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23話 何の結末も見ないまま、俺達は

 外からの攻撃は今も続いている、部屋はずっと揺れていた。

 コレはどう考えても俺を狙った攻撃だ、俺は懸賞金かかってるしな。

 だがいったいなぜ俺の居場所がバレたのかわからない。


 明確なのは、このままだと俺達は死ぬという事。

 この部屋は妙に頑丈なようだが、絶対壊されないって程でもないだろう。


 でもどうしよう、こういう時便利な父さんの<転移>はチャージ式だ、つまり無限に使えるわけじゃない。


 下手なタイミングで使っても、追いつかれてしまう程度の距離で<転移>は打ち止め、なのについさっき大量使用したばっかり。


 父さんが「もう少し、チャージに時間がいる」とつぶやいた。やっぱり<転移>には頼れない。


「ちょっと行ってくるわね」

「え」


 いきなり母さんが部屋の外へと飛び出した。


 追いかけそうになる俺を、父さんが掴んで引き留める。

 リンもサキも、母さんの援護にいこうとしない。


「なんでだ?お前ら、外に敵がいるんだぜ?!1人だけで母さんを……」

「落ち着けスパイク。あの約束は感傷だけが理由じゃない。サキもリンもわかってる」

「なっ?!」


 父さんの言う通り、俺以外は母さんの行動に疑問なんて無さそうだった。


 一旦落ち着こう、俺。

 多分これ、俺だけがなにかしらをわかってない状態だ。


 ………状況を整理していこう。

 まず母さんがいきなり、母さんと父さん以外は戦いをしないと約束してきた。

 あの約束って、あの状況で切り出すのは不自然だった気がする。

 敵の気配に気づいてたから、母さんは少し急いだのか。


 しかし、約束の内容がピンとこない。

 ”俺とサキとリンは戦わない”という約束にした理由はなんだ?


 俺については、能力が正面戦闘に向かないとか、子供だからとか、戦ってほしくない理由がわかる。

 リンに戦ってほしく無いのもわかる、あいつ強いけど子どもだ。

 だが、サキは別に戦ってもよくないか?ベテランスパイなんだし、戦闘能力も一般よりあるだろう。


 思考がぐるぐると、廻る。あぁだめだ。

 今の俺では疑問の答えを導き出せない。


 だが、皆が今の行動を考えて選んでるとはわかる、とりあえず合わせよう。


「おおっと?!お前はベテラン冒険者の………!なぜ行方不明になっていた?!」

 外から知らない男の声がした。


「田舎暮らししてたのさ、冒険者時代の私はあまりに目立ちすぎてせわしなかったから。レストランでランチタイムしようとしたら、周りの客が全財産はたいてでも依頼をしようとしてくるんだ、そりゃあ引退する」


