3話 スキルについて
「うぉお!」
俺は家の中で何も無い場所に向かってパンチやキックをしていた、たまにステップによる回避動作も織り交ぜる。
ここ最近はコレを毎日やってる。
前世での戦闘経験は、一応スポーツとはいえある。
それを参考にし、俺は必死で鍛えていた。
マジで今の状況をはやくどうにかしないと世界に殺される。
俺のスキル水ひっかけは、世界有数のゴミスキルらしい。
持ってるやつを見つけ次第殺すとまで法律に記された国もあるらしいのだ。
つまり俺はこの世界で生きる手段を早く用意しないと、マジでまずい。
忌み嫌われてるスキル持ちだということは、なにかしら特別でなければまともに生きていけないのはずだ。
就活の時に書類審査で全落ちしてバイトにも受からないのかもしれない。
というわけでまずは鍛えている、今はこの世界の知識も全然ないし、とりあえず基礎的な能力をあげてる。
そういえば俺は今五歳ほどだが……俺が転生してくる前までのこの体は抜け殻みたいな生態だったらしい。
ぜんぜん喋らないし感情も希薄だったそうだ。
ゆえに、転生してきてから一週間ほど経ったころ、喋れるようになった俺の姿に家族はすごく驚いていた。
その時の様子はこんな感じ↓だった。
「わたくしありがたい事に、会話という技能を習得いたしました」
「な、なんだって?!スパイク!お前喋れるようになったのか?!おい母さん!なかなか言葉を話せるようにならなかったスパイクが!」
「父上母上、これにより私は先日よりも遥かなる飛躍を遂げたわけです。これは非常に喜ばしい事態でありながらも、慢心せず研鑽をつみたい所存でございます」
「まぁスパイク!言葉遣いおかしいわよあなた。もっと子供っぽくしたほうがいいわ」
ともかく、これならもっと俺は先へ進める。
――――――――
「母さん、スキルについて教えてください」
「いいわよ」
母さんの家事の合間、俺はスキルについて聞く事にした。
こうやって喋れるようになってから俺は色々な質問を母さんにしている。
父さんにも聞きたい事があるんだけど、仕事で外出していることがおおくて結構タイミングを合わせるのが難しい。
「スキルというのはね、人の能力に付け足されるものなの」
「つまり……どういう事です?」
母さんは快く俺に講義をしてくれる。
「例えば私は<ナイフ・切断>っていうスキルを持っているの」
母さんは大きな石と、ボロいナイフを懐から取りだした
なんだそのボロナイフは。まさかこれ料理に使ったりしてんのか?
「このナイフは対強盗用よ。十人くらいこれで殺したわ」
この世界では盗賊が結構いるらしいと以前聞いた。
危険なモンスターとかもいるらしいし、普通のファンタジー程度には治安が悪いのだろう。
「なんでボロボロなヤツ使ってるんですか」
「ボロボロになった程度で捨てたら勿体ないじゃないの」
勿体ないからって命預けるものをそんな適当なものにするなよ。
そうツッコミたいが、大人しく一旦講義を聞く。
「話を続けるわ、普通こんなナイフじゃ石ころにすら歯が立たないわよね?」
母さんはナイフの刃をカチカチと石をにあてると、音が打ち鳴った。
本気で石を切ろうとしたら、そのぼろナイフの方が壊れるはずだ。
「でも私が生まれつき持ってる<ナイフ・切断>スキルを使うと……」
ナイフが俺の生まれ故郷である呪われた土地のような雰囲気を放ち始めると、スパリと料理でもしているかのように石ころが切れた。
先程と切り方は一切変わってない。過程は同じなのに結果がまるで違う。
明らかに異様な力が働いていた。
それがスキルか。
「これがスキルを重視される理由。スキルが無い人間は、スキルを持った人間の分野で戦っては絶対に勝てない。だから皆スキルの習得を目指す」
「……スキルの習得?」
「スキルは生まれつきだけじゃなく、後天的にも身につけられるわ。さっきの<ナイフ・切断>もナイフで物を切りまれば習得出来るわよ、私は生まれつき持ってたけど」
スキルの習得、俺にとっては良さげな話だ。
「じゃあ俺も努力すればいいのか?」
母さんは首を横に振る。
「普通の人間は2個くらい後天的に身に着けられる。でも<自然破壊>を得た人間は<動物と仲良し>を習得しにくいみたいに、持っている事で他のスキル習得を阻害してしまうスキルがあるの。<水ひっかけ>を得た人は、一つもスキルを得られないの」
そういえばたしか医者の人も、スキル習得が俺には無理と言っていたな。
よし、聞いたことをまとめよう。
「つまり俺はゴミスキルを生まれつき持っていて、有能スキルを持っている人間が偉い世界なのにまともなスキルゲットは不可能って事か」
絶望的じゃね?
――――――――――――――――――
母さんの話を聞いた夜、どうしようかと俺は家の中をうろついていた。
今回の生を諦めたわけじゃないが、今後について迷っていた。
前世ではまぁ良い生まれじゃなかったが、まだ希望があった。
だって五体満足健康だったし、成長すれば状況を変えられるという確信を持てたからな。
でも今回は、生まれた時点で俺はゴミスキルというどうしようもないデバフを背負っているらしい。
どうしようもないものを、どうしよう。
ふと、本棚に気づいた。
この家にもあるんだな。
使われてる文字がなぜか日本語だったので、普通に本の背表紙のタイトルが読めた。
並んでるタイトルはこんな↓感じ
『子供がゴミスキルの場合、水ひっかけスキルの子どもを殺す前にこれを読め!』
『スキルなしでも使える技能』
『水ひっかけスキルについて』
『子供が将来劣等感を抱いて自殺しそうな時に読む本。健全に育てろ!』
『水の強さ』
……これを揃えたのは両親だろう。彼らなりに、俺の能力について考えようとしているらしい。
俺は前世であまりいい親子関係じゃなかった。
父は違法薬物の輸送をしていたから捕まり打首になって、母は人攫いと人身売買に手を染め火あぶりになった。そして両親は俺を愛してなどいなかった。
「……よし、頑張ろう」
不思議となんだかやる気が出た。
スキルがゴミならそれでもいい、前世だってゲームみたいなスキルは持ってなかった。
っていうか、俺は転生者なんだからスキルがゴミでむしろ当然なんじゃないか?
数十年の経験を既に蓄積した俺は、同世代より初期能力が高いはずだ。
スキルがゴミで、ハードモードにならないとむしろ”ズルい”って事なんじゃないか?
俺のためを思って用意されたたくさんの本を見てから、不思議と思考がポジティブになっていた。
頑張ろう。