼体の時期から飼って躾ければペットにも出来る。
勿論大半の地域では禁止。
許可されている地域でもルールは複数ある、まず飼育届出を出し、イミテモをペットだと一目でわかる姿にしなければならない。
野生と見分けがつかない状態でイミテモを外出させ、他人に殺されたとしてもそれは飼い主の責任として処理される。
その他にも、食べさせていいエサの指定や、学習させねばならない知識等多数のルールがある。
イミテモをペットにするのは本当にめんどくさい。
だがそれでもペットとして飼う人間はそこそこいる。
ペットとしての振る舞いをしていればエサが貰える、そんな学習させればわりと安全。
子供の遊び相手や家事の代行も可能。
学習能力が高い事に手間分以上の価値を見出す人間も多い。
逆に人間を食料だと学習させてしまって、さらに戦闘経験も積ませるととんでもない危険な生き物になる。
見た目からだとどの程度の強さか判別しにくい事もあり、イミテモのトラブルはベテランが対応すべきである。
スパイク達の前に現れたイミテモが人型だったのは、その形態がベストと学習した結果であろう。
つまりイミテモは”人型”を強いと認識する出来事があったと推察できる。
イミテモがこれまで捕食してきた中で、最も強いヤツが人間だったのだろう。