 男の声に返すのは母さんの声。


 あそこまで攻撃的意思が乗った母さんの声は、初めて聴く。


 どうやら外で、部屋に攻撃を仕掛けて来たヤツと母さんが喋っているようだ。


 とりあえず俺達は黙って行く末を見守………いや、見てはないか。俺達は行く末を聞き守る。


「ククっ、冒険者に復帰したのか?」

「ふざけるなよ下衆共。私の別荘壊そうとして楽しいようだな?」


 母さんがしれっと下衆”共”と言っている、つまり攻めて来たヤツは、一人じゃないっぽいな。


「違う違う。スパイクが潜伏してそうな家を片っ端から攻撃して炙り出そうとしてるだけだ、懸賞金で弁償するさ」


 ……とんでもない会話が聞こえてきた。

 俺が潜伏してそうなところをとりあえず攻撃するって言ったか、敵は。


 あぁ、そうか、二つの疑問の答えがいっぺんに理解出来た。


 まず、みんなにわかってる事が俺に理解出来なかった理由。


 それは簡単だ、前世だったらありえない理屈で敵が動いてたから。

 懸賞金がかかった犯罪者をとらえる手段に、”いてもおかしくはない、程度の場所に攻撃を仕掛ける”なんて選ぶヤツはそうそういなかった。


 しかも敵のやってる攻撃は、食らったら普通死ぬって振動でわかるレベル。


 そういえば無茶苦茶この世界って治安が愉快なんだった、転生直後にわかってた事なのに俺はいまいち理解しきれてなかった。


 ………世界観の認識にいまいち周りとズレがあるのは、結局俺が異世界人という事なのか?なんて疎外感は一旦置いておこう。


 そして、約束の意図について。

 たしかにアレで俺達が外に出るのを防いだのって、正しい。


 そもそも相手がこの部屋を攻撃したからって、俺の存在を確信してるわけじゃない。

 例えてみるならアレだ、虫がいそうな物陰に殺虫剤をふる時。


 虫がそこにいるって確信してるから殺虫剤使ったとは限らない。

 ただし、殺虫剤に耐えかねて出て来るんじゃないかと注意は払う。


 敵がやってるのも似たような事だ…………指名手配犯がここにいるかもしれないから適当に攻撃をしかけて出て来るのを待ってる。


 で、もじ俺やリンが出たら指名手配犯がここにいるのが確定。

 俺とサキとリンは新聞でツラが割れてるからな。

 そしたら敵は本気になる。


 害虫が目の前に現れたら、殺虫剤を直撃させようと躍起になるように。


「ここに新聞に載ってたヤツはいない、帰れ」


 だから母さんは、やってきた敵と一旦戦わずに追い返そうとしているのだろう。

 指名手配犯がここにいると、気取られないように。


「一応部屋の中を見せろ」

「法的手続き踏んだ憲兵さんになら屋根裏まで見せてあげるんだけど………お前らみたいなの入れるとポイントカードとかくすねられそうだしなぁ」


 ポイントカード、あるのかこの世界。

 …………いや驚く事もないか、前世でもアナログメインな時代からあったものなんだし。


「うーむ………だがお前が引退してからの時間とスパイクの年齢を重ねたら、お前の息子がスパイクだっていう可能性は高い」


 思わず息を呑む、敵の考察は正解だった。


「どうやら下衆らしい行動パターンにハマったな?嫌いな相手の行動を悪意で解釈し、悪党だと仕立て上げ、相手への加害を正当化………完全に下衆の行いだ」

「邪魔をするなら殺す」

「おや、殺される程のことを私はしたんだろうか?でもごめん、覚えてない……ちっぽけなことだったんだろうな」

「………お前は全盛期に仕事を成功させすぎた。あの時他に仕事が回らず食うのに困った。それで恨んでるやつが多い。俺の後ろにいるヤツも、そうだ」

「自分の力不足を他人のせいにするとは豪胆な心だな、失業手当払ってやろうか?」


 母さんは敵への侮辱を積み重ねていく。

 外の様子は見えないが、相当怒らせているのではないだろうか。


 そしてやはり音は激しくなった、戦いが外で始まったようだ。


 母さんが大丈夫か不安になって来た、やはり援護に行くべきではないか。

 この状況で俺は役に立たないが、リンならとりあえず助けになれるだろう。


「ほらな?お前達に俺らがついていくと、余計に危険を抱える事になる」

「え?」


 突然父さんからかけられた言葉は、どういう事なのかよくわからなかった。


「敵が来た理由は母さんが主な理由だ、お前じゃない」


 父さんが続けた言葉もよくわからない、俺を狙って敵が来たわけじゃない?


「敵が来たのは母さんがここにいるからって話おかしくないか?最初母さんがここにいる事に敵は驚いてたぞ。つまり、いるって知らなかったんだろ?」

「”七割くらいの確率でここにいる”程度の確信だったんだろ」

「あぁなるほど」

「敵の理屈はこうだ、スパイクがいるかもっていう言い訳使って母さんに危害を加えられたらヨシ、運良く賞金首をゲット出来たらなお最高」

「………」

「そういうわけで、俺達はちゃっちゃと別行動をすべきなんだよ。俺たちがいるとお前達の邪魔になる」


 父さんの話の結論は、速く別行動を始めようという事だった。


 別行動、それ自体に異議はない。

 仲間が増えすぎると逆に、柔軟な動きが取りづらくなるしな。

 だが………今そんな話をするのは、違和感がある。

 何かしらを覆い隠そうとしているかのようで。


「さて、今からお前たちを俺のスキルで逃す。後はサキさんの指示に従ってくれ」

「”後は”ってなんだよ、父さんはどうするつもりだ」

「母さんのとこに戻って援護する。そこでお前達とはお別れだ」


「……皆がいっぺんに<転移>で逃げる事は出来ないのか?」

「絶対安全なところに行けるほどの弾数がない。だからみんなで<転移>してもある程度自分達の脚を使うことになるが………この人数じゃ目立って戦う羽目になる。どうせ戦うなら俺と母さんはここに残って危険な連中を引き付ける。」


 なるほど、そういう事か。


「囮になるって事か?それ死ぬかもしれないだろ」

「こういう時に命懸けで子どもを守るつもりで生きてきたんだぜ」


 父さんの言葉はポンポンよどみなく出て来る。

 だが、それは完全に覚悟の決まった者のする事で………父さんの作戦に従えば、父さんと母さんが死ぬリスクは結構高いのだと俺に悟らせる。


 両親の死。今、死について敏感になっている俺にとっては耐えがたいものだった。


「そんな必要無い、母さんも父さんも、俺を守る必要なんて無い」


 だからつい俺は、ただ心根をぶちまけてしまった。

 そうして状況が好転したりはしない、単なる癇癪でしかない。

 自覚があるのに、止まらない。

 止まる気も起きない。


「ん?」

「俺は前世の記憶がある。つまり実は大人だ」


 俺が放つ発言は、この世界に馴染めていないと感じたから出せたのだろうか。

 自分が異世界から来たと部外者と感じたからがゆえの……?


 それとも、生涯の別れになるかもしれないから真相を告げたかったのだろうか。


 とにかく言いたい事を言う。


「なに言ってるんですか?前世?」

「スパイク、前世の記憶は勘違いっていうのが定説だよ」


 サキとリンは俺の言葉をまるきり信じる事は無かった。

 神の存在が広まっていても、輪廻や転生が信じられているかは別の話だからな。

 だから俺に驚きはない。


 ただ、二人とも俺の発言に深い意図がない考えてるような表情だ。

 なんかごめん。

 別に深い意味は無く、単に真実を告白してるだけだ。


 だが、父さんだけは「へぇ、転生か。どうりでやけに賢いと思ったぜ」素直に信じた。

 よかった、話が早い。


「つまり、父さんも母さんも命を捨てる必要は無い。俺は…………転生してきたんだし、考え方次第ではそもそも二人の子供かも怪しい」


 俺はあんた達の子供じゃない、そんな事言いたくなかった。

 だが、俺が彼らの子供だから彼らが死ぬことになるのは耐え難かった。


「父さんは子どものために死ぬって言ってるんだ。でも俺は大人だ、大人を守るのは変だろ?」

「つまり友達か」

「へ?」


 父さんの返答は予想外で、俺は一瞬硬直する。友達?


「お前が俺等の家族じゃないなら友達だろ、そんで俺は友達のために命賭けるぜ。母さんもそうだ」

「……だけど」

「友達のために戦うなんて、実に健全だろ?」

 父さんは俺の説得を聞かない。


 ふと、声が耳に入る。

 忘れるわけが無い声だった。

 それは外からの声だ。


 外でいまだ続いている戦いの中に

「うおっ!」

 という男の短い叫び声があった、母さんと罵り合ってたのとは違うヤツの声。

 それが、やけに気になる。


 あぁ、今日は色々と無茶苦茶色々起きるから色々考えて感じていろいろいろいろあぁもう!!!


 父さんと大事な話をしている時だってのに、別の大事な事が起きやがった。

 今のは、リンの父親の声だった。


 リンの方を見ると、俺と同じ事に気づいてたらしく目があった。

 だよな?今の声、あいつのだよな?

 お前もそう思うなら……リンの父親が生きているかもしれない。

 つまり、とんでもない敵が生きてるかもしれないのだ。


 しかしなぜどうやって、明らかに死んでたはずなのに。

 仮に生きてたとしても、どうやってここまで来た?<転移>を父さんが取り戻した以上あいつは<転移>を使えないはずだ。


 別人と考えた方が可能性は高い………いや、待てよ?

 俺が指名手配されるまで速すぎるとか、そういう違和感がある。

 でもリンの父親が絡んでいたとしたら、色々納得できないか?


 まずあの人は俺が<水ひっかけ>を解放させたのを目撃してる、手配をかける材料としては十分だ。

 んで、あの人英雄とか言われてるらしいし、人脈を活かして手配書をスピーディに発行させる事だって可能じゃないのか?


 状況的に考えて、リンの父親は生きている可能性が高いんじゃないか?


 リンともう一度見合う、やっぱり外に出て確認だけでもした方がいいんじゃないのか?


 もしも本物がすぐそこで戦っているならば、父さんと母さんに任せて逃亡する事が”二人が死ぬかも”程度のものから”二人は死ぬ”という事に変わってしまう。


 それ程あいつは強かった。


「ダメだ、よくわからんが外に出ようとしてるだろ」

「ダメです。リンさんの父親が死んでるか見に行く意味はほぼない」


 だが、父さんとサキは俺とリンを止める。

 リンも俺も、外に出ようか迷っていた。


「俺達は戦わない。ただ確認だけは、させて欲しい」

「リスクが高い、どう考えてもあの村に落ちてたヤツは死体だっただろ」


「私のパパが生きてるなら、いつか戦いになる。確認だけでもしないと」

「”今”戦いになったら危険すぎます」


 父さんは真っすぐ俺を見つめる。


「父さん?」

「気になることや大切なこと、何もかも見なかったフリして逃げられるようになりなさい。お前の人生にはどうしようもない事が次々現れるはずだから」


 父さんが俺とリンを一瞬で掴んだ、その瞬間に景色が変わった。

 ここは、外だ。

 街はずれというヤツだろう、周りに人がいない。


「父さんの仕業か」

「あぁ、だいぶチャージできたからな」


 なにも驚く事は無い、父さんなら<転移>で俺達をそもそも戦いに干渉できない位置まで移動させられる。


「母さんはッ?」


 母さんはどっちの方角だろうか。


 すぐにわかった、遠く………街の方で爆発が見える。


 いや、爆発以外にも人を死なせる威力の現象が色々起きている。


 炎や氷、雷、矢、たくさんの攻撃が一点を集中的に狙っている、だがそれら全てが不自然に消えて行く。


 あれらは母さんへに向けられた攻撃が、母さんの手でかき消されているという事なのだろう。


 戦いが起きている証が派手に生まれて消えて、また新たに生まれる。

 母さんが敵を苦戦させている証拠でもあった。


 あんだけの攻撃を受けながら生きてる母さんは、間違いなくこの世界において強い。

 村での戦いにつれていけてたら間違いなくもっと楽だったのだろう。


 少なくとも陽動は母さん一人で確実にやりきれた。

 俺とリンでやった陽動を綱渡りだとすると、母さんの場合は自動車が余裕で走れる大橋を悠々自適に歩くらいの安定性だ。


 今、気づいた。

 父さんの救出、母さんに最初っから全部任せておいたらもっと良い結末だったんじゃないのか?


 村人たちとあんなに殺し合いをしないで済んだもしれないし、リンの父親を殺すような事態にならなかったんじゃないのか?

 母さんは俺以上にいい解決策があって、じっくりと準備してたんじゃないのか?


 今こうなっているのは、俺のせいなんじゃないか?


「さて、すぐに戻って母さんの援護しないとな」


 父さんはあの場所に戻るらしく、手を組んで伸ばしてストレッチしている。


「………父さん」


 俺はなんと言葉を続けたかったのだろう、ごめん、だろうか。

 俺が最初から何もしなければ、こんな事態にはなっていなかったのにって。


 だけどごめんなんて言う前に、

「スパイク、お前って本当の名前はなんて言うんだ」

「え?」

 父さんの問いかけで俺は止まった。


「前世があるんだろ?その時の名前はなんだった?」

「それは………」


 前世の名前なんて、わからない。


 俺の前世記憶は中途半端にしか残っていない、転生の時に一部が欠けたらしい。

 スパイクという名前がしっくりくるから、気にしたことはないのだけど………でも、答えたい。

 俺のために命を賭けてくれる人から聞かれたのだ、そのくらいは。


 …………は?


 忽然と父さんが消えていた、<転移>で戦場に向かったのだろうか。

 じゃあなんだ、さっきの質問は。


「俺の隙を作った……?」


 父さんからしてみれば、もしも俺が、<転移>の発動タイミングを読んでひっついて戦場に逆戻りしよう、なんて思ってたら困る。

 だからあえて、俺にあんな問いかけをしたのだろうか。


 それとも、ただ本気で”友達”の名前を聞きたかっただけなのだろうか。

 でも俺が答えないから痺れを切らして〈転移〉した?


 わからない。


「スパイクさん、逃げましょう」

「………仕方ないよ、スパイク。」


 サキとリンが、俺を呼ぶ。

 ………そうだな、俺達はもう進むしかない。


 今から町に戻れば、母さんも父さんをより危険な状況にしてしまう。


 俺がいないのなら適当なトコロで二人とも戦線離脱していいのに、俺達が町に戻ったら逃げる事も出来なくなる。

 俺を守る以外の選択肢は、彼らにないからだ。


 だんだん落ち着いてきた。

 今、取るべき選択肢はここを出る事なのだ。それがよくわかる。


「リン、サキ、もう大丈夫だ、俺は落ち着いた」

「状況が変わった以上行動も変えないとね」


 リンもだいぶ平静を取り戻している。

 自分の父親の生死を確かめられなかったのに切り替えが早い、感心する。


「次の目的地は………サキが決めてくれ、俺等より地理詳しいだろ?」

「わかりました、街道を逸れますが北北東へ向かいましょう」

「よし」

「それでは出発ですね」

「あぁ」



 サキは、ポンっと石ころ形態になった。

 俺はサキを手に取り、ポケットに入れる。


 ちょっとだけハミ出しているが、わざとだ。

 こうしないとサキが視覚情報を得られない。


 俺達は、歩き出す。

 父さんの真意、リンの父親の生死、色んなことを確かめないまま。


 母さん達の戦いにまだ終わる気配はなさそうで、音が聞こえてくる。


 頃合いを見て<転移>を使えば二人は逃げ切れるかもしれない、でもそこまで保つかは直接戦いを見てない俺達にはわからない。


 だけど戻っちゃいけない。

 何の結末も見ないまま、俺達はこの町を後にした。

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